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「新井天神北野神社の“ちびナカノさん” 2019」制作ノート


新井天神北野神社の社殿建替にあたり、これまでの神社の姿をどうにか記録に残したい…と思ったのが、私が「中野大好きナカノさんプロジェクト」に参加したきっかけです。撮影・投稿を進めるうちに色々な事に気づいた点は下記にまとめてあります。

●令和元年 新井天神北野神社例大祭と“ちびナカノさん”
https://note.mu/naka_suki/n/n00a5c501829a

上記には「撮影の途中から最終的には動画にまとめたいと考え始めた」と書いているのですが、一番大きな理由が“ちびナカノさん”がコロボックル(又はコロポックル)やフェアリーの様な存在だ!と気づいた所にあります。
小学生の時、コロボックルと少年の物語「誰も知らない小さな国/佐藤さとる作」が本当に大好きで、図書館で何度も借り、休み時間や放課後にひたすら読み続けていました。当時は本当にコロボックルが居るのでは…と思っていたほど。
成人後は記憶の片隅に残っている程度だったのですが、芸術学に興味があった事もあり「(古代)ケルト文様もアイヌ文様も渦巻きを多用する」→「フェアリーやコロボックルなど、その土地に棲む妖精伝説が残っている」→「どちらも原始的なアニミズム(八百万の神)的文化が残っている」という理解はありました。

一方、使用楽曲のRe-Trick「Folk Song」(アルバム「Epoch」収録)は2年半前にリリースされた曲で、Folk Song=民俗音楽という意味です。アイリッシュ音楽やケルト民謡に通じる細やかで躍動感のあるリズムとともに、アニミズム的世界観を感じる大好きな曲でした。冒頭のピアノには深い森の神々や精霊・あるいは自然そのものに対する畏敬の念が満ち、転調すると人々が生き生きと躍動する賑やかな生活が感じられ、やがで舞台はまた森に戻っていきます。
動画をご覧になった方はお分かりかと思いますが、ストーリーはすでにこの曲の中にあり、“ちびナカノさん”がコロボックルみたい!と思った瞬間に、私の中で「Folk Song」と直結していました。

ただし、もともとは「社殿を建て替える神社とお祭りを記録に残したい」という所が出発点で、自分が好きな曲のMVをつくるために撮影をした訳ではありません。かと言って、音楽を安易にBGMとして扱うつもりもありませんでした。
撮影にご協力下さった方々が「個人が好きなものを作るために利用された」と思われたら…という心配も無きにしも非ず。なんとなく編集を始める決心がつかないまま一ヶ月近く経ってしまったのですが、その間にお祭りの写真をSNS投稿しているうち「この撮影自体が現実の上にフィクションを乗せた二重構造である事」「動画にフィクションとしての物語性を持たせたとしてもSNS投稿時の写真と同じであるという事」という結論に至りました。

投稿前にじっくりその写真を見ると、撮影時には気づかなかった事を度々発見しましたが、逆に言うと“ちびナカノさん”というフィクションの存在がなければ、その対象に意識を留めることは無かったかもしれません。私たちは日常の中に存在し、見えているはずのものでもそれを自覚的に意識する=知覚している訳ではないのです。
SNS投稿時には“ちびナカノさん”の目を通してその場所・文化の背景を伝えられるようなテキストを心がけましたが、中野区シティプロモーションで投稿されているオリジナル「ナカノさん」の投稿も「現実の上に非現実のファンタジーが重なる」という表現性は同じです。
現実世界にプラスされたフィクションが、日常では気づかない対象にスポットを当て潜在するコンテクストを読み解く助けになる、というのが「中野大好きナカノさんプロジェクト」の本質ではないでしょうか。「中野の魅力を発信する」前に、“ナカノさん”や“ちびナカノさん”で私達は沢山の「中野の魅力を発見する」のです。

動画編集でこだわったことは、クオリティの高い人形を素人がスマホ(しかも古めのiPhoen)で撮影・投稿するという行為を、動画化においても踏襲するという事でした。
その為には人形のクオリティ同様に音楽のクオリティは絶対に必要不可欠で、一方ではどれほど使いづらくとも、iPhoneの無料アプリで編集を行いました。
玄人よりも素人の方が初期衝動・驚きや発見・感動がダイレクトである事は、子どもがつくる作品に代表されます。しかし一方では、表現クオリティが低ければ表象からコンテクストを読み解く段階にたどり着くことができない場合もあります。そのクオリティを補完する役割を担っているものが、人形であり音楽だと考えた為です。
ブレている写真やボケている写真、暗い写真や明るすぎる写真など様々、歩いてのズームで手ぶれもひどいですが、音楽に乗るとそのバラバラなものがなんとなくまとまって見えませんか?
動いていく御神輿や山車など、その瞬間を撮りたいと思った気持ちやココでアップにしたい!というその気持ちが伝われば嬉しいです。
指での編集作業はちょっとした瞬間にズレてしまいイライラしまいましたが、プロツールで自在に編集する場合より強い衝動がどこかに刻まれていると信じています。(苦笑)

動画のストーリー化においては、フィクションでありつつも現実を詐称する事の無い構成を心がけました。例大祭の撮影は宵宮と祭日の二日分をまとめていますが、お祭りの進行はできる限り順守しています。


[動画の見どころ]

●紙垂(しで)や幣(ぬさ)は、見えない神の気配を揺れる事で感じる装置と言われますが、冒頭の社殿が映るシーンでは風もないのに誰かが触れたようにしめ縄の紙垂だけが揺れ、見えなくとも神様がそこに存在しているように感じられます。

●新井北町会万灯神輿は20年を記念し初代と併せて二基の渡御が行われました。雨の予報の為御神輿にはビニールが被されていますが、雨が降れば“ちびナカノさん”の撮影も叶わない所、どうにかギリギリで撮影を終え、終了直後から大雨となりました。町会外からも多くの方々が参加下さり、担ぎ手約250人という迫力のある渡御の様子をご覧ください。

●北野神社社殿はすでに解体されましたが、新井小学校も合併の為今年度末で閉校が決まっています。この地域では何十年も馴染みのあった景色が消えていきます。「見えないけどちびナカノさんが居るかもしれない…」「北野神社の社殿はもう消えてしまったけれど、その存在は残っている…」という気持を込めてラストシーンを作りました。

今回の撮影・動画制作にあたり、新井天神北野神社・北野神社睦会・新井北町会・氏子地域の皆様にご協力を頂き、本当にありがとうございました。
特に、北町会青年部のA氏のご協力がなければ最後までたどり着けなかったかもしれず、心よりお礼申し上げます。
楽曲使用に対しても快く承諾下さったRe-Trickの皆様にも心より感謝申し上げます。

※撮影場所やクレジット類はYouTubeの説明(スマートフォンはタイトル右の▼より/PCは「もっと見る」より)に記載していますので、そちらもご確認頂けましたら幸いです。