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研究者として、化学で世界を変える!産学連携でドクターを応援する!|三菱ケミカル 朝戸良輔さん

笑顔でエネルギーに満ち溢れて話をされていた様子がとても印象的だった朝戸さん。奈良先端科学技術大学院大学(以下、奈良先端大)に来て、研究にますますのめり込み、ドクターまで進学、奈良先端大とフランスの大学で、2つの博士号を取得されました。海外の大学のドクターも取得できるプログラムのこと、ドクターから企業へ就職するメリット、ドクターに挑戦する人を増やしたいという想いなども含めて、詳しくお話を伺いました。 

朝戸 良輔(物質創成科学領域 博士後期課程2021.3修了)
奈良先端科学技術大学院大学では、光反応で色変化を示すフォトクロミック分子の研究に取り組む。博士後期程修了後、三菱ケミカル株式会社に入社。入社後はスマートフォンのディスプレイ中の材料等の基礎研究と開発を行っている。

ドクターの時の就職活動状況

私が就活をしていて、企業の人事の方が皆さんおっしゃっていたことは、ドクターを採用する理由が化学の専門家だからという部分もありますが、やっぱりバイタリティ、何かぶち当たった時に乗り越えてきた力があるので、その問題解決力を評価してくださった。あとは、リーダーシップ性も含めて、チームできちんと仕事ができないと、ドクターは絶対に成果を出せない部分があるので、そういうことができている人は結局、化学業界でなくても、凄く優遇されました。実際、私は化学メーカーだけでなく、食品会社や技術営業寄りの職種を受けたり、海外で研究していた経験も活かすために、商社も受けてみたり、色々と幅広く受けました。他の業種を受けた理由は、自分がまず通用するのかということと、面接の時の受け答え、質問をして、どういう風に考えてらっしゃるのかを肌で感じることでした。

そのままアカデミックに残ることも考えましたが、学部、修士、博士になって研究を進めていくにつれて、実際に化学が世界で役に立つところに関わるためには、やはり製品を作るところに行かないと駄目だと、どんどん思うようになってきました。また、製品になるまでには大きな道のりがあって、相当難しいけれど、凄く面白いと先輩から聞いていたので、そこを経験と思いしないことには、化学の全部の面白みを分かることはできないと思い始めて、企業に就職することを選びました。

三菱ケミカルへの入社を決めた理由

やっぱり化学で世界を変えたいということが私の就活の軸で、研究の軸でもあるので、それが実現できるところを選びました。三菱ケミカルは世界シェア、日本シェアで考えても、日本の企業の中では大きく幅広い分野で展開しているので、何にでも挑戦できる、何とでも組み合わせられる、自分が今取り組んでいる研究と他の部署が取り組んでいる研究を組み合わせることも自社内であれば、守秘義務も必要なく、やりやすいだろうということもあって、弊社を選びました。

あとは、どうしても基礎研究をしたかったからです。0から100までが製品だとすると、0から1、1から10、10から100の3つが製品化に必要なステップだとして、10から100の部分が企業が最も力を入れる利益の出るところです。ただ、やはり化学をやるからには自分のテーマで0から100へ持っていきたいという思いが強かったので、0から1の基礎研究部門を有している体力のある会社、また、どんどんステージを上げていける環境が整っている会社が良いと考えていました。基礎研究はなかなか利益に結び付きづらいがゆえに1から10だけ、10から100だけしかやらない会社もありますが、やはり0から1を生み出さないと、長いスパンでは化学メーカーとしては競争に勝っていけないというのが弊社の考えでした。これまでインクジェットやCD、DVD基幹材料などを基礎研究から生み出してきた歴史からだと思います。これが自分のアイデアで世界の役に立つものを生み出したいという希望とマッチしました。選考の段階で「成果を出していけば、0から100まで携わることができますよ」と、断言してくれました。

最終的に、5社内定をいただいて、非常に迷いましたが、弊社の待遇はとても良く、入社時のポジションも最初から決めてくださりました。あとは最近、更に凄く変わろうとしている会社だったので、その変わりそうというところがとても面白そう、自分の意見を出せば、会社もどんどん変わっていくのではないかなとも思い、入社を決めました。

取り組んでいる現在の業務内容

今は基礎研究をしていて、学生の時の延長のテーマを提案してやらせていただいているのと、通信関連の研究、スマートフォン等のディスプレイの中の材料を開発しています。前者は、自分の学生時代の研究を利用してシーズテーマとして立案し、成功しました。後者の2つは会社が見つけた大きな市場に対してのアプローチを考えていくような研究です。いずれも学生で行っていた研究のやり方に近く、自分の知識や論文や学会などで近い研究発表があれば、そこで得た情報などから新たな事業の種やアプローチを提案するのですが、金額や人役がとても大きく、例えば「これを作る」となると、結構な人数の研究員や関係会社の皆さんと協力しながらの開発を急激に進めるので、とてもやりがいがあります。後者の研究の中には製品に近い開発フェーズのものもあり、そちらは配合の調整や、性能の微調整のための合成なども担当しています。

