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#008 残光と残響の家

また、写真で伝えにくい家を設計してしまった。
2023年8月に完成した、とある住宅地にひっそりと佇む住まい。


リビングからゆるやかに伸びていく天井は、2階床に近づくと急勾配になり、わずかな吹抜を残してそのまま2階天井へと伸びる。
「あそびラウンジ」と名付けた2階のプライベートリビングには、急勾配の天井に穿たれた天窓からの空が差し込んでくる。

手を伸ばせば届く距離感から普通の窓のような錯覚を覚える。
でも、ふと足元を見下ろすとそこには吹抜があり、
これが天窓であるということを思い出させてくれる。

しかし、この吹抜はちょっと変わっている。
1階から2階を見上げても、天窓と2階の天井しか見えない。
2階から1階を見下ろすことはできても、その狭い隙間からは全体を見渡すことはできない。

そう、この吹抜は、開放性を目指した吹抜ではないのだ。

4人の住まい。
めいめいが思うままの時間を過ごしているとき、人は孤独を楽しむ。
でもそれは、孤立していないからこそ、安心して孤独でいられるんだと思う。

そのために、緩やかで仄かな連帯という場が生まれてほしい。
そんな願いを込めて、この狭い吹抜をもつ腰折れ屋根の空間を考えた。

天窓は、陽光で空間を照らすためというよりも、その残光を浸透させるためのもの。
狭い吹抜は、気配を響き渡らせるためというよりも、雰囲気の残響を漂わせるためのもの。

物理的には決して広くはないこの空間。
でも、この情景を写真で切り取るには、場が広大すぎるのだ。
それもそのはず、残光がまどろみ、残響が揺蕩う、その時間も含めての場なのだから、瞬間を切り取る写真ではどうしても写しとることができない。

空間は有限だけれども、場は無限の時空を持つ。
そんな住まいである。



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