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トンネルの先、雨上がり

長い、長いトンネルだった。光が見えたかと思ったら出口ではなく非常口だったような、ずっとじんわり暗くて本当にここから出られるのだろうかと心配になるような。

5月の最終戦、アウェイ藤枝戦の後に、大島監督の解任が発表された。そんなわけない、早すぎるとも思ったけれど、予兆を感じていないわけではなかったし『残留』という絶対的な目標を鑑みるとプロの世界では温情措置を取っていられるほど悠長なことは言っていられない、そんな中での決断だったのだろうと想像できるし支持できる。
それでも、私が初めてユナイテッドの試合を見始めた頃にはもうスタッフとして関わっていた方がチームを去られるというのはひどく大きな喪失感をもたらした。だからこそ、『この痛みをどうにか糧にして上向きになってくれ』と思うほかなかった。

後任は、かつて鹿児島で指揮を取っていた浅野監督。その頃を知らないのでそうなんだくらいにしか捉えていなかったのだけれど、過去の功績と鹿児島のことを知っている(当時とはいろいろな部分が変わっているのは大前提として)というのは大きなイニシアチブだと思うし、色々考えてみると浅野監督しかいないのではないだろうかとも感じた。
※余談だが何気なく監督のWikipediaのページを見てご家族の項目でひっくり返った。私の大好きなものと大好きなもののコラボ過ぎるんだが……???

0-0の秋田戦、1-1の岡山戦とリーグ戦は浅野監督就任後負けなし。『いい攻撃はいい守備から』という監督の信条はそれまでのユナイテッドに足りていなかったものを補うものだと確かに感じたし、実際秋田戦の時点で素人の私が見て分かるほど攻撃の部分が変わっていた事に驚いた。
しかし一方で、鹿児島の武器である攻撃力が鳴りを潜めているように見えたのが気になっていた。秋田も岡山も堅守なチームのイメージではあるし、まったくチャンスがないというわけではなく『あと一歩』のところまでは行けるのにそこからがなかなか、というのは2021シーズンのようだと感じた(※私の中で2021シーズン=決定力が足りていないシーズンという勝手な印象がある)(すみません)

山形戦も、先制された時は正直気落ちした。『先制されてから試合が始まる』『もはやうちの醍醐味』『先制されてナンボ』なんて家庭内では軽口を叩いているが(叩くな)1点ビハインドというのが心臓に悪くないわけがない。
それでも、『このままズルズルとボールを下げて後ろで回しながら前に持っていくタイミングを窺うけどあんまりうまくいかない』というイメージは不思議と沸かなかった。むしろ『これ以上1点も取らせない、そしてまず1点を獲りに行く』という姿がそれまでの2節と明らかに違っていてワクワクした。

同点弾を放ったのは有田選手だった。外山選手からピンポイントで上がったクロスに飛び込んでピタリと合わせるヘディング。『有田っぽいね〜!!』と我が家では大盛り上がりだった。何がどう有田っぽいかと言われると感じろと答えるしかないけれど、あれは間違いなく『有田っぽい』シュートだと思う。
私が初めて本腰を入れて見始めた2022シーズン有田選手は面白いほどに点を獲ってくれていたけれど、同シーズンの終わりから2023シーズンは鳴りを潜めていて、活躍を知っているからこそもどかしかった。ユナイテッドのサポーターはみんな『アリタン』のことが大好き(なように見える)だからこそ期待していたし点を決めてほしいと思っていたと思うけれど、正直私は2023シーズンいっぱいで移籍を選択されることも覚悟していた。
そんな有田選手が『っぽい』ヘディングで起死回生の同点弾を決めてくれたのは、誇張無しで涙が出るほど嬉しかった。スタメンでもリザーブですらなくてもずっと腐らずに鍛錬を積んでいたのだろうと思えたし、それが実ったことが本当に嬉しかった。

そしてAT、待っていた逆転弾を放ったのは井林選手。井林選手のヘディングがすごい(ディフェンス4人置き去りってなに?)(というかあの滞空時間なに??)のは言わずもがなで、そこにつながるFKを得た野嶽選手、彼にふわりと浮いたパスを出した河辺選手、そして井林選手にピタリと合うFKを蹴った千布選手。野嶽選手以外は後半になってから入ってきた選手だ。
大島監督はずっと交代で入ってくる選手たちのことを『控え、リザーブ』ではなく『ゲームチェンジャー』と呼んでいたけれど、それは浅野監督の下でも同じなんだと実感したし、『誰が出ても同じクオリティでプレーできる』と監督も選手たちも言っていたのは今も連綿と続いているのだと思えた。これまでやってきたことも、積み上げてきたことも、悔しい思いも辛い記憶もちゃんと糧になっていたのだと。
終わってみれば、1点ビハインドからの逆転劇。実に4月21日栃木戦以来の勝利、勝ち点3。待ちに待ったトンネルの出口を抜けた白波スタジアムは、雨が上がっていた。

とは言え、まだ何も終わってないし決まってない。後半戦は始まったばかりだし、首位争いをしているチームと比べると勝ち点は倍ぐらい違う。魔境過ぎるよJ2……
それでも、ここを定位置にするためにもっともっと勝たないといけないし1点でも多く勝ち点を積んでいかないといけない。そのためにサポーターができることは本当に微々たるものかもしれないけれど、『週末にユナイテッドの試合を応援できるぞ』という気持ちで働いて、DAZNや時々現地で声を枯らしながら応援する(あと時々徳を積む行動をする)ことは諦めずにいようと思う。

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