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「介護3.0」ー本質、デザイン、フォーマット。そして、with。

 栃木県下野市にある、有料老人ホーム「新」(あらた)。これまで私は10年近く、全国の介護・福祉系の施設を訪ねていますが「老人ホーム」のくくりでは、圧倒的に”突き抜けている”と思います。老人ホームのイメージが覆されて…。
 近くにあったら遊びに行きたい。何かあれば、寄りたい。何か一緒に取り組みたい。そんなところ。

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 2015年の開設時から今年9月まで施設長を務めてきたのが横木淳平さん(37)。横木さんのお年寄りに向き合う姿勢、ケアに対する在り方は、2年前に初めてお話を伺ったときからまったく変わっていません。その姿勢を、昨年春「介護3.0」とブランディング。ブログでも発信し続け、多くの人の共感を呼び続けています。
 そんな横木さんが「フリーになります!」宣言したのが今年10月。

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 「介護3.0」をブランディングしたのが、ブランディングデザイナーの青柳徹さんです。 http://toruaoyagi.com/

(2019年、横木さんに「介護3.0」について取材した記事は上記を。この記事アップにあたり、note記事は再編集しました)

横木さんの思いや活動に、青柳さんが強く共感していることを私は感じとっていました。横木さんに青柳さんを紹介して頂き、新の敷地内にある「caféくりの実」でお二人にお話を伺いました。

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(右が横木さん、左が青柳さん)

横木さんと青柳さんが出会ったのはいつ頃だったのでしょう?

(横木さん 以下敬略)2019年3月に行われたトキメキトークショー(※)というイベントで。新の実践している介護や自分の考えをどう発信していくか考えていた頃です。
 青柳さんが「これ、日本とれますよ」って(笑)。そこからスピーディに「介護3.0」のブランディングが始まりました。僕は、23歳頃からやってることは変わっていない。それを『介護3.0』としてプロデュースしブランディングしてくれる青柳さんという人が現れてくれた。新しい行動がとれたんですね。

※トキメキトークショーとは、“若者たちがこの時代を生き抜く多様な手法を学び、未来につながるトキメキやアイデアが生まれる場になれば”と2016年12月から始まった、新とツバキヤとの共催イベント。
 ツバキヤは、世代・障害の有無、業種などの垣根を超えて人と人がつながり地域コミュニティや社会参加の形を考えるプロジェクトチームbridgeによる運営・場。代表は作業療法士で(一社)Bridge代表の山口理貴さんです。

本質という共通言語

―青柳さんは、横木さんのどこに刺激を?

(青柳さん 以下敬略)「横木さんのしていること、考えは、みんな幸せになれるんですよね。誰も損していない。自分も一緒に何かできたら楽しいなって。祖母が亡くなったときに、介護業界への違和感はあったんです。“これでいいのか?”って。でも世の中こういうシステムだし…。何らかの課題はあるという意識のなかで横木さんと出会いました。

―介護・福祉に携わっている人と、地域で何かしている人、まちづくりをしている人たちがどんどん近づいていると最近強く感じています。面白い取組みをしているところは、介護だけ、福祉だけを見ているのではないんですよね。

(横木)介護とまちづくりは切り離せない。営みに入ってくるもの。人口減のなか、介護をまちに返すしかない。あったものを返すイメージでしょうか。言い方は悪いですけど、高齢者を“取り出した”のがこれまでの施策。なぜかというと、みる(介助側)人のため。代行的になっているわけです。今度はそれを戻す。お年寄りが主語にならなければならないんですよ。介護3.0は、新しいものというより、本質的なフォーマットに戻すためのソフト。

(青柳)業界自体が止まってしまっている。でもそこに、いろんなひとが関わることで、介護業界もグラデーションされていい。そういう時代だと思います。介護というとどうしても閉鎖的なイメージですよね。そこを「介護3.0」で変えていけたらと思うんです。

