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形だけじゃない!! 金属3Dプリンターで、”もっと強い”材料開発に成功

近年、3Dプリンターがものづくりの常識を大きく変えつつあります。実はそのアイディアは、1980年代に名古屋で生まれたといいます。それから40年経った今、名古屋大学では金属3Dプリンターの特性を利用し、金属の形状だけでなく”機能”もカスタマイズしようという研究が行われています。

そして最近、アルミニウムという金属を、身近でありふれる材料と組み合わせ、"もっと強くする” ことに成功したのが、工学研究科の高田尚記たかたなおき准教授の研究グループです。

工学研究科高田尚記たかたなおき准教授

研究の背景や成果のポイントについて訊きました。高田准教授の人柄あふれるインタビューをポッドキャストでお聞きください!

以下、インタビュー概要です。

── まず、金属3Dプリンターとは?

金属3Dプリンターの一つの特徴はその手法です。多くの場合、金属を粉にしたものを土台の上に敷き詰めて、レーザービームを当てます。すると、レーザービームが当たったところだけ金属の粉が溶けて固まります。そして、その上にまた金属の粉を敷いて、またレーザービームを当てて、固まって…を繰り返していくことで、粉の中に設計した形の金属の塊ができあがっていきます。樹脂の3Dプリンターとはだいぶ作り方が違うんですよ。

金属3Dプリンターでは、こんなに複雑な形を正確につくることができる!
(それぞれ1辺3cmの立方体)

── 3cmの立方体だと、何層くらいになりますか?

1層0.03mmなので…、1000層ですね。

── かかる時間は?

1層につき1分以下なので、5〜6時間ほどです。ただ金属をつなぎ合わせる従来のやり方では絶対に作れない形ですね。

── 高田先生は、金属3Dプリンターで材料として使う金属を研究されていますね。

もともとは、金属を溶かして固めて作るとか、叩いて伸ばしていくといった方法で、金属がなぜ強くなるのか、どうやったら壊れないようになるのかについて研究をしていました。実は、金属3Dプリンターの技術に出会ったのは、2015年に名古屋大学に着任してからです。

金属3Dプリンターでのレーザー照射
火花の大きさはレーザーの強さと比例する

── そして、面白い材料を作った、というのが今回の成果ですね。

はい、その材料とはアルミニウムなんですが、アルミニウムの中に鉄元素とマンガン元素を入れることで、今までにない強さの材料を作りました。普通の金属アルミニウムは、200〜300℃で非常に弱くなってしまうのですが、その温度でも耐えられる材料です。

開発した材料を使い、3Dプリンターで作ったアルミニウム合金
(表面の六角形のマークは、レーザー照射のパターンを示す)

── 成果のポイントは?

普通、アルミニウムを開発する際、鉄やマンガンは排除したい、有害元素と呼んでもいい存在です。ところが、3Dプリンターでレーザーを当てて作ると材料の性能が劇的に向上するんです。

── どのようなメカニズムですか?

レーザーを当てると、その箇所だけ一瞬で溶け、一瞬で固まります。1秒間に100万℃下がるので、0.0001秒間の間にドン!と固まる感覚です。この現象で、全く異なる種類の化合物が出来上がるのです。

── 有害元素を含む配合は絶対あり得ないことを知りながら、どのようこの発想に至ったのですか?

最初の着想は、高温で使えるアルミニウム作りたいという思いでした。海外の研究所では、レアメタルやレアースを使って、どんどん強くしていくのですが、資源の少ない日本では無理ですよね。だから、リサイクル性高く、汎用元素を使って作れないかという思いが常にあります。もう一つは、大昔の研究成果です。過去には、アルミニウムと鉄の組み合わせが良くないとわかりつつも、特性としては素晴らしいことを示すものがあったりするんですよ。

── 昔は、発想があっても技術が足りなかったということですか?

はい。そういう意味で、金属3Dプリンターは、昔の研究者が「配合はいいけどうまく作れなかった」ものに、もう一度命を与えてくれるような気がしています。

── 今回開発した新材料の実用化は?

開発した金属3Dプリンターの材料は、まだ生活に使われるほどの信頼性が検証されていないので、実用化はだいぶ先になりそうです。コスト面では、金属を粉にする技術が少し高価です。ただ、3Dプリンターでしかできない金属材料があるとすれば、そこに需要が生まれるので、金属粉末を作る技術も普及し安くなっていくのではないかと期待しています。

── 金属3Dプリンターの用途は自動車などの部品製造が多そうですが、他にどんな応用が考えられますか?

例えば、歯や骨など生体材料です。個人の形状に合わせ、オーダーメイドの歯が簡単に作れますね。最近はセラミックスの3Dプリンターも開発されているんですよ。例えば芸術作品も、見たことのないようなものが生まれるかもしれません。3Dプリンターって何でも作れるのかなと思います。優れた材料ではなくても形ができるのはすごく面白いですよね。

── 研究していてワクワクするときは?

「こんなものを作りたい」とねらって作って思ったようになるより、思いがけなことが起こったときが一番ワクワクしますね。2週間に1回ほどの頻度で「なぜこんなことが!?」ということが起こるので、ワクワクの連続です。

── 苦労されることは?

金属は身の回りにありすぎて、普段意識されませんよね?でも、実は社会を支えている存在です。しかも、長期間の耐久性が求められるので、開発しても実際に使われるまでの道のりは非常に長いです。特に自動車や航空機などは人の命を預かる材料にもなりますから当然ですが、いい材料だとわかっているのになかなか許可が下りない、使われていかないという歯がゆさはありますね。

──「 縁の下の力持ち」ですね…!

そうですね。例えば、電気自動車が今盛り上がっていて、バッテリーの種類や性能はよく話題に上がりますよね。でも一番燃費を上げるのは、車のボディの材料を軽くすることなんですよ。当たり前のことなのに、「だよね…」で終わってしまうのは、この研究の宿命かもしれません。

── 私たち一般生活者の意識が変わるとよいのでしょうか…?

いや、変える必要はなく、むしろこちらからアピールしなきゃいけないです。金属の研究は地味です。でも、金属3Dプリンターのような新しい技術で、「金属の分野も新しくてもっと面白いものを生み出せる」ということを知っていただきたい。名古屋大学工学部・マテリアル工学科では、いろいろな材料物質を研究しています。金属3Dプリンターにまつわる研究が、分野への興味のきっかけになってもらえたら嬉しいです。

── 若い方々が、この可能性に満ちた分野をどんどん目指していってほしいですね。高田先生、どうもありがとうございました!

画像・映像提供:高田尚記准教授
インタビュー・執筆:丸山恵

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