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私的独占

第3 私的独占

・違反主体⇒事業者が単独、or 他の事業者と結合・通謀

・行為要件⇒排除行為と支配行為

1 排除型私的独占
(1)意義
 排除行為とは、独禁法上非難される方法により(人為性)、他の事業者の市場への参入を困難にしたりすること。部分的にでもよい。
 排除行為といえるかどうかは、自らの支配力の形成等の観点からみて、「正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有する排除行為」か否かで決定する。

 すなわち、効率性によらず他の事業者を追い出すことをいう。排除型私的独占ガイドラインは、費用割れの低価格販売、排他的取引、抱合せ、供給拒絶・差別的取扱いの4つの行為を具体例として示している。

(2)費用割れの低価格販売
 商品を供給しなければ発生しない費用を下回る対価設定は、非難される費用割れ販売と評価される。すなわち、「商品を供給しなければ発生しない費用」すら回収できず損失を生み続ける価格設定は、自らの事業活動をも困難にさせることから、自らと同等またはそれ以上に効率的な事業者に対する排除行為となる可能性がある。

(百7 NTT東日本)
「本件行為が独禁法2条5項の排除行為に該当するか否かは、本件行為の単独かつ一方的な取引拒絶ないし廉売としての側面が、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、競業者の市場への参入を著しく困難にするなどの効果を持つものといえるか否かによる。」

(3)排他的取引
事業者がある取引相手に対し、自己の競争者から商品の供給を受けないことを取引の条件にした場合に、競争者らが別の取引相手を容易に見出すことができない場合には、事業活動を困難にさせ、競争に悪影響をよぼす可能性が生じる。

ア 全量購入契約
 取引相手に対し、商品を自己から全部購入するように契約することなど。他の競争者は別の取引相手を見つけることが困難となる。

(百88 外国事業者による排除型私的独占 エム・ディ・エス・ノーディオン事件)
「N社は、М社・R社と『それぞれ、平成8年から10年間、その取得、使用、消費又は加工するМ99の全量をN社から購入する義務を課す契約を締結して他のМ99の製造販売業者の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、我が国におけるМ99の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり、これは、独禁法第2条5項に規定する私的独占に該当し、独占禁止3条の規定に違反する』」

イ 排他的リベート
 全て自分から購入すると値引きを与える、購入量に占める割合が大きくなるほど大きなリベートを与える、といった契約。

(百12 インテル事件)
 日本インテルが、顧客であるPCメーカーらに対して、日本インテルの狭小事業者からのCPU購入比率を一定比率以下に抑えること等を条件として、割戻金を供与した行為が、排除型私的独占に当たるとされた。

ウ 著作権使用料の包括徴収
(百8 JASRAC事件)
(1)排除をめぐる一般論
「本件行為が独占禁止法2条5項にいう『他の事業者の事業活動を排除』する行為に該当するか否かは、本件行為につき、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にするなどの効果を有するものといえるか否かによって決すべきものである。」
(2)排除効果の成否を判断するための考慮要素
「そして、本件行為が上記の効果を有するものといえるか否かについては、①本件市場を含む音楽著作権管理事業に係る市場の状況、②Y及び他の管理事業者の上記市場における地位及び競争条件の差異、③放送利用における音楽著作物の特性、④本件行為の態様や、⑤継続期間等の諸要素を総合的に考慮して判断されるべきものと解される」「以上によれば、Yの本件校は、本件市場において音楽著作権管理事業の許可制から登録制への移行後も大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けているYとの間で包括許諾による利用許諾契約を締結しないことが放送事業者にとっておよそ想定しがたい状況の下で、Yの管理楽曲の利用許諾に係る放送使用料についてその金額の算定に放送利用割合が反映されない徴収方法をとることにより、放送事業者が他の管理事業者に放送使用料を支払うとその負担すべき放送使用料の総額が増加するため、楽曲の放送利用における基本的に代替的な性格も相まって、放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用を抑制するものであり、その抑制の範囲がほとんどすべての放送事業者におよび、その継続期間も相当の長期間にわたるものであることなどに照らせば、他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にする効果を有するものというべきである。」
(3)人為性に関する傍論
「なお、本件事実関係に鑑みると、大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けているYとの間で包括許諾による利用許諾契約を締結しないことが放送事業者にとっておよそ想定しがたい状況の下で、Yは、その使用料規定において、放送事業者のYとの利用許諾契約の締結において個別徴収が選択される場合にはその年間の放送使用料の総額が包括徴収による場合に比して著しく多額となるような高額の単位使用料を定め、これによりほとんど全ての放送事業者が包括徴収による利用許諾契約の締結を余儀なくされて徴収方法の選択を事実上制限される状況を生じさせるとともに、その包括徴収の内容につき、放送使用料の全額の算定に管理楽曲の放送利用割合が反映されない本件包括徴収とするものと定めることによって、放送使用料の追加負担によって放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用を相当の長期間にわたり継続的に抑制したものといえる。このような放送使用料および徴収方法の定めの内容並びにこれらによって上記の選択の制限や利用の抑制が惹起される仕組みのあり方等に照らせば、Yの本件行為は、別異に解すべき特段の事情のない限り、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものと解するのが相当である。」
⇒人為性について、使用料、徴収方法の内容、これらにより選択の制限や利用の抑制が惹起される仕組みのあり方等に照らせば、「別異に解すべき特段の事情のない限り」人為性を有する。
⇒商品役務の優秀性以外の手段で他の事業者を排斥するという意味での作為性・意識性

