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日本「平和強国」への夢 #1

はじめに


2010年に出版された中国人民解放軍上級大佐で国防大学教授の劉明福氏著中国の夢は「ポストアメリカ時代の大国的思考と戦略的位置づけ」と、アメリカンドリームという言葉を違う意味で引用して、今周期最後の覇権国家アメリカに見習い、そのアメリカを如何にして超えるかを論じたものである。中華民族がチャイニーズドリームを追求する起点を2010年としたのは「アメリカを追い越す準備が整ったから」とインタビューで答えている。

2012年に中央委員会総書記と軍の党中央軍事委員会主席に選出された習近平氏は、「中華民族の偉大な復興の実現が、近代以降の中華民族の最も偉大な夢だと思う。中国の夢とはつまり人民の夢であり、人民と共に実現し、人民に幸せをもたらすものだ」と中国の夢を語った。

習近平主席の中国の夢と劉明福氏の中国の夢と同質のものだ。就任当初の演説では「みんな中国の夢を議論しているが、私は中華民族の偉大なる復興、すなわち、中華民族にとって近代以来最も偉大な夢だと考える」、そして実現すべき目標を「富強・民主・文明・和諧的な社会主義現代化国家を建設すること」と宣言した。

さらに劉明福氏は2020年に「中国「軍事強国」への夢」を上梓した。習近平主席が目標とする富強への具体的な提言であり、台湾統一の具体的なシナリオも記述している。また軍民融合や科学技術の振興は習近平主席の中国の夢を意識した議論だろう。中国は武威による覇権の奪取を明確にしている。

隣国はこのように国家の大経綸を示している。中国共産党は中国統治において様々な課題を抱えてはいるが、定めた目標はしたたかに達成するだろう。中国の21世紀は、アジアだけでなく世界の覇権を手中に収めることは、―条件付きではあるが、間違いないように思われる。

そのような状況であるにも関わらず日本では、残念ながら百年の計を語る政治家も学者もいない。日本が19世紀、20世紀の自己救済的な国際社会の中で辛うじて植民地化を逃れたのは、江戸末期の百家争鳴であった。

そこで、しかたなく僕が国家百年の計を語ろうと思う。タイトルの通り日本は21世紀、平和強国を目指すべきだ。平和強国?という方も多いだろう。明治維新後日本人は、軍事強国になっても経済強国になっても幸福ではなかった。だから平和強国になれば真の幸福が得られるはずだ、ということだ。

文明の法則


文明史には盛衰の周期があり、それは1600年で還暦するという法則を文明史研究家の村山節(みさお)氏は発見している。氏は世界史の年表を作成する過程で盛衰する東西の文明のパターンがあるという説を1984年に「文明の研究 歴史の法則と未来予測」として発表している。これは科学と言えないが、歴史のトレンドまたは流れを言い当てていると思う。まずその法則を大まかに説明する。

上部構造


文明には800年間の準備期(低調期)と800年間の文明期(高調期)があり、100年間の移行期を経て文明の盛衰が交替するという。西暦400年から西暦1200年は東洋文明が文明期となり、西暦1200年から西暦2000年は西洋文明が文明期となる。現在はその移行期真っ只中ということだ。

図1
東・西文明の系統的時期対応図
出典 文明の研究 一部筆者加筆

氏によると今回の移行は-25年の誤差があり、1975年から2075年になると予測されている。21世紀後半にはオリエント・アジア各国が欧米各国を文化文明的に凌駕し、同時に経済、軍事面でも優位に立つということだ。中国やインド、イランの台頭とアメリカの自国への回帰は法則通りということになる。

洋の東西というが正確な規定があるわけでもない。我々も西洋とか欧米とかあるいは西欧とかをほぼ同じ意味で言っているが、西欧に東欧が加わりさらにアメリカが加わり、その他白人国家を加えると西洋になるといった程度だ。―そもそも地球は球体なので、西も東も南も北も限りがなく、ぐるぐる回っているだけなのだが…。

氏の分類では紅海→レバノン→シリア→アルメニア通って南北に直線を引いて、その西側が西洋、東が東洋となり、アフリカ大陸、南北アメリカ大陸は西洋になる。Google先生に「西洋と東洋の境目」と聞いてみるとほぼ同じ線を指している。オーストラリア大陸は果たして東洋なのか、西洋なのか、位置は東洋になるが、文明系は西洋になるのではないだろうか。