開発と基礎研究の面白み

まず開発研究の方ですが、やはりお客様がいることが多いですし、実際にそれが改善できると、次は市場に出すフェーズになるので、世界中のお客様に使ってもらえます。少しの改良が大幅な性能向上に繋がります。また、材料の良いところは1個でも良いものを開発すると、それが一気に全製品に入るので、広がりが凄いです。それが目前に迫っているところを取り組むので、非常に面白いです。

基礎研究の方は本当にアカデミックの研究みたいなところです。ニーズ、シーズどちらのアプローチも取り組んでいるのですが、どちらにも、原理を追求する楽しさ、より大きな、新たな市場を作っていける楽しさがあります。世界中の論文を読んだり、自分の知識を出したりして試してみて、更に、自分で小さな試験をして作って、測定して、少しでも性能が出ると、たくさん作っていく…。また、まったく市場のないところやまだまだ日の目を浴びていないところを開拓していく。アッと驚くような、これまで夢と思われていたような技術を実現できる。開発よりも当たる確率は非常に少ないですが、本当に成果が大きいです。一つの分子が、市場を一新できる可能性を秘めていています。それができる場所が材料メーカーで、化学が世界を変えるところを見たい、ここに貢献したいという私の夢を叶える確率が一番高い場所も材料メーカーですね。

働く上で大切にしている、選択と勉強と笑顔

自分の仕事人生としては、基本的に簡単なことと難しいことがあれば、難しいことを選ぶようにはしています。でも、これは大学院からで、大学までは楽な方を選んでいました。大学院で河合先生と中嶋先生のお二方を見ていて、やっぱり難しい方を選んでこられた方だからこそ、これだけご活躍されているのだと実感しました。それに、ドクターで出会った親友は本当に難しいことを本気で選ぶ人、ビックリするくらい努力を惜しまない、今まで見てきた人の中で一番努力している人なので、その姿を見て、同じようにやらないといけないと思い、そこで人生が変わりました。もちろん時々は少しさぼってしまうこともありますが、今は私も絶対に難しい方を選ぶ、努力する方を選ぶように決めています。

もう一つ、研究者として、大切にしていることになりますが…。「チャンスは備えるところに訪れる」という生物学者のパスツールによる、とても有名な言葉があります。つまり、幸運は用意された心に宿るということ。フランスにいる時に、先生が教えてくれて、確かに化学はそうだと思い、私は凄く感銘を受けました。そのチャンスが化学にはたくさんあります。毎日実験していると、現象は多々起きているはずですが、何も勉強していない人には何もない、スルーします。一方で、しっかりと勉強して備えている人は、こういう現象が起こるかもしれないと考えるし、幅広い知識を付けている人は、何か現象が起きた時、それを見つけられるんですね。やっぱり発見することは化学では一番大事なことなので、しっかりと備えておきたいと今でも思っています。先ほどの話に繋がりますが、見逃さないように勉強は頑張っています。そこは絶対にやるようにしています。ただ、これは化学だけではなくて、全てにおいて、当てはまることだと思いますね。

他に、学生の時から、人と喋っていると、すぐ笑顔になってしまう、それが凄く良いところだと、みんなからは言われてきましたが、舐められないように、ヘラヘラしていると思われないように、少しは深刻な顔もできるようになろうと、最近は練習しています。それは半分冗談ですけど、やっぱり笑顔を忘れないようしています。あとは、相手が言いたいことの本質を見抜こうとする、何が言いたいのかは常に考えて、特に、仕事ではコミュニケーションを取るようにしています。

直近の目標と将来の夢

まずは今取り組んでいる0から1の研究を1から10へ、必ずフェーズアップしたいと思っています。実は相当難しくて、1000個の内の1個、確率0.1%しかできないと言われるほどのことですが、それを成し遂げたいですね。そして、最後にまで関われないかもしれませんが、基礎研究で考えたものが製品化されることを夢見ています。

もう一つは、やっぱり将来的に自分が生み出した素材を自分で販売して、実際に市場を開拓するところをやりたいので、最終的には、公募での他部署への異動や材料ベンチャーを立ち上げたいと考えています。そのために、会社の中でベンチャーキャピタルや研究の中でも顧客や共同研究してくれる企業と自社の研究を繋げる部門にも行き、経験を積みたいです。