エ 抱合せ

(百63 日本マイクロソフト抱合せ事件)ただし19条違反
 マイクロソフト社は、取引先パソコン製造販売業者等に対し、不当に、表計算ソフトの供給に併せてワープロソフトを自己から購入させ、さらに、取引先パソコン製造販売業者に対し、不当に、表計算ソフト及びワープロソフトの供給に併せてスケジュール管理ソフトを自己から購入させているのであって、これは、不公正な取引方法の第10項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

オ 供給拒絶・差別的取扱い
(ア)単独の取引拒絶・取引条件の差別は上記NTT東日本事件参照
(イ)共同の取引拒絶
(百10 共同のライセンス拒絶による競争者排除 パチンコ機特許プール事件)
「10社及び日特連(日本遊技機特許運営連盟)は、『結合および通謀をして、参入を排除する旨の方針の下に、日特連が所有又は管理運営する特許権等の実施許諾を拒絶することによって、ぱちんこ機を製造しようとする者の事業活動を排除することによる公共の利益に反して、我が国におけるぱちんこ機の製造分野における競争を実質的に制限しているものであって、これは、特許法、又は実用新案法による権利の行使とは認められないものであり、独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。』」
⇒パテントプールは、「複数の権利者が所有する特許権等を相互に使用可能とすることにより、当該特許権等の利用価値を高め、権利者間の技術交流を促進するなどの効果を有するもの」であり、その仕組み自体が、直ちに独禁法に違反するものではない。しかし、パテントプールは競争関係にある者を含む複数の権利者が共同行為によってライセンス条件等を定めて権利行使するものであるから、パテントプールの運用の方針や現実の運用の如何によっては、独禁法違反の問題が生じることがある。
→本審決は、本件特許がぱちんこ機の製造に不可欠な権利であり、その実施許諾を受けることなく、風営法に適合するぱちんこ機を製造することは困難な状況において、10社及び日特連が、共同して、参入を排除する旨の方針の下に、特許権等の取得、集積に努めて参入障壁を強化するとともに、アウトサイダーに対して、本件特許の実施許諾を拒絶した行為を捉えて、「排除」を認定している。その際、本件では、10社が日特連の株式の過半を所有し役員を派遣する等していたことが「結合」とみなされ、日特連の会議や権利者会議等を開催して新規参入者に日特連が所有・管理する特許権等を実施許諾しない旨の意思統一を図ったことが「通謀」とみなされている。

(百9 雪印乳業・農林中金)
「被審人雪印乳業、同北海道バターは共同して被審人農林中金および同北信連と完全なる了解の下に、資金を亮会社に生産乳を供給する農家に融通させて両会社の集乳地区に約1万頭の乳牛を導入し、本資金によって乳牛を購入した者の当該乳牛のみならずその保証人並びに資金借受単協自体についてまで販路を制限し、それら生産乳はすべて量会社のみに販売せしめるという計画を立ててこれを実行し、他の乳業者の集乳活動を抑圧し、特にいわゆる競争地区においては本資金を他の乳業者に対する強力な競争手段として利用し、農林中金に他の地区に比し厚く本資金を融通させ、他の乳業者の集乳活動を排除し、もってすでに北海道地域において集乳量約80%に及ぶ量会社の地位の全面的維持及び強化を図っているものと認められるから、両者の行為は私的独占禁止法第3条前段に違反する」

2 支配型私的独占
(1)支配の意義
 支配行為⇒他の事業者の事業活動について自主的な決定を困難にして、自己の意思に従わせること。「他の事業者の事業活動の支配とは、原則として何らかの意味において他の事業者に制約を加えその事業活動における自由なる決定を奪うことをいう」(東京高裁昭和32年12月25日 野田醤油事件)(2)事例
ア 競争者に対する支配
(16 東洋製罐事件)
 東洋製罐は、自社または関連会社等の名義で、本州製罐及び四国製罐の株式を50%超、三国金属の株式を50%それぞれ所有している。また、北海製罐の株式を29%所有し代表取締役も派遣している。東洋製罐のこれらの行為は、自己の意思に従って営業するように管理したり、事業活動を制限したものであり、「他の事業者の事業活動を支配すること」に該当するといえる。イ 取引先に対する支配
(百15 パラマウントベッド事件)
 パラマウントベッド社は、財務局発注の特定医療用ベッドの指名競争入札等に当たり、都立病院の入札事務担当者に対し、同社の医療用ベッドのみが適合する仕様書の作成を働きかけるなどによって、同社の医療用ベッドのみが納入できる仕様書入札を実現して、他の医療用ベッドの製造業者の事業活動を排除することにより、また、落札予定者及び落札予定価格を決定するとともに、当該落札予定者が当該落札予定価格で落札できるように入札に参加する販売業者に対して入札価格を指示し、当該価格で入札させて、これらの販売業者の事業活動を支配することにより、それぞれ、公共の利益に反して、財務局発注の特定療養ベッドの取引分野における競争を実質的に制限しているものである。
(3)まとめ
・支配行為→具体的な事業活動+株式取得や役員兼任等、一般的に支配する場合
・効果要件⇒「一定の取引分野」=商品、市場、地理的範囲
「競争を実質的に制限する」⇒市場支配力を形成、維持ないし強化すること・1条の趣旨に照らして合理性+目的実現手段に相当性存在
・「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは価格・品質、数量、その他各般販の条件を左右することによって市場を支配することができる状態をもたらすこと。

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