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Illustrator作業工程 イラスト「蘇州夜曲」のできるまで。

個人的な事情で仕事を休んでいる時期がありまして。
その頃ちょうどAdobe IllustratorのバージョンがCSになったりして、ちょっと使っておこうかなと思って、自分の好きな絵を描いたりしておりました。
そんな一枚がこの「蘇州夜曲」です。

戦前の流行歌「蘇州夜曲」をモチーフにしています。
昭和15年の歌。
作詞 西条八十、作曲 服部良一、歌唱は渡辺はま子と霧島昇です。

元々は李香蘭主演の「支那の夜」という映画の主題歌だそうです。
その後も色々な人にカバーされて、現在まで歌い継がれる名曲となっております。
聴いたことのない人は、ぜひ一度聴いてみてくださいね。

では、どのような工程でこのイラストが描かれていったのか、見ていきましょう。
お恥ずかしいモノですが、少しでもなにかの参考になりましたら幸いです。

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さて、まずはザックリとしたラフをかきました。
ここは紙に鉛筆です。

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どうですかこのザックリぐあい。
どうゆう事になっているかというと、水の上に架かった橋の上で寄り添う男女。
そして歌詞に出てくる桃の花、柳、おぼろ月、など、ということです。
出来上がりのイメージはこんな程度でスタートしました。

その後それぞれのパーツごとに下書きを作ります。
Illustrator上であれこれ推敲したりするのが嫌な方なので、比較的出来上がった下書きを作る方だと思います。
Illustratorでは淡々とベジェトレースだけをしていきたいタイプなのです。

とりあえず人物の下書き。

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後で重ねてしまいますので男性の右腕はいらないのです。
足もとも橋の欄干に隠れる予定なので割愛です。
おや、女性の腰のあたりにある謎の矢印はなんでしょう。
これは反転の印です。
実は私は右向きの人物を描くのを非常に不得手にしておりまして、こういうことをよくやります。
最終的にこの女性は男性の方を向き「君がみ胸に抱かれて聞くは」的な事になるわけです。

今回の人物が決まるまでの過程を見てみましょう。

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女性の方はすんなりといきましたが、男性のポーズに迷っていますね、帽子は無しにしました。

ではサックリとトレースしてゆきます。

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映画で李香蘭の相手役になっているのは長谷川一夫で、船員役なのでマドロスのような格好をしていますが、この絵では白っぽいスーツを着た長身の男性にしてみました。

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なんかキザ野郎な感じになりました。

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女性の方もスイスイと、胴体なんてアウトラインだけですね。
描き終わったら右側を向いてもらいました。
手には「君が手折りし桃の花」を持つ予定。

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チャイナドレスの柄を作ります。

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牡丹の花が縁起が良いらしくよく使われるようです。
太めの線で描いてアウトライン化した後、分割して中の方、線じゃない抜いた方ね、そっちを使う事にします。

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適当に配置して色を決めドレスの形でマスク。
本人や男性の腕が掛かる事を考えてせっかくの花が隠れてしまわないようにしましょう。
色は背景などの様子を見て、最後に決めてもいいですね。
いやよくないですね、そういうプランは最初にきちんと決めておくべきものです。

本来は。

というわけで、今はとりあえずピンクでお願いします。
何をお願いするのかわかりませんが。

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はいお待たせしました、重なりましたよ。

重なってわかった事があります。
だいたい男女というものは重なって初めていろんな事がわかるものですね。

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左の絵は下書きをトレースしたままですが、男性がなんだかよそよそしいような感じがしました。

そこで頭の角度を少し下げてみましたところ、これだけでよそよそしい感が消えて、いとしい感がアップした様な気がしませんか。しますします。
わずかな角度の違いで、印象が大きく変わったりすると思いませんか。
もちろん思います思います。
これは人物表現の重要なるポイントではありますぞ。わかりましたか。
わかりましたわかりました。

実は女性とのバランスを考えて、男性の頭全体をほんの少し大きくもしてあります。
デジタルはこういう事が簡単にできるのが本当によいですね。

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次に桃の木を描きました。
「水の蘇州の花散る春を」ということで、花びらを散らせる予定でいきましょう。

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川の両岸に一対で二本置きます。
まず幹と枝を線で引きまして。
色をつけますと、このように

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なります。

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花を作ります。
これを枝に付けてゆくわけです。

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桜と違って桃や梅の花は、細い枝に並ぶように花を付けます。
この枝を先ほど描いた木の枝の先に方向をあわせて付けてゆきます。

花自体が小さく密になりますので花ごとに全部グラデーションがあると気持ち悪くなりました、よって一部を残して花びらの濃淡だけにします。

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このままでは寂しいので、隙間を埋めます。

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とりあえずこんな感じで置いときましょう。

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蘇州夜曲という唄を初めて聞いたときは、一組の男女が舟に乗って、舟というか小さなボートの様なものに、中国風の、そんな感じのモノに乗って、水の上でシッポリと、みたいなイメージでした、「夢の船歌鳥の唄」という歌詞のせいかも知れません。

