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【名前をつけるとしたら】

「真子!こっちこっち!」

手を軽く上げ、私を呼び寄せたくせに駆け寄ってくる。

「遅かったじゃん、道混んでた?」
『…うん、まあそんな感じ』

本当は道なんて混んでなかった、ただ私の足が重かっただけ。

「それにしてもさ、真子より先に結婚するなんて思わなかったよ」
『…なんで?』
「えー?だって、学生の頃モテモテだったじゃん」
『学生の頃は、でしょ』
「いやいや、最近会ってなかったけど相変わらず綺麗だし」
『今日結婚式挙げる人が、そんな口説き文句みたいなこと言っていいの?』
「そんなつもりじゃないって。真子との仲じゃん?」
『まったく』
「…なんかごめん」
『何が?』
「いや、ほらお互い30まで恋人いなかったら、
 一緒に暮らそうみたいなこと言ってたのに」
『覚えてたんだ、意外』
「失礼な!真子との約束忘れるわけないよ」
『ふぅん…なのに結婚するんだ』

自分で発した後すぐに、しまったと思った。
おそるおそる顔を見ると、申し訳なさそうな表情をしていた。

「…来てくれてありがとう」
『そりゃ来るでしょ』
「結婚しても真子は一番の友達だから」
『…一緒に暮らそうなんてさ』
「え?」
『あんなの、破るためにある約束みたいなもんだから…気にしないで』
「…うん」
『おめでとう』
「ありがとう」

〈お色直しのご準備お願いします〉

「あぁ、はい!じゃあそろそろいくね、最後まで楽しんでって」
『うん』
そういって〈彼女〉は、通り過ぎるテーブルの人たちに軽く会釈しながら
控室のほうへ消えていった。

『友達…ね』
名前もよく分からないお酒を一口飲む。
破るためにある約束なんて、我ながらよく言えたもんだ。
あと少し…あと少しだったのに。

〈新郎新婦のご入場です!〉

集まった皆の体と視線が一か所に集まり、盛大な拍手が起こる。
少しまだ気恥ずかしそうな彼女と、優しそうな彼。
誰が見てもお似合いと言わざるを得ないカップル…いや、もう夫婦か。

明日にも私は、彼女の連絡先を消そうと思う。
私はいつだって友達と思ったことなどなかった。
名字の変わる連絡先など、持っていたくなかった。
この感情を簡単に消せたのなら、
彼女の言う通り私のほうが先に結婚していただろう。
でもそうはならなかった。
私が彼女との関係に名前をつけるとしたら

『初恋の人…かな』

ぼそっと呟くと彼女と目が合い、小さく手を振ってくる。
私は恋した乙女のように、手を振り返した。




なごやん

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