(横木)僕は介護しか出来ません。ただ、僕がやっている介護がマインドセットになるとか、まちを面白くするのであれば使って欲しい。

(青柳)横木さんのやっていることは、自分事化されやすいんです。介護を身近に感じない人たちが介護に目を向けて、(介護が)魅力的に映るようになる。“介護ってこういう方がよくないですか?”っていう空気をつくる。それが大事のかなと思います。

(横木)介護とまちづくりというものを考えるとするなら大事なのはスキルの共有。介護とデザイン、介護と建築とか。ツールが2つ、3つになると結果、輝いていったんです。

(中)まち、にいるような雰囲気

(上)の文中使用 カフェ外観

1階リビング

写真にあるように、新のハードは、内部はもちろん、ランドスケープデザインも伴って外部も”圧巻”。こうした「場」の設定、設計によってイベントも必然とハイなものになっているのでしょう。2017年に医療福祉建築賞を受賞しています。

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(青柳)新しいことを生み出す本質って、何かと何かの掛け合わせでしかないんですよね。そうすることでお互いが広がりを見せ、スピードも速くなる。横木さんの視点は、その人にとっての使い勝手であるとか、その人の持っているスキルであるとか、そこを見ている。管理する人の視点ではなくて、ちゃんと相手に寄り添っている視点なのですごくいいと思うんです。

(横木)本質ってめちゃくちゃシンプル。自分の畑を掘る。掘る作業が本質。掘っている人じゃないと語れないじゃないですか。

(青柳)横木さんの言うように、本質ってひとつなんです。共通言語が一緒だから横木さんと何を話していても通じる。

(横木)個人のアンテナの高さ。例えば去年は畑で地べたに座って作業していたお年寄りがいます。今年は鍬が土に食い込むようになった。その気づきこそ。気づきから行動を繰り返す。それが介護の本質なんです。

 2018年7月に取材させてもらった際も横木さんは、こう述べています。

「一般的によく行われている利用者全員の食事チェック表は意味がない。ケアに落とせていない。必要な人だけにすればいい。目の前の利用者が食事を食べない理由はひとつではない。嚥下や咀嚼等の問題ではなく、家族に会えない寂しさから来ているのかもしれません。〇〇ケアなどとネーミングして、目の前の問題を難しくしてしまっているように思えるんです。認知症ケアは、『あなたのことが大好きです』と伝えるだけ。本質はシンプル」

(横木)プレーヤーが僕で、見せ方の部分を青柳さんが担ってくれている。篠崎さん(新を運営している社会福祉法人丹緑会の常務理事も関わってくれているんですよ。新では施設長でしたけど、法人のトップではない。フリーになったほうがいいんじゃないかって応援してくれた。「お前がどこまで行けるかを見たい」って。だから手伝うと。

ビジョンが要る

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※敷地内にある工房「TEPPEN」。この”ごった感”が最高だと思う(筆者)。
左に映っているのが、この記事の最後に登場する、新を運営する社会福祉法人丹緑会の篠崎常務理事。右が横木さん。中央、筆者。(2018年)

―青柳さんと横木さんが出会ってまだたったの一年半。ブランディング、プロデュース、リアルな場での披露、実践…さらに書籍化(予定)。とてもスピーディ。

(横木)前に進めている実感を青柳さんが与えてくれています。

(青柳)ビジョンのために動くには、具体的なビジョンが要るんです。

(横木)業務にはプラスアルファが含まれていない。8時間労働したってそれだけでは何も変わらなくて。そこに日々10分でも、自分が前に進むためのことができたらいい。だからこそビジョンが要る。

―(筆者)介護業界に携わる人って、人がいい。優しい。入職したての頃は、誰しも「こうしたい」という思いがあるのに、いつの間にか忙殺され、すべてが業務化されていく。「ホントはこうじゃない。でも実際は…」って、「でも」が入る。介護職の夫を見ていてもそうで、あきらめてしまっていることがとても残念。そこを、青柳さんみたいなデザイナーが“突いて”欲しいなって思います。

(青柳)僕の普段の仕事がそうなんです。クライアント先の会社の社長だけでなく、みんなと会うようにしている。僕が関わることで、それぞれが普段と違うところに気づく。自分が成長している感覚を持ってほしい。すると結果、会社の成長につながるんですね。見え方が変わるということが大事。「あ!」ってなるだけでテンションがとても上がる。課題に対する答えが見えていたとしても僕はそれを直接は示さない。ゼロからドーンというのではなく、自分で考え見えたというプロセス。そこに持って行けるようにしているんです。

(横木)ひと現場に、いちデザイナー。それいい(笑)!!