図2
東西境界

下部構造


文明の法則には上部構造と下部構造があり、上部構造とは1600年周期でめぐる文明断層から断層までの1周期をいう。さらに社会秩序(ソーシャルシステム)という下部構造があるという。多くの歴史が民族で語られるわけだが、氏は社会秩序を以下のように述べている。

「前後に社会的断層を持つ広義の同質時代」が、一つの社会システムの継続時代であることがわかってくる。これを社会秩序と呼ぶことにする。

文明の研究

さらに社会秩序と文明の関係を以下のように述べている。

大きな文明が一つのシステムとして興亡している。よくみるとその文明の大いなる興亡の波浪のなかに、小さなシステムとして興亡している社会秩序の小波浪がある。

文明の研究

またポイントとなる指標点を小文字アルファベットで定めている。

a 社会秩序の成立時点
b これより躍進となる時点《興隆期中点》
c 興隆期は終わり全盛期移行の転換時点
d 全盛期中点
e 全盛期終わり衰退期移行時点
f 衰退期半頃の時点、これより衰退の勢いは激しくなる《衰退期中点》
g 崩壊時点=多くは内乱、革命発生、あるいは敗戦亡国などの社会秩序の
  政治的死亡点

文明の研究

指標点から社会秩序の興隆期をa-c間、全盛期をc-e間、衰退期をe-g間としている。一方大文字のA,B,C,Dは主流文化と社会心理タイプとして分類している。

A型は少年期的社会心理で質実剛健、神話、神話的歴史、叙事詩、英雄叙事詩、雄健な美術、建築、宗教的美術などの文化型。この時期の社会は、希望に満ちている。
B型は青年期社会心理でロマンス愛好の艶美な文化、抒情的ロマンの文化、抒情詩、華美な風俗、華やかな美術、建築などが優先する青年期的文化型。この時期の社会は、華やかなで活気に満ちている。
C型は中年的社会心理で散文や演劇愛好の文化、散文的文学とくに小説の全盛期、政治的極盛期であるのに、どことなく秋風のふくような寂しさがでてくる。壮年期的文化型。
D型は老年期的社会心理で哲学や宗教が特に流行する、風俗が乱れて乱倫となり、道徳が乱れ、政治経済は乱れが激しくなり、人口が都市に集中し、美術がデフォルメし、革命機運がくすぶる。老年期的文化型。

文明の研究

これらを社会秩序、発展→衰亡の法則すなわち文明の法則と呼んでいる。

トレンドは東洋


このようなことからも当然だが、氏の文明の法則は厳密さに欠けて学問とは言えないという批判がある。がしかし僕は、学問的には厳密ではないかもしれないが、マーケティングや金融で言うところのトレンドのような、未来を予測予見するには必要な知見ではないかと考えている。

現代物理学では原子や素粒子のような極微な世界で、性質やふるまいを過去から未来まで、ほぼ完全に計算できるようになっている。しかし宇宙のような巨視的な階層においては要素還元的なアプローチでは説明ができない現象もある。

文明史は、人類の歴史ということになり、人類も地球上の生命の一つであるから、地球の公転や太陽の黒点のような周期の影響を受けざるを得ないとして、以下のように述べている。

重要なことは、何十年以上という定周期というものは、すべてその原因を <自然界>にもっていることである。ー中略ー
文明という人間社会的・文化的活動の波動は、その周期に同調し随伴した人類生命側のリズムに他ならない。

文明の研究

文明の法則は、巨視的なトレンドを提示しているだけで厳密ではないことはすでに述べているが、野球やサッカーでいうところの流れ、つまりトレンドをつかんでいなければ、スポーツでも投資でもゲインを得ることは困難だろう。企業でも長期計画などを建てるときには経済や科学のトレンドをつかむ必要があるし、国家の百年の計を建てるときはなおさらである。

西洋、つまり欧米の影響力が徐々に衰えて、東洋の影響力が高まる時代に日本は「平和強国」を目指さなければならないということだ。

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