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じゅーじゅー焼く音と煙のかおり【エッセイ】

おとなになっても口遊む歌がある。
じゃりン子チエのエンディング曲なんかは今でも歌うとほろりと心が落ちる。

どうしてか。それを自分の心に問うならば、全ての歌詞が五感をくすぐりながら語りかけてくるものだからと答えが返ってくるだろう。

私の心はきっとそう答える。



さて、歌詞を引用するか。

じゅーじゅーじゅー(じゅーじゅっじゅー)
じゅーじゅーじゅじゅー(じゅじゅっじゅじゅー)
煙の中に歯が四本
チエちゃんの笑う歯が四本
じゅーじゅーじゅー(じゅーじゅっじゅー)
じゅーじゅーじゅじゅー(じゅじゅっじゅじゅー)
煙の中にポッチリ二つ
チエちゃんの赤いポッチリ二つ
たたっ たたっ たたたたたー
大きな下駄がやってくる
元気な下駄の音がする
たまにはシャラズル鳴るけれど
明日になればたたたたたー
元気な下駄の音がする

作詞:はるき悦己

せっかく公式に動画もアップされていることだからまずは歌をきいて欲しいと思う。

じゃりン子チエは大阪の下町を舞台にした物語だ。働かない親父のかわりに店でホルモンを焼いて生活してる。そんなお話。

この歌の凄いところは短いながらもこの物語の全て語っているところ。

じゅーじゅーという音はチエちゃんが店でホルモンを焼く音だ。
町の人は煙のかおりを鼻にする。
煙の中で見える白い歯はチエちゃんの笑う歯だ。
カウンターの向こうにチエちゃんが立っている姿を想像する。
親父は働かないからさ。
子供の身でありながらずっと店に立ってるの。
でも笑ってるんよ。
頬をにっこりと本当に笑ってなければ、歯は四本も見えないだろ。
だから本当に笑ってるの。
お金はないんよ。
それでも元気なの。

今日も煙の向こうで赤いポッチリの髪留めが二つ見える。
たたたたと音が鳴れば、それはチエちゃんが走る元気な下駄の音だと町のみんなが知っているの。
毎日その音をきいている。
でもいつも元気なわけじゃないんだね。
シャラズルと、たまには下駄を引き摺る音がすることもある。
町の人は気に掛ける。
でも、明日になればまた元気な下駄の音が聴こえてくる。
町の人は安心する。
たたたた聴こえる元気な下駄の音は、チエちゃんが元気を取り戻したことを町のみんなに知らせる音。

そういう歌なのよ。

悲しいとも嬉しいとも言わない。

ただ、煙の向こうに笑ってる顔があって、下駄の音が町に鳴り響いているだけの歌。

でもそれで全てが完結している歌なの。

だから私はおとなになった今もこの歌を口ずさむ。

#エッセイ



ここのコメントを目にしてくれてるってことは最後まで読んでくれたってことですよね、きっと。 とっても嬉しいし ありがたいことだなー