結果にこだわる

(横木)介護業界の未来は明るいものではないですよね。新卒で入って30歳で主任になったとしても、会社には社長だとか理事長だとかがいて、それでは何のイメージも沸かない。施設が見せなきゃいけないのは、具体的なビジョン。こうやっていけば介護の仕事は面白いし、きちんとした収入だって得られるというのを僕は見せたい。だからフリーになる。
 介護を楽しんで、感動して…。それだけじゃ何の居場所も自由もない。介護業界には未来がない。
 だから、もっと結果にこだわるべきだと思うんです。レクが単なるセラピーになってやしないか。レクリエーションなんて言葉があるのは、ボーイスカウトと介護業界くらい(笑)。「こんな取組みをしてこうお年寄りがこう変わりました」「こうなりました!」って主張できなきゃ。胸を張れる状態でなければ業界として「賃金上げて」だって言えないですから。

ー青柳さんと横木さんが考える「まち」について聞いてみたいと思っています。青柳さんにとってのいいまちとは。

やりたい、ができるまち

(青柳)自己実現できるまちですね。ハコモノをつくったり、どうやって人を呼び込むのかと考えている地域が多いですけど。
大事なのは3つ。外の人、そこに住んでいる人、そして最も大切なのが自分。自分がどう在りたいか、自分がやりたいことがあって、それができる状態であることが結果的にまちづくりになっていくと考えているんです。「自分がやりたいからやる」ってストレスがないですよね。
 まちのビジョンについても、自己実現できるシステムがあれば。地域の人たちが盛り上がらない限り、まちは盛り上がりません。盛り上がっているところに結果、人が集まる。自分は何をしたいか、何ができるのか、ライフビジョンを一緒に考えてあげる。そんな姿勢が地域には必要でしょうね。「何かやりたい」という人こそ、まちの資源じゃなかと思うんですよ。「やりたい」が具体的に決まっていなくてもいい。
 人間って、基本的にやりたいことしかやれない。そうじゃないからストレスが溜まるんですよね。やりたいことをやれるのが一番いいわけで。「何かやりたい」という思いがあるのであれば、それを具体的にしてあげるのが僕の役割だと思うんですね。それをまちの仕組みとしてつくってしまえば。
 「何かやりたい人―!!決まっていなくてもいいよ」って手を挙げてもらって、その中身が決まっていなくても「じゃあ受け入れまーす」って。“儲かることが目的だ、正解だ”って決めてしまう人も多いけど、そんなに儲からなくても自分のやりたいことがやれれば、自分らしく生きられればいいなって思う人も多いと思うんですよね。どちらも間違いじゃない。“自分の生き方がこうだから、これしたい”でいい。そんな人たちに「こういうやり方があるよ」「こういうことやってみたら」と提案する。「空き家あるからあそこ使えるよ」。そうすれば、空き家なんていくらでも埋まっていくんです。プレーヤーを作ってしまえばいい。有名な人を連れてきてそこでドカーンと何かしようったって、自分事化できないですよね。「何かできたから行ってみよう」「おもしろかったね」で終わるのではなく、まちのやりたい人を応援し、それができれば、まちの人は楽しくなる。“自分の身近な人が何か始めた”ってなればその店に行くでしょうし、刺激を受けて自分も何かしたくなる、やってみようかなってなるかもしれない。それが結果、まちの財産となると思っているんです。その仕組みづくりをやっている、提案しているところなんですけど。
 介護も同じなんです。考え方とすれば。
 それを僕はまち全体でやっているというか。それをまちのビジョンと打ち出す。
 まちが決める必要もないし、決めちゃダメ。まちは“そういう人来てください。サポートしますよー”でいい。そしたらやるんですよね、楽しいから。介護もそうなるといい。


