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【幸せ】

今日はとにかくついていなかった。
仕事で大きなミスをし、先輩ましてや後輩にまで多大なる迷惑をかけた。
交際してから3年の記念日を目前に別れを告げられた。
ささやかなプレゼントも用意していたのに。
大好きな人気キャラクターのグッズ通販に出遅れ買えなかった。
満足いく推し活もできないまま、好きなアイドルが卒業することになった。

『人生を100として考えると
悲しいのは36、嬉しいのは64』なんて言葉もあるが、
せめてバランスよくきてほしいものだ。

そんなことを考えているうちに、いつの間にか家についていた。
特別良いマンションでもないので、アナログにカギを回し開ける。
暗闇の中手探りで電気をつけ、
しっとりと暗く重たい空気が漂う部屋にエアコンの風を循環させる。
ポットでお湯をわかし、
いつもより砂糖を少し多めに入れたカフェラテをたしなむ。
ソファの前に腰をおろし、贅沢にも背もたれ代わりにしたら、
動画サイトをテレビいっぱいに映す。
ハマっているお笑い芸人の動画を
ランダムで再生するのが最近の趣味みたいなものだ。

「フフッ」

自分の笑い声が漏れた。
こんなについていなかった日でも、私は簡単に笑えてしまうらしい。
いや…こんなに落ち込んでいるから笑えるのだろうか。
はたまたこれがいわゆる、お笑い芸人の〈腕〉というものか。

こうしてふと、笑みがこぼれるというのは当たり前のことなのだろうか。
もしそうでないなら、私は無意識に笑えるほど、
平和で平凡な日々を過ごしているのではないかと気づかされる。
ならば、私は今この瞬間を《幸せ》だと思おう。
そしてそんな幸せに気付けること自体も、幸せだと思おう。
どんなに嫌で大変で傷つくことがあったとしても、
こうして一日の終わりに笑えるのであれば、
私はそれでいいのかもしれない、今はそう思いたい。

ぬるくなったカフェラテは心なしか甘さを増し、
「やっぱりいつもの微糖くらいがちょうどいい」と再認識した夜だった。





なごやん

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