カーブを曲がるときに分度器で角度を測る人はいない【エッセイ】

あなたは自転車に乗ったことがあるだろうか？
私はある。ペダルを漕ぐことで前に進むし、ハンドルを操作することでカーブをクイっと曲がることもできる。

素晴らしいことだと思う。2～3kmの距離くらいなら疲れることなくどこでも行ける。あなたはこれをあたりまえのことだと思うだろう。でも、これは無意識下で制御された身体の動きがなせる技であり、実はとても高度なことなのだと最近は思うようになった。

だってそうでしょう。我々は走行中にハンドルを切る角度を事前に測ったりすることはないし、カーブの前では自然と減速する。わざわざ暗算を駆使してカーブ前方3mの距離までに時速8 kmまで減速してからハンドルを左30度に切るとか考えてないでしょう。なんとなく身体が脳で考えるよりも早く判断して処理している。

耳はあまり使っていないように思うかもしれないが、背後から車が来ればエンジン音を察知して注意が自然と後方に向く。意識してないだけで無意識下では確かに使っているのだ。

手だってハンドルを常に強く握っているわけではない。平坦な道では触れる程度なのに対してガタガタ道だと自然と握る力が強まるし、障害物が目に入れば指先がブレーキにかかる。ほとんど無意識だ。

そもそもあの二輪しかついてない乗り物でコケないのはなぜだ？
それはペダルを踏んで前に進んでいるからだ。推進力で前に進んでいる限り横には倒れにくいから、バランスをとることはそれほど意識しなくても良い。無意識レベルで調整できるからだ。
これはペダルを漕ぐことでバランスにかかる意識を最小限にする状態を作っているとも言えるだろう。

曲がるときに切るハンドルの角度をどう判断してるか？
そんなの測らなくても目線を行きたい方向に向ければ自然と身体が動くよ。ハンドルを切るだけじゃない。私たちは車体だってコケない程度に傾けてるだろう。ほとんどが無意識下の処理だ。だって走行中に分度器を用意してくる奴がいたらそいつはどうかしてると思うだろう？

だから、自転車に乗るときに人間が意識することは主に二つくらいで良いと思う。具体的には適正な速度の維持と行き先までのルートの把握だ。なぜなら意識しなければいけない条件が増えれば増えるほど運転中のリスクが増えるからだ。繰り返すが、少なくともカーブを曲がるときのハンドルの角度は気にしなくてもいい。走行中に分度器で測ってると間違いなくコケるぞ。

分度器の例は極端だが、荷台の荷物が左右で偏りがあった場合や紐が緩んで荷物が揺れ動く時なんかは運転どころではなくなる。これらは簡単なはずの自転車の運転ですら難しくさせる要因だ。そういった要因は簡単なものを簡単なものとして処理できるように事前に排除しておかなければならない。

余計なことを考えないこと。持ち込まないこと。瞬間的に意識しなければならない数が少なくなるようにコントロールすること。そういう状態に意図的に持ってゆくこと。これが大切なことだ。

人間は無意識下で自動的に判断・行動している領域が多分にあるが、同時進行で意識できる数には限界がある。そのバランスが調和されてることで本当は難しいことでも簡単に実現しているように見えることが世の中にある。その最たる例でわかりやすいのが自転車の運転だ。逆に言えば、とても難しいことなのだが、余計な要因さえなければ人間本来の力で自然とこなせることが世の中にはあるということだ。

仕事だって同じだ。わざわざ自分から難しい状態にしなければ結構なんとかなる。無意識の力が助けてくれる。その力を阻害しちゃダメなのだ。

具体的にはたくさんの仕事が同じ時間に重ならないようにするってことだ。マルチタスクっていう言葉があるけど、一度に違う仕事を同時に対応するのは自転車の運転と同じで危なっかしい。マルチタスクの全てを否定するわけではないけど、違う種類の仕事が舞い込んだ時はなるべく時間をズラすか、周りの人に仕事を振るのが正しい形だと思う。

なんでも一手に引き受けてババババとやっちゃうと気持ちもいいし、ある種の万能感に満たされるんだけど、何時間も続くと相当疲れる。それが何日も続くと感覚がマヒしてきて、終いには休み方が分からなくなっちゃう。その後どうなるのかというと無意識で出来ていたことが急にできなくなる。あれ？今まで簡単に出来ていたことのやり方が分からなくなっちゃうのよ。

自転車の運転で例えるとカーブに差し掛かっても曲がり方が分からなくなってしまう感じと言ったらいいだろうか。今までは車体を傾けながらハンドルを切っていたのが全く分からなくなって身体が固まっちゃう。すると変なことを考えてしまう。それこそ分度器で角度を測ったりしだすのだ。

そうじゃないよね。目線をカーブの先に落として、あとは身体の感覚に渡すことで全てが解決するのにそんなことすらも忘れてしまうのだ。

そうなると引き返すのにとても時間が掛かる。

人間本来の力で自然とこなせることを極力維持すること。それが大切で、無理はしない。疲れたら一休みする。時間は少しかかるが順序立てて確実に進むこと。これを心掛けていたら無意識の大いなる力が何とかしてくれる。

夜、眠たくなるのも無意識の大いなる力だ。