産学連携でドクターを応援する夢

産官学連携に私は携わりたいと思って入社したこともあるので、産学の連携も凄く取り組みたいと考えています。他社になりますが、就活の時にお世話になった人事の方がいらっしゃって、ドクターの処遇を変えたいという夢を持ち、官や学ではなく、産から変えるとおっしゃっていました。ドクターの就職先も含めて、実際に何をしているかを発信できる人がいないから、よく分からずにドクターには行きたくないと多くの人は思ってしまう。もちろん金銭的なバックアップが少ないからという理由もあり、そこは官に頑張っていただきたいですが、もちろん産も金銭的なバックアップをしたり、ドクターとして企業に行くと、こういうことができると発信したり、その方はそうおっしゃっていたことが、とても新鮮で、強く感銘を受けました。今、私も自分でドクターを応援するために色々と実践しています。まずはドクターとして成果を出す、やっぱりドクターを会社に入れると、凄いと思わせることが一番大きなところだと考えています。あとは、ドクターの企業での働き方について発信する。今回のインタビューもですが、発信する場を与えていただいた際は、絶対にお受けするようにはしています。

また、ドクターの受け入れ態勢が整っていない会社は非常に多いです。私が受けた他分野の会社はどちらかと言うと、修士の扱いに近いです。、化学メーカーの場合、最近はとても受け入れ体制が整ってきています。今は中央研究所にいますが、ここに来た今年の新人、約30人の内、ドクターは確か1/3近くで、給料も入社時点から修士よりも等級が上です。ドクターは良い人材だと私は思うので、ぜひ挑戦する人が増えてほしいですね。

現役生と奈良先端大を目指す学生へのメッセージ

奈良先端大は「やりたい!」と言って手を挙げれば、挑戦することに対して、凄くサポートしてくれる大学院です。それは少数精鋭なところもありますし、学生に対する先生の割合が多く、予算も多いところもそうですが、今まで物凄く挑戦してこられた先生方ばかりなので、学生がやりたいことに、全力でバックアップしてあげようと思う先生は多いと思います。そして、挑戦すれば、失敗しても、成功しても、自分が大きく変わります。だから、もがき苦しむこともありますが、頑張れば、自分を変えられる大学院、180度人生が変わるような大学院だと思っています。

実際、自分がそうでした。学部の時はアカペラ漬けで、テレビの全国大会にも出たくらい、一生懸命にそれに注ぎ込んでいて、全く勉強していなかった自分がドクターまで行って、会社で基礎研究をさせていただいているように、全く変わりました。奈良先端大に来る前の学生も、現役の奈良先端大生も、それを意識付けて取り組んで、何かに挑戦し続けてみてください。

奈良先端大で生まれた、一生ものの出会い

まず一つは、奈良先端大には学部がないので、皆さん大学院から新しく合わさって、みんなで勉強しながら、取り組む形になるため、凄く仲良くなります。学部1年生の時と同じような形、むしろそれよりも、全員が同じ目標に向かって進んでいくので、クラスの人達ともっと仲良くなります。その中でも、ちろんドクターに進学する人も多く、私の時は20%以上、90名中の約20人がドクターに行き、特にそのメンバーとは仲良くなりました。研究のディスカッションを夜通しするような人もたくさんいて、そういう経験はなかなかできないですし、それがやっぱり社会人になって、凄く活きていますね。今でもすぐに連絡を取り合ったり、研究の相談ができたり…、一生付き合っていこうと思える、とても密な人の繋がりや関係ができました。本当にこの出会いは凄くて、本当に有り難かったので、奈良先端大で良かったと思っています。

日本とフランス、2つの博士号を取得した海外経験のススメ

奈良先端大の特徴として、大学としても、海外留学をとても押しているので、海外経験が凄く積めます。私の場合は「ダブル・ディグリー・プログラム」を取って、大学が金銭的な援助もしてくださったので、行きやすかったです。このプログラムは奈良先端大と海外の連携先の大学に同時に所属し、両大学の教員から研究指導を受け、連携先の大学と奈良先端大の各基準を満たして、合計3年相当分の成果を出すことができれば、各大学からドクターが得られる制度になります。その制度でフランスへ行くことができたので、Ph.Dを二つ取得することができました。ただ、やっぱりかなりきついので、簡単に行けると思ったら駄目ですが、覚悟を持って頑張れば、きっと達成できますし、先生方、職員の皆さんはとても応援、サポートしてくださいます。ぜひ皆さんにも、挑戦してほしいですね。

※この記事に記載した内容は取材当時の情報になり、会社名や役職名等は現在と異なる場合があります。