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新卒獣医師のための診断アプローチ:問診

最初に

 ミニマムデータベースの構築が終了したら、いよいよ問診に入ります。問診では「聴く力」が重要ですが、この「聴く力」は経験によって培われます。しかし、意識して聴くことをしないとこの「聴く力」は向上しません。飼い主と対話しながら、良好な関係性を構築し問診を行いましょう。問診には網羅的に行う系統的問診と鑑別に近づくための問診があります。

  • 系統的問診の意義

    • 身体検査で確認できない異常について聞き取ることができる(多飲多尿など)。

    • 現在は確認できない異常について聞き取ることができる(過去の下痢など)。

  • 各器官系についてもれなく、一定の問診を行うためにチェックリストを用意しましょう。

主訴に対する問診

 問診では以下の7項目を基本項目として展開していくことが、ヒト医療において推奨されています。動物では自覚症状を訴えることがないので、「位置」や「症状の表現」は飼い主の主観になります。

 これらはあくまでも基本項目であり、重要と考えられる項目についてはさらに焦点を絞った聴取を進めていかなくてはなりません。さらに動物(飼い主)の主訴が複数の場合、その優先順位について飼い主に確認し、整理しながら進めていくべきでしょう。
 以下に、跛行を主訴に来院した成犬(小型犬)の問診例を上記の基本項目に則って考えてみます。ポイントは飼い主の表現を医学的に変換することです。

跛行の程度
グレード1:わずかな異常、わずかな跛行
グレード2:動作を続けると乱される軽度の跛行
グレード3:動作を続けなくても妨げられている中程度の跛行
グレード4:妨げられている、機能できない激しい跛行

犬の跛行診断、NEW LLL PUBLISHER, 2004, p28より

 「跛行」の鑑別は、骨折、脱臼・亜脱臼、爪の外傷、骨打撲、感染、骨髄炎(細菌性、真菌性)、膝蓋骨脱臼、骨軟骨症、汎骨炎、肥厚性骨異栄養症、大腿骨頭の虚血性壊死、肘突起不癒合(肘関節形成異常)、骨嚢胞、ビタミンD欠乏症(くる病)、骨肉腫、多発性骨髄腫、骨への転移、関節疾患、打撲、裂傷、犬特発性多発性筋炎、猫特発性多発性筋炎、皮膚筋炎、原虫性筋炎、腱断裂、靭帯断裂、過伸展などが含まれます。犬の後肢に限定して、以下に跛行をもたらす疾患の表を引用します。

 この表では、小型犬・成犬・急性の部分を見てみると骨折、股関節脱臼、膝蓋骨脱臼、十字靭帯断裂/半月板損傷、足根関節脱臼となっています。膝蓋骨脱臼や十字靭帯断裂は「慢性」の欄にも記入されており、明らかな「急性」、「慢性」の分別は難しいかもしれません。しかし、問診後の診断アプローチにおいて後肢の触診によって疼痛部位の特定ができれば、ぐっと確定診断につながります。

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