青柳さんが主宰している「しもつかれブランド会議」の活動

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栃木の郷土料理“しもつかれ”を本気で栃木ブランド化するプロジェクト。
栃木県民にとってはソウルフードの“しもつかれ”。ただ、独特の見た目と風味から好き嫌いが分かれ、若い世代は食べる人が減少しているといいます。

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(しもつかれ:基本材料は鮭の頭、大豆、根菜、酒粕)
“伝統料理というのは、長年敬称されてきた地域交友の料理。まさに栃木の文化そのもの。この栃木にしかないアイデンティティの灯を消さないために…”と活動趣旨がSNSには綴られています。
しもつかれをアレンジした料理やスイーツなどの商品も続々誕生。
しもつかれの既存イメージのアップデートを目的に料理・アート・音楽などとコラボしたコンテンツでまちをジャックする「しもつかれウィーク」を今年から開催しています。
その際は新ともコラボし、利用者さんからしもつかれの作り方を教わるイベントを開催したり、新の畑で利用者さんが大豆を育てたり…。

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コロナ禍でも「しもつかれウィーク2021」が開催予定。来年2月、オンラインでのイベントや開催場所を分散させるなどし、準備は着々と進められている様子です。
ファッションブランド「シモツカレヤンキー」も誕生させた青柳さん。
ブランドコンセプトがとにかくカッコいいんです。

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ブランドコンセプトは「そこにしかない個性を応援する」。
個性が潰される時代。
同調圧力に屈せず、自分らしさという個性を貫く人たちを応援したい。
しもつかれは個性。
栃木の個性。
圧倒的な個性は常識を覆す。
どローカル・どマイナーな郷土料理がその個性を武器に
ローカルの在り方を変えていく。

一対一

(横木)それって、ケアプランの立て方にも似ているんですよ。その人の理想の生活と現状を把握したうえで、どうしたらプランが出来るかっていう、ステップ1、ステップ2、ステップ3というのを一緒につくっていこうっていう。

(青柳)そうそう。介護のなかにもその仕組みはあるはずなんですよ。

(横木)それが専門的にめちゃくちゃにされて、本来のひとりのお年寄りをプランニングするということがが薄れてしまっている。

(青柳)管理しやすいシステムのなかで動かそうとしちゃっているからどんどん歪みが出てきている。個人が置いてけぼりにされている。管理する側の論理で全部組立てられている。まちづくりも同じで「みんなのために」と言ってるけども、ひとりを見てない。僕は一対一をやるべきことだと言っているんです。みんなのために、と言いながら一人をみてないから誰のためにもなっていないことがすごく多い。個人レベルの自己実現をしてあげること。それを100回やればだって100人の自己実現できる人が生まれるわけで。そっちのほうがすごく現実味がある。みんなのためにというのは誰も幸せになっていない。それよりも、目の前のひとりを幸せにする。これは横木さんがやっている介護と同じなんです。

(横木)いま、顔にモザイクかかっているじゃないですか。そのやりかただと顔がわからない。たとえば鈴木さんなら、鈴木さんの顏の眼の形とか鼻の形とかがある。じゃあ、その人に何しようかってことなんで。集団だともう全員顏がわからない、顏も分からない人を相手にするかって、何していいかわからないですよね。

(青柳)個人レベルでちゃんとこう寄り添うというか。一対多でなくて、一対一なんですよね。それを繰り返せばいい。

(横木)そうそう。

(青柳)そうすれば目の前の人がどうなっているのかが分かる。

(横木)僕は介護でいえば、圧倒的な個別ケアと言っていますけど「それは無理じゃない?」っていうのが大半。無理なのは僕も知っているんですよ。そうじゃなくて、“やる前提”で何をするかを考える話なんです。

