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山歌う「風景をつくるひと」

 いつもの散歩道―わたしの地元、香川県は「庵治」(あじ)というまちの、山道でのお話です。
 4月4日土曜日にこの場所に来て、6日、また同じ場所にやって来たのは、娘(ひびき)にとって大事な「ピヨちゃん」を散歩道のどこかに置き忘れてしまったから。

ピヨちゃん探し

「あれ、大事だよね。埼玉のばば(私の母)が買ってくれたやつ…。幼稚園は始業式。早く終わるし帰ったら探しに行こう」
ということで、幼稚園から帰った後、庵治へ。

散歩道ー山道には、水仙、椿、スズラン、アジサイ、桜、チューリップ、万両…など色んな植物が植えられていて、季節ごとに色んな花が咲きます。

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だからこの場所、歩いていて気持ちよく、眺めもよくて、大好きなのです。
(ほとんど人に会わないけれども…)

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 山道に入る手前のトイレには植木鉢の植物が並んでいて、きちんと手入れもされている。道を進めばゴミ箱が置かれている。さらに数カ所、ベンチも置かれているのです。
「ボランティア」と書かれたジョウロが木にかかっているのを以前から見かけていたりと、誰かの存在に気づいてはいました。
 「ここ、よく手入れされてるよね。ホンマに歩きやすい」と夫と話していたのは先月の散歩道中のこと。

さあ、娘の「ピヨちゃん」は見つかるのでしょうか。
「あるといいなぁ」と思いながら、目をこらしつつ歩いていきます。

あるとしたらあそこ…
土曜日座っておにぎり食べたところ…

ベンチの端のほうにオレンジ色の何かが目に入りました。

「あっ!ひびき…」

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無事に発見!!ピヨちゃん、見つかりました。

「もう少し散歩しようか」
土曜日発見したばかりの、“ワクワクする道”を歩いて、海のほうへ。
ワクワクする道はフカフカの土。

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きっと誰かが耕してくれていて、あまり人も通らないから踏み固められないんだな。
こんなに気持ちのいい土のうえ。
道を進むと、ベンチがあって。
これも誰かが置いてくれたもの。

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「イキなことを、してくれた人がいる」

そんな“誰かの存在”を思いながら、海辺へと降り、娘とシーグラスを拾ったり。

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わたしは、砂山づくりに夢中な娘とは対照的に、ボーっと海や遠くの山を見つめ続けていました。

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この海は、社会情勢などと関係ない。同じ時間が流れ続ける。
一方で、季節はどんな時にも巡りゆく。桜が咲く。新緑が顔を出す。

この穏やかさ、やわらかさはなんだろう。
“山笑う”というよりも、あの人が言っていた“山歌う”が似合う。


現況の不安定さに、心も不安定にならざるを得ないなか、「変わらないもの、の確かな感触」を覚えていました。

娘は砂浜を深く、深く掘っています。
その横で、
「『どん底に落ちたら、底を掘れ』だったけ?」なんて、ある言葉を思い出したり。

動きたくとも動けない…。
それならば、「自分の深堀り」をすればいいのか。そんなことを思いついたり。

さ、もう15時過ぎてる。戻ろう。

出会いは突然。

来た道を戻ります。
作業服を着た男性と出会いました。

よこすがた

“あっ!ボランティアの人、だよね…”

挨拶すると、男性はニッコリ。

その男性が醸していた雰囲気に、間違いなく”いい人“だ!と直感。そのひとは、わたしの予想をはるかに超えた、スゴい人でした…。

名前はオノさん。「桜、見てきたの?」と問われます。
「はい!土曜日にも来たんですけど、娘が人形を忘れて探しに来たんです。この道の先の眺め、とっても素敵ですね!何度もここには来ていたのに、土曜日に初めて気づいた場所で…」
「でしょう?あそこはね、四国の最北端なんや」
などと、庵治の魅力、面白いかたちをしている“屋島”がなぜ”屋島“と言われているのかを教えてくれたり。

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(奥の山が”屋島”)

「この山道大好きで、定期的に散歩に来ているんです。その都度、ボランティアの方々がきれいにしておられるんやろなって。ゴミも落ちてないですし…」

「僕ひとりで、30年やっとるの」

えっ…ひとりで?!30年?!

自分の耳を一瞬疑いました。
ボランティアの〝人たち〟が定期的に集まって整備したり、清掃活動をしたりしているんだろうなと思っていたので。

数人の存在、ではなかったのです。

「男やから名前もわからないんやけど、いろいろ植えとる。アジサイは1000本、万両は2000本ほどあると思う。歩いていて、花があったら和むでしょう?」

様々な植物を植え育てる一方、車が山道を通りやすくために、道も広げていると聞いてさらにびっくり。
「狭いやろ、ところどころ。植物も踏まれてしまうし、広くしたら通りやすくなるからさ。五か所くらい広げたかな…」

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(庵治は「世界の中心で愛を叫ぶ」のロケ地になったまちです)

庵治で生まれ育ったオノさん。
この活動へのきっかけは、野球チームに所属していて、ベースまであと数メートルの距離で“転んで”、自分の体力のなさを実感したから、だとか。
「そこからここらへんを歩き始めて、マラソンも始めてな…」

まもなく、80歳

「いま、おいくつなんです?」
「22日で80になる」
「え?!79歳?!」
(4月22日はアースデイ。地球の日。オノさん…まさしく“地球のひと”です)

四国のみならず、県外のマラソン大会にも出場しているそう。
「66歳のときやったかな。年齢別のカテゴリーのマラソンで一位になったこともあるんやけど…」

と、ひとしきり話を聞かせてもらい、私はもう、頭が上がらないというか…。

「とにかく健康が大事やな。ここらへんのお年寄りに、この道を散歩してもらって。無理はしなくていいんや。好きなお茶とか珈琲を持ってきてさ。ベンチに座って休みながらな、この美しい風景も見てもらって。色んな植物も楽しんでもらえればって思っとるの。またおいでな!」

オノさん!!
カッコよすぎです!!!

おのさん

この“風景”はオノさんが長い時間をかけて生み出していったもの。
ゴミが落ちていない遊歩道も。あのフカフカの森の道も。ここにつながっている。

そのすべてではないにしろ、これからここを歩くたび、オノさんを想うのでしょう。

ここだけでなくて、”いい風景”のうしろには、”本当に美しいもの”には、誰かの存在ーいい仕事だとか、いい作業というものが必ずある。

そうして今日も、何かが進んでいく。

この出会い、娘がピヨちゃんを落としたおかげ。


出会えて心底、わたしはうれしい気持ちになるのです。

………

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美しい風景は、どこにも行かないから。

嵐は必ず去る。

雨のあとは、また晴れる。

青空の下で、また。


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