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『鈴木先生』感想②

やっと書類を書き上げて提出できたので、本日は前回の投稿の続きを。

グレーゾーン
『鈴木先生』の作品でのテーマが、数々のグレーゾーンを論じているというのを後から聞いて、なるほど!としっくりきました。
細かいエピソードを振り返ってみると、それはまた味わい深い話が詰め込んであって、改めて、『鈴木先生』、読後の余韻がすごいです。

「ふつうの生徒たち」についての描写。よくできて目立つ訳でもなく、悪目立ちするタイプでもない、いわば"グレーゾーン"にいる生徒たちともいえる。実際はそこが人数的にマス層なのではないかとも思う。
学校では問題のない子どもの上にクラス運営が成り立っているとすると、
やはりクラスの空気をどう作るか、先生はリーダーとしてそのグレーの色をどう混ぜ合わせるか…リーダーとしての先生の重要性を感じた。
(そして唐突にも、本田由紀の『学校の「空気」』という一般向けの本が思い出された。)
また、クラス全体での調和が求められるというのは、ある意味日本的なのかもしれませんが…その雰囲気もすごくわかる。

そして、学校に順応すれば社会で上手くやって行ける訳でもないのに、過度に順応してしまういい子たちの話。私としてはドラマ版の、掃除をサボることを自分に許せない丸山の話が印象的でした。そういう、学校と社会との接続のモヤモヤみたいなのはわかるし、わかるけど、
意外と社会って学校みたいに厳しくない/校則でがちがちに回っていない、良くも悪くもグレーゾーンがあるんだ、と捉えたら、ちょっと楽になる気もする(?)

他にもいろいろあるけど、そのままそっとしておくグレーゾーンの意味、余白を残しておくという心の余裕と、はっきりさせたい・白黒つけたいという心のせめぎ合い――過度に白黒つけるのではなく、必要に応じて境界線をはっきりさせるといった鈴木先生のエピソードは、改めて心に沁みました。

(なんせ、グレーだったら白が何%入っていて、黒が何%なのか、データと統計である程度明らかにしようとしちゃうのが計量社会学だよなぁ…)

グレーゾーン:鈴木先生と麻美さん
面白い!!この話は鈴木先生と麻美さんの関係にも繋がっていて、人間関係のグレーゾーンの話となると、正直なところなかなか頭の整理がつかなかった。

2回目のデートで麻美さんから付き合うことを打診された鈴木先生は、思い切って(!)独特の見解を示している(割愛)。言ってることは常識的(規範的?)にはグレーゾーンだと思うが、鈴木先生は上手く乗り切っているなぁと思った。というか、麻美さんの心が広いのかな…?(笑)

その後、2人の関係はグレーゾーンに落ちていくのではなく、お互いが譲歩しながら、麻美さんのリードも上手くて、「鈴木くん」が結果的にははっきりと答えを出している。必要な時には白黒つける、ということか。

それにしても、ぶっこむ鈴木先生について。いやいやいや、麻美さんは付き合うかどうかを打診しているわけで…話、飛び過ぎてませんか?…と笑っちゃいましたが、この授かり婚(できちゃった婚)の話~鈴木裁判は、読んでいてとても面白かった。

物事を深く考える鈴木先生がそこブッ飛ぶ?と思う一方で、よくよく話を聞いてみると、非常に腹落ちするものがある。これは年齢的な話もあると思うが、中学生の話ではなく、30歳くらい、アラサーの2人のお話なのできっとこうなるのだろうと、案外自分と年齢が近い(!)ので妙にしっくりきた。

麻美さんとの関係、なんかプロセスというかその過程というか、色々飛ばしてない?という気はやっぱりするのですが、煮詰めて考えればもう「付き合う⇒子供が近々生まれてもいいよね」という図式は、いやはや、一周回って単純明快で清々しいし、なんか羨ましいとも思う。
(人口学者たちも、きっと人口推計のモデルが単純化するから喜ぶと思う。知らないけど。)


この辺りの話は、鈴木先生の頭脳で深く考えだすと、おそらく永遠に覚悟の決まらない命題なので、ある程度の勢いをつけたのかな。なんというか、その場の2人の気持ちやその場の流れを尊重するために、事前に頭で考えておくというか…言語化するのが難しいのですが…恋愛においてもそこまで踏み込んで考えて、事前に結論を出しているのがすごいなぁと思った。
(いややっぱり、2回目のデートにしてはすずせん考えすぎじゃない?とも思うけど、こうやって大事なことをノリででも話題にできる鈴木先生はやっぱり素敵だと思う。)

たしかに、読者としても2人の楽しいデートシーンが見たい♡とかそういうのよりも、どんな会話を繰り広げて麻美さんが突っ込みを入れてくれるかが気になるわけで、展開が早いのはいいのですが…小話だけど、小川蘇美の真似して寝起きの鈴木先生をいじる麻美さんも、とてもよい(笑) あと2人が頑張ってデートの予定調整してるなぁ、とかね…


最終的には、麻美さんが静かにリードして(「きゅ…急展開…!」)、鈴木先生が一発で「ブチかました」わけです…
お幸せにというほかに言いようがありません。(笑) 
まあ私はあまり考えたことなかったけど、こういうパターンも幸せなのかもしれない。

鈴木裁判

女子中学生にとっては気が気じゃないのはとってもわかる!人気者の担任の先生が!あれだけ普段かっこいいこと説いてて自分はデキ婚なんて!!ってすごい共感して観ていました(笑) 男性陣は意外とそうでもないらしくて驚き。いやぜったい気になるでしょ…!!!


鈴木裁判。自分の感情や野次馬ゴゴロといった中学生らしさ全開で、「大人」ならグレーのまま放置しておくであろうできちゃった婚の真相に迫ろうとし、そのグレーゾーンを白黒させようとする。

絶対中学生の議論じゃないでしょ?!っていう充実ぶりでとても面白かった。
最後に判決が棚上げされて、グレーゾーンは白黒ごちゃ混ぜになりながらも、そっとしておかれるという生徒たちの判断も、またなんとも…良い。

これに立ち向かっていく鈴木先生もやっぱりすごいと思います。
確固たる信念が無ければ、なかなか真向に議論を引き受けるというのは難しいし、しかも感情的になる生徒も沢山いるし、それらにどう対応するか…
論理の上で納得がいくかだけじゃなくて、中学生の生徒にどう腹落ちしてもらうか…色々なリスクもあるし、とってもチャレンジングだと思う。細かい議論を深堀していくと無限に書けそうです…

相手は中学生だから――いや、こういう話は大人を説得するよりもきっと中学生を説得する方が大変で、中学生を説得出来たらみーんな説得できるような気もしてくる。

そういう意味で、『鈴木先生』は中学校を舞台にしながら、今の社会にもつながるところを地続きに論じている感があって、今回とても惹き込まれたのだと思う。

いい作品を教えてくれた先輩に感謝…!!

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