―青柳さんと横木さんの考え、見ているところが一致している。
めちゃくちゃシンプルで、何をしてもあてはまるというか。なぜシンプルなことがこんなにも分断化されてしまったのでしょう…。

(青柳)全て、管理する側の論理なんです。管理しやすいほうにシステムが組まれてしまったから、顏が見えなくなった。個人にモザイクがかかってしまって、誰のためにもなっていない。やったつもりになってるだけ。だからもう一回、徹底的に「一対一をやろう」だと思うんですよ。大変だけど。横木さんも言っていますけど、いつか限界は来るだろうから、僕みたいな人たちをつくっていけばいい。自分をフォーマット化して、やりたいと思う人が「こうすればできるよ」とできるように。そうすると一対一がたくさん生まれる。

前提は「やる」

(横木)一対一で見ようっていうマインドセットが大事なんです。“個別化したいけど、個別は無理。やっぱり集団だよね”ってあきらめてしまうけども、0を10じゃなくて、2とか4とか、間でできることはあるはずなんです。だからやっぱビジョンを掲げる。圧倒的個別ケア、一人ひとりを見るぞって言ってなくちゃいけないんですよ。実際見るのは無理でも言う。やるかやらないかではなく、やる前提で考えることによってアイデアとかやり方が生まれるから。

(青柳)介護3.0という理論をつくっておけば、それに共感した人が「自分も横木さんみたいにやりたい」って人たちが集まることになるので、横木さん一人では出来ないことでも、そのビジョン、その仕組みをフォーマット化しておけば、誰かが実践してくれることで、いい介護が結果広まる。やりたいのはそれ。

(横木)僕の強みは実践力。「そんなに言うならお前やってみろよ」待ちですから(笑)。

(横木)そう。でもそれを…やろうと面白いことをしようと。

(青柳)さっき言った「グラデーション」を最大化しようとしているんです。日本のどこもしていないことを…

(横木)しますから。

―お二方とも、プレーヤー。それに刺激されて、動くひとも現れるでしょうね。

(青柳)介護どうこうじゃないんですよね。

―介護とか、そういうものとして捉えようとしなくていい。

(青柳)僕も自分をデザイナーだとは思ってない。それくらいのほうが面白いんですよ。型にハマってしまうと「こうあるべき」となっちゃうんで。「デザインも、こうなったほうがよくない?」って思ってやっています。そのほうが自分が自由。ビジュアルだけ作るんじゃなくて、システム設計だとかその後もずっと関わる。それが自分のビジョン。

(横木)そのなかで「介護」というプレーヤーとしての生きかたを使ってもらえばいい。僕は介護しかできないから使ってもらう。

―でも、横木さんの介護に、他の業界、業種の人にも通底するところがある。だから横木さんのところに人が集まっているんですよね。

(青柳)そう。だからどの業界の人とも組めるんですよ。本質が面白いと思ってもらえる。分かるから。

ビジョンはある?理念はなに?

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―私は埼玉出身ですけど、“埼玉都民”とか“ださいたま”とか揶揄されることもあって、負い目を感じるところがある。例えば、魅力度ランキング(何が基準なのでしょうね)でも下位。栃木県も下位。でも、いま青柳さんが言われたようなところに気づいたとしたらそれを考えなくていいというか。県という単位で捉えなくたっていいですし、周りと比較する必要はない。

(青柳)そう。比較無駄なんですよ。ホント、無駄。住んでいるひとたち自身が幸せなら全然いい。

(横木)すべて捉え方。マインドセット。どう捉えるかがすごく重要。お年寄りなら、麻痺じゃなくて、使える方をみましょう。問題行動じゃなくて個性でしょ。捉え方だけ。本質的な捉え方がすべてで、どんな介護してもOKなんですよね。