今回は船ではなく、橋の上でたたずむ二人という事にしました。

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こんな感じの石橋を作ってみます。

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はい出来ました。
存外に時間がかかってしまいました。
下書きはカッチリとという鉄則を守らなかった報いでございます。

まあ下書きに時間をかけても、ソフト上で時間をかけても、トータルでは同じかも知れませんが、先にも言いましたが自分はIllustrator上であれこれしたくないので、下書きに時間をかける派なのですね。

しかしどうでしょうこの湾曲、どうやって渡るのでしょう、だいたいどこからどこに、どう掛かっているのでしょうか、とかそんな事を考えてはいけません。
そんな事を考えて絵を描いてはいけません。
いややっぱり考えたほうがいいです。

部品ばかり作っていてもしょうがないので、ここであらためてちゃんとした構図的なものを確認します。

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どうですちゃんとしてるでしょ。
手前に橋、その上に重なる二人、後ろの両岸に桃の木、さらに後ろに向こう岸、そこに柳の並木、その奥にも木立が重なり、お寺の塔、夜空、おぼろ月、それぞれが水面に映る影、一番手前にも柳の枝、散る花びら、というような事です。
確認できましたか。

では、現在出来ているものを配置してみましょう。

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こんな感じですね。
いつのまにか女の人が花を持っています。

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桃の木が生えている両岸を作ります。

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土というか岩というかが露出している感じにしました。

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その上に緑の地面をかぶせます。

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水面に垂れ下がるように草を生やします。
水際の処理は水面を作った時に考えましょう。

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もう一方の岸もちゃんと作りました。
反転流用とか出来るのがデジタルの利点ではありますが、あまりバレバレだと作品が軽薄になってしまいますよ。

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さて、柳を描きます。
「惜しむか柳がすすり泣く」という事で、柳にはぜひ登場してもらわねばなりません。

例によって枝葉パーツですが、

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こういったモノを四つほど作りました。

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木自体はあっさりとした形にして、重なり具合を見ながら枝を垂らしてゆきます。

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五本並べました。
反転流用はやめましょうとか言っておきながら、明らかにやっていますね。
あとでちょっと枝を動かしたりしてごまかしましょう。
大体ここは前景が重なってくるからいいのです。
そんな勝手な。

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向こう岸を作っていきます。

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気がついたのですが私、ここでは描きますと言うより作りますという言い方が多いですかね。
Illustratorで作業をしていると、絵を描いている感というものがあまり無いのかも知れません。

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両岸と同じように作ります。
草を生やしましたが、これはちょっと並びすぎているので、後でばらしましょう。

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奥にある木立です、これはもう柳の背景ですからシンプルにとどめます。

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こういったモノを作って。
木の葉ですよ。
枝に付けていきます。

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こんな感じで、

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前の柳との関係で色と形を調整。

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もう一段重ねてさらに奥行きを。
夜空の色を入れて様子を見ます。
宵のおぼろ月、薄暮より少し遅い時間ぐらいでしょうか。

柳が明るすぎですが、もう少し全体が出来てから案配しましょう。

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「鐘が鳴ります寒山寺」です。
塔と御堂のようなものを作ります。

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実際の寒山寺の塔を参考にはしましたが、正確である必要はありません。
雰囲気雰囲気。

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正面図みたいになりましたが、配置する時に自由変形やシアーツールでちょっと変形しましょう。

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奥の木立は下にも作って隙間を埋めました。
同時に塔の下の方を隠します。
柳の彩度を落として、塔も全体に暗くしました。

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「涙ぐむよなおぼろの月に」
厚めの三日月を選択、特に理由はないです、いやあります。
満月では明朗に過ぎる、細い三日月では寒々しい感じがします。
春の宵に涙ぐむ感には、これくらいの月が良いのでは。
いかがですか?
まわりにぼかしをかけて、夜空は月を中心の丸グラデーションにしました。

ではこれまでに出来たモノを合わせてみましょう。

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水の色を仮に入れておきました。
いつのまにか女の人が髪飾りをつけています。

あと一息ですね。

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水面の映り込みを入れましょう。

水の色は仮にと言いましたが、いい色なのでこのまま使う事にします。
こういう事はよくあるでしょ。

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基本的に影はそれぞれの形のままですが、少し変形させてあるものもあります。
アウトライン化して逆さまにして色を調整します。
濃淡を付けて映り込みにも奥行きを持たせたいと思いました。

水面的な揺れを付ける予定でしたが、無い方がすっきりしていいかな、ということで、揺れは無しにします。

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最前面に入れる柳の枝を作りました。

葉の形は七つか八つぐらいです、それをバラバラに並べました。
完成時には葉一枚ごとに軽いグラデーションをかけてあります。

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今更ながら下の方が寂しいなと思い、新たに桃の枝を作り、

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足してみました。

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あと花を浮かべて流しました。
「花を浮かべて流れる水の」です。
「明日の行方は知らねども」です。
「今宵映した二人の姿」はスペースが足りませんでした。

ということで、諸々の微修正をいたしまして、これで完成とします。

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ごくろうさまでした、わし。

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このイラストを描いたのは2008年8月です。
今となっては描き直したい所もなくはないですが、これはこれでよいかな。

記事は当時自分のホームページにアップしたものを今回書き直しました。

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