BOOKOFFには本と、本との物語が詰まっている
私は基本的に、BOOKOFFの一般書籍の棚はすべて見ることにしている。
来年書く卒業論文の内容を膨らませているのだが、どうやら私の設定したテーマである「萌え」は、相当色んな論じ方ができるらしい。
当然アニメ・漫画の見地から。心理学の観点から。キャラクタービジネスの論理から。言語学まで。
どのジャンルの書籍を見ても、何かしら「萌え」と繋がりがありそうな気がする。
その中のどの繋がりを卒業論文の主題にしていくかはまだ決めていない。
だから私は、一般書籍の棚を満遍なく見ている。
一般書籍の「漫画論」の並びに、こんな本があった。
「アンチ○○ 著者:アンチ○○委員会」
もちろんだいぶボカしてはいるが、大体こんな感じのタイトルで、『○○』という作品がとにかく嫌い!という本らしい。
聞いたことのない出版社の本だったので、よけいに気になって、手に取ってパラパラとめくってみた。
まあ、なんというか、本として成立させるために、つまりページを稼ぐために、無理矢理ケチ付けている、というような感じ。
とにかく、一つひとつの描写、設定、セリフ回しにいたるまで、なかば「気に食わない」という理由でチクチクと。
けっこう突飛な指摘や、きわめて主観的な文句も多くて、筆者の委員会一同すら強いられて書いているのではないかと思うくらいだった。
私は予想した。
この本は、
弱小出版社が生き残るために、
人気作品にあやかって、
でもあやかるだけじゃ有象無象だから、
あえて逆張りして、無理矢理本を出してやろう、
という戦略だったんじゃないかと。
たぶんアンチ○○委員会メンバーは出版社の人で、
「とりあえずこの漫画にケチつけて少しでもタイトル買い狙いましょう、炎上したら儲けもんでしょ」
という一心で、『○○』を読みまくって、片っ端からツッコんでみた、的な。
膨大な愚痴の中には、これこの作品ちゃんと読み込んでないとこんなこと分からないよね、ってくらい熱のこもった物もある。
たぶんその人はもともと『○○』のファンだったけど、出版社のために泣く泣くアンチを装ったんだろうなあ、と思うと悲しくなるね。
しかし、そのような本を出さないと先行きが怪しいくらいなら、いっそ潰れてしまえばいいと思うが。
そんな出版社求められてないと思うんです。
で、もっと問題なのは、
「この本がBOOKOFFにあった」
ってこと。
誰か買ったんだよね、これ。
献本や売れ残りをそのまま売った、ってならまだ救いだ。
実際、売られていたその本は、新品かと思うほどキレイでまったくヨレも折り目もなかった。
それなら、「未使用品」という幾分かマシな結末になる。
悲しいのは、「本当にこの本を読もうとして買った人」がいる場合だ。
なんせこの本の状態は「新品同然」だったのだ。
最低でも一人、この本を買って愕然として、即売った人がいる。
もうこれは被害者だ。
買ったのは、「怖いもの見たさ」のファンだったのだろうか、それか、本物のアンチだったのだろうか。
ファンなら、「なーんだこんなもんかあほくさ」で済まされる。
もしこの本を買ったのが、自分の納得行かない点をこの本が説明してくれるということに期待した本物のアンチなら、それはそれはもう、心中をお察ししてしまう。
この本が立ち読みできる状態にあったら、まあ間違いなく誰も買わなかっただろう。
書店側がこの本を立ち読みできないような包装にするという大罪を働いたか、通販サイトでタイトル・概要だけでギャンブル買いしたかというのが考えられる。
たぶん後者だと思う。
「どうか実のある本であってくれ!」
と願って買った人。
まあ、結果は「準新品」でBOOKOFF行き、だったわけですけど。
新品同然のそのアンチ本からは、見せかけのアンチの怨念以上の、凄まじい負のオーラがにじみ出ているように思えた。
本棚にあるたった一冊の本を見ただけで、このように想像できてしまう。
思えば、BOOKOFFは不思議な場所だ。
「売られた本」を、売っている。
だから、在庫処理というような理由を除けば、ここに集まる本には、一冊ごとに誰かが経た軌跡が刻まれている。
「就職活動」のコーナーにある本には、私と同じように藁にもすがる思いで自分の足りない就活知識を得ようと、汗ばむ手で読み込んだ跡が見える。
「名前付け」のコーナーにある本には、自分の子供に幸せな将来を歩んでもらうために、その豊かな人生を象ることができる名前を付けようと、あたたかな手が包んだ記憶が残されている。
キレイなままの『アンチ○○』からはかえって、出版社の苦肉の策と、購入した人の失望という、赤黒い闇が浮き出ている。
誰かの物語を紡いだ本たち。
そして、やがて次の物語を生む。
そのために、BOOKOFFの本たちは私たちに、「少し古くて、新しい」扉を開いてくれている。
だから、もしあなたがBOOKOFFで「今すぐ買ってずっとそばに置いておきたい」と思うような本を見つけたら、その本が辿った物語のことを想像してみてほしい。
その本は、ある人を最大限に満足させて、その人がその本を必要としないくらいにまで成長したから、売られたのかもしれない。
その本は、実は元の所有者も出来る限り置いておきたいと思っていたのに、金銭面や急激な状況の変化で、どうしても手放さなければならなかったという悔し涙が染み込んだものかもしれない。
その本は、あるいは、もしかしたら──。
中古本には、本に書かれている内容以上の、唯一無二の物語が上書きされている。
あなたがそんな不思議な本に出会ったなら、ぜひとも買ってもらって、新しい、あなただけの物語を紡ぎ始めてほしい。
言わずもがな、本の価値は「100円」では済まされないのだ。
ところで、あとでさっきの『アンチ○○』の出版社を調べた。
ある分野では日本一といってさしつかえない出版社だった。
ますます、なんであんな本を出さなくちゃいけなかったのか、物語の解釈に困る。
今お読みいただいた文章にもれなく「価値」が付与されます