(青柳)そこがすべて。いくらシステムを教えこんでも、捉え方が違っていたら意味がないですから。

(横木)「オムツはいらない」とか大事ですけど、そうじゃなくって「あれ?実はオムツいらなくない?」って。結果論。「どうやってオムツを外すの?」って言ったって外せないし、オムツをつけていたって別にいい。本質的な捉え方が出来ていれば結果、外れてしまう。

(青柳)やっぱりビジョンなんですよね。

(横木)お年寄りに対しても社会に対しても、大事なのは選択肢を増やすこと。オムツをバンバンつけている施設、つけていない、まったく違う施設があってどっちも選べる状況をつくることが大切だと思います。

―オムツをつけていたって、そこに対してビジョンがあれば。

(青柳)ビジョンさえ合えば。ビジョンに合わない人、考え方がわからないと思ったら来なければいい。

(横木)SNSの誹謗中傷だってそれで解決しちゃうんですよ。関係のない人が関係のないことを言っているだけだから。「関係ないですよね」で終わる話。

(青柳)信じてくれる人たちと同じビジョンを目指してつくれればいいんじゃないかって。

―重要なのはとにかくビジョン。

(青柳)まちづくりもビジョンを最初に掲げないといけません。手段ばっかみんなやってしまっているんです。ビジョンを共有した人たちが集まれれば事は動く。うまくいく。

(横木)ビジョンをクリアするためにより具体的なビジョンが必要なんですよね。まずこれ。そしたら次はこれやろう。具体的なビジョンをつくるために、最初のビジョンは大きいほうがいいんです。ビジョンがめっちゃ小さいと、具体的なビジョンがつくれなくなるから。ケアプランもそうなんですけど、目標、理想は大きいほうがいい。介護する側が具体的な行動をするためのビジョンが立てやすくなる。

―理想はあったほうがいいと。

(横木)ないとキツイ。なんのためにやっているのかわからなくなっちゃう。

(青柳)そこはビジョン。具体的なところは戦略なんですよ。ビジョンを共有していないと、なんのためにやってるの?てなってしまう。一番上は、ふわっとしていていい。僕で言えば“自分らしく”とか“自己実現できるまち”とか、ふわっとしてますよね。だから受け入れる幅がある。

―新が掲げている「STAY GOLD」。いいビジョンですよね。

(横木)新を開設して一年目の頃、会社の経営者の方などに会う機会があったんですね。あの人らって、命かけて理念作っているんですよ。めちゃくちゃお金を使っている。「あ、そうか。福祉施設って理念に命かけていないからぶれるんだな」って思ったんですよ。「地域に開かれた施設」「お年寄りに寄り添う施設」とか掲げればいいという雰囲気が全体にある。でも実は、現場の仕事ありきだよねっていうのが介護施設。理念に命をかけるということをやろうと思って挙がったのがこの言葉でした。衰えに逆らうのではなく、でも、輝きを失っているイメージを変えるために「輝き続ける」とか「そして輝く」というのを掲げたんですね。

 再び、2018年の取材記事を引っ張ってみます。

お年寄りが、輝き続ける。
もうひとつ。働くスタッフも。
STAY GOLD with each color
 新には「STAY GOLD company」という別組織が存在します。
 「メンバーのカフェの調理スタッフは元音楽活動家。ガーデンマスターという肩書を持つのは看護師です。介護ではアセスメントが重要としばしば言われますが、ニーズを把握して何を考えているのか理解する、というのではないと思うんです。それよりも、自分だったら何ができるかを考え、できることをすればいい。人を幸せにできればいいんです」(横木施設長)
 組織のテーマは「自分にしかできない仕事をしよう」。新の職員でなくとも所属可能。

(青柳)僕がやっている仕事も、理念を決める仕事だと言えます。そこにお金をしっかりかけているんですよね。経営者の方が分かっている。大事なところを。

―横木さんの発言で「お年寄りは変わらない」っていうのがすごく印象的で。

(横木)僕の中でそうなんです。だから画一的なケアは必要ないし、マニュアルもいらない。個別で見るしかない。結果、そうなる。マニュアルがいらないということを主張したいのではなくて、お年寄りが変わらないために僕のなかでやり方を変えるしかないんです。昨日と今日は違うし、Aさんのやり方がBさんに通じるわけではない。認知症になってもお年寄りが輝き続けていた頃のままでいるためにプロがいるんだから、僕らがやり方を変える。そういう理念をもっていれば、マニュアルも業務もいらないんです。そう言い続けているんですけど「なんでマニュアルいらないんですか?」って毎回つっこまれる(笑)。マニュアルがいらないのは結果論。マニュアルがあったっていいんですよ。お年寄りは変わらないっていう理念があれば。ないことにこだわっていませんから。

―バチっと言い切れる横木さん。

(横木)僕の強みはとにかく実践力。

(青柳)「横木さんだからできること」だと言われることもあるんです。僕じゃなくても良かったんじゃないかって言われるときもある。でも、見ているものが同じだからこそのスピード感。実行できた。

(横木)まったくそう!

(青柳)デザイナーと言っても、とても細分化されているんです。グラフィックしか作らない人もいれば僕みたいなひともいる。一言ではいえない。便宜上「ブランディングデザイナー」と名乗っているだけ。いろんな人とつながれるというのは、根っこの部分、ビジョンの部分が同じだから。

サバイブするのに

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コロナ禍の新ー入居者さんの”画廊”が開かれました。ー飾られた絵はすべて入居者Tさんの作品。”訪れた人は感動し、それを見てTさんは誇らしげ。はい!最高です!”と横木さん。

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工房で、厨房で。新には、それぞれの「暮らし」に応えられるハードがある。そしてそれを大切にするソフトの部分。コロナ禍で、緊急事態宣言が出ていた時も、入居者さんそれぞれの「暮らし」「日常」が営まれていたことがわかります。

(横木)同じことを考えている人とつながっていくから、面白いことしか起きないんですよ。giveがgiveを呼ぶ。こんな時代だから「やる前提」で考えるクセをつけることが一番強いと思っています。それで何がいいかって、「やる前提」にしたとたん、やらない理由、できない理由を考える時間を全部、どうやったらできるんだろうっていう時間に使えるんですよ。時間の使い方で勝てるんです。やらない選択肢がある人はできない理由を考える時間を持ちながら、やるということも考えなければいけない。「やる前提」で考えたとたん、すべてその時間を「どうやってやるか」に使えるんだから。その「やる前提」で考えるのはこの時代をサバイブしていくのに大事なんじゃないかって。

(青柳)僕の仕事ってまさにそれ。何らかの課題を投げられる。それを「やらない」「やれない」って言えないんです。どうやってやるかしか、日々考えてないんですよ。

(横木)だから誰よりも考えられる。勝てる。「やる前提」で考えるとガラっと変わる。

―そしたら枠もなくなるし。思考回路も変わる。

(横木)小さな事例ですけど、コロナで外食が行けなくなったんですよね。これはおじいちゃん、おばあちゃんの愉しみが奪われるから「やる前提」で考えるわけですよ。どうやってやる?まず、外食というのを二つの目的に分けて考えた。ひとつは安全なドライブをするということ。もうひとつは好きなものをテイクアウトして食べること。外食の目的を分解して提供することにしたんです。まずは安全に車から降りないで帰ってきた。次の日に好きなモノをお寿司をテイクアウトして食べた。外食というひとつの愉しみをふたつの愉しみにしたことでお年寄りの愉しみが2つに増えたんですね。外に出る、好きなものを食べるという2つ。「やる前提」で考えるとプラスになる。面白いでしょう。

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(青柳)横木さんは、発想が介護士じゃない。考え方がクリエイターなんですよ。何かの課題がある。それに対してじゃあどういうアプローチで、今までと違うアプローチを考え出してそれを解決していくっていうのはまさにクリエイター思考なので。

(横木)反骨精神じゃないんですけど、なにかを否定して、不自由なものを使いやすくするとか。―面会という概念を壊すためにカフェをつくりました。すると目的も明確になる。ある意味、否定から入る感覚もあります。ポジティブなほうですけど。「これ、おかしくない?」っていう…

(青柳)課題感をもてる視点とそれを切り崩せる切り口。そこまで持っていけるというところにクリエイター感覚というか要素がすごくあるなと思います。
 どんな仕事していても必要なこと。誰かのために何かを解決するのが仕事ですから。

篠崎さんの思いと存在

 私が初めて新を訪問した2018年7月。横木さんとともに取材に応じてくださったのが、新を運営している社会福祉法人丹緑会の篠崎一弘常務理事。篠崎さんのお話から、大切にしているものが横木さんと一致していることが伝わってきていました。

 横木さんが以前ブログで、篠崎さんのことを「ザッキー」と呼び、”篠崎さんと一緒にやってきたからこそ…”と綴っていて、「二人あっての」(とはいえ、”新に関わるみんな”ですね)と新ということも私は理解していました。

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横木さんと青柳さんへの取材後日、私は篠崎さんに連絡し、横木さんに対する思いを教えて頂きました。以下、篠崎さんからの書簡の一部です。掲載許可をいただいて。

ー独立を応援しているという気持ちについて

(独立は)私の提案でありフリーになって働くことが彼のため、介護業界のためにもなると感じたからです。新を立ち上げる際に、最高のハードとソフトが融合してよい住まいとして成立するなかで、横木を施設長として迎え入れる決断をしました。その時から、横木は5年程度で独立して介護業界のために働くべきという考えを持っておりましたので、それが現実となり、応援していきたいという気持ちです。ただ、独立にはリスクが当然ありますので、なぜこのタイミングかと言えば、彼の5年間の功績が皆(介護業界以外の人たちも含め) に認められ、仕事として成立すると確信したからです。
    ご心配を頂いているとおり、新の運営については痛手ではありますが、横木が、世の中に出て活躍してくれる方が、”わくわく”しますし、私にとっても”元職員”として自慢できます。

ー横木さんへの期待は

 一言では難しいのですが、私も介護施設で働くなかで、お年寄りの自由がない生活に「これで良いのか?」という葛藤が常にありました。
 横木に出会い、彼の語るお年寄り(世の中的に”問題行動がある人”と呼ばれる人)は、とても生き生きと、輝いているように感じました。その時に「自分のやりたい介護はこれだ」という確信が持てました。
   世の中で働く介護職、在宅で必死に介護する家族は正解もわからずに日々大変な思いをしています。彼がフリーになり、彼と関わることで、このような人たちが私のように救われ、お年寄りが最期まで輝いて生活できたら何よりもうれしく思います。

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横木さんの「介護3.0」。

必要なところへ、人へ。
届いたらいいなと切に私も思います。

※横木さん、青柳さんへのインタビューは2020年11月24日。
文中施設内、外観写真は2018年に撮影したもの。
写真一部提供:新の存在を教えてくださり、2018年の取材の際、同行された、ケアスタディ代表の間瀬さん。間瀬さんから私は介護施設の建築、環境を見る視点、面白さを教わり続けてきました。間瀬さんの会社→https://carestudy.jp/

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今年最後の記事になるので、もう少し。

 昨年秋、私は長年福祉に携わってきたある人から「これからの福祉で必要なのは、toとかforでなくて、withだよ」と教えてもらいました。
 取材で出会い続けている「面白い人たち」「面白い現場」には、必ず“with”があったんですよね。

 横木さんと青柳さんというwith。篠崎さんというwith。
 横木さん、あるいは「新」と、地域で何かの営みをしている人たちにあるwith。
 みんな、やっていることは違えど、通底しているところがある。
 同じところを見ている。

 「しもつけ」というフィールドが面白い方向へ進んでいっている理由はそこなのだろうな。

 自分にとっての“仕事”とは?
 何かを掘り続けるという行為、作業。
 結果、誰かの何かのためになって、循環していく。
 その束が、いい地域に、いいまちに、
 いい社会を「つくる」に繋がるのだと。









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