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59. 体内時計を進める歯車、噛み合う秘密に迫る!

第58回目は、時計タンパク質についてご紹介します。このタンパク質は、24時間周期のリズムをかなりの精度で刻むおもしろい仕組みを持ちます。理学部4年、髙山楓菜たかやまふうなが紐解きます。

ポッドキャストでもお届けしています。体内時計を分子レベルで研究することに魅せられた髙山へのインタビューです♪

謎だらけの体内時計

今回のテーマは、名大研究フロントラインでもおなじみになってきた体内時計です。人間の体にも約24時間の周期で繰り返される生理現象が多くありますね。ちなみに第55回では朝食を食べることと体内時計の関係性について、第10回では体内時計を光で自在に操作する研究について触れました。地球上の様々な生物にはこうした体内時計を整える仕組みが備わっています。

時計タンパク質もその仕組みの一部です。一方で、こうした仕組みは謎だらけです。その謎の解明に大きく貢献する成果が、分子科学研究所や名古屋大学などが参加する共同研究グループから報告されました。

時計タンパク質 KaiCカイシー の2つのリング

今回は、シアノバクテリアという小さな生物が主役です。この微生物の時計タンパク質に関する謎がひとつ解けました。この時計タンパク質の名前はKaiCカイシー。これまでの研究により、KaiCカイシーは2種類のリング ―C1リングとC2リング― が重なった構造であること、そして、それぞれのリングで起こる反応が連携し体内時計を整えることが分かっていました。では何が謎だったのか。それは、この二つのリングがどのように連携しているのか、その詳しい構造がわからないままでした。

まずは、C1リング、C2リングそれぞれで起こっている反応、そしてこの2つが連携することで何が起こるのか簡単に見ていきましょう。

C1 リングでは、ATPという物質からエネルギーを取り出して、“ある仕事”をします。そうすると、ADPという物質が残ります。ADPを外に出し、新たなATPを取り込んで…、という反応サイクルが続きます。ちなみに、ATPから取り出したエネルギーを使って何かしらの仕事をする、というサイクルは、細胞の中の別の場所でもとても速いスピードで繰り返されています。

さて、このC1リングで行われている“ある仕事”とはどんな仕事でしょうか。

なんと、バネを縮めるようにググっと自分を押さえつけ、簡単に次の反応が進まないように耐えています。サイクルがとてもゆっくりと進むように制御しているのです。

C2リングでも、ATPから取り出したエネルギーを使って仕事をしています。この仕事では、自身の構造を交互にリズムよく変えています。

C1リングとC2リングが連携するとどうなる?

まず、C1リングがC2リングの動きを制御する役割を持ちます。C2リングは、例えば温度など外部環境に影響を受けやすいのです。熱い環境で放っておくと、勝手に速いテンポで構造を交互に入れ替えてしまいます。そうすると安定したリズムを刻めなくなります。

一方で、C1リングはこうした外部環境に影響を受けない特徴を持ちます。そこで、C1リングがC2リングの動きを抑えているのです。温度が高い環境でも、時計タンパク質のリズムが乱れないようにしてくれています。

また、C1リングの2種類の状態 ―ATPを持っている状態とADPを持っている状態― と、C2リングの2種類の状態が、時計タンパク質全体のリズムにバリエーションを加えます。2種類かける2種類で、合計4種類以上の状態をリズミカルにローテーションさせることができます。

こうした特徴をはじめ、C1リングとC2リングそれぞれが、お互いに重要な役割を持ちます。どちらかが壊れてもこの時計タンパク質は正常に動きません。この二つが正確に噛み合うことで、はじめて機能するのです。

2つのリングが連携する様子、観察で明らかに

研究グループは、まず、リズミカルに動く時計タンパク質を複数の状態で結晶化し、固定しました。そして、X線を使って結晶構造を観察しました。その結果、C1リングとC2リングの間で切り替わる結合の様子が詳細にわかり、2つの歯車が連携する仕組みが世界で初めて明らかにされたのです。

この研究により、時計タンパク質が働く仕組みが明らかにされました。時計タンパク質の理解が格段に進むだけでなく、同じような仕組みをもつ他の種類の時計タンパク質の研究にも応用できるかもしれません。正確に時を刻み続ける時計タンパク質の仕組みを解明することは、細胞の仕組みや生命現象を明らかにするためにもとても大切なことではないでしょうか。

研究に参加した名古屋大学の近藤孝男こんどうたかお特別教授と伊藤久美子いとうくみこ 特任助教からのコメントです。

今回の研究成果は、主に分子科学研究所の古池美彦ふるいけよしひこ助教らの成果です。この研究において私達は時計タンパク質の構造変化について分かったことが、細胞のリズムからもサポートできることを、変異体を使って明らかにしました。

体内時計の周期は約24時間と大変長く、さらに周期が温度で変化しないという点で、通常の生体内の反応では説明できない不思議な性質を示します。こうした体内時計の不思議な性質がどのように生み出されるのかを、今回の研究成果をふまえて細胞やタンパク質の解析から今後明らかにしていきたいと考えています。

今回の研究を通して、細胞の中で起きている不思議の一端を垣間見ることができました。シアノバクテリアというとても小さな生き物の世界で、正確に時を刻み続ける時計タンパク質には神秘的な印象を持ってしまいます。生物の機構の繊細さと、地球の自転に自らを合わせにいく壮大さを感じました。

この研究について詳しくは、2022年4月18日発表のプレスリリースもご覧ください。

トップ画像内の図提供:近藤特別教授、伊藤特任助教
文:髙山楓菜、綾塚達郎

◯関連リンク
自然科学研究機構 分子科学研究所 協奏分子システム研究センター 階層分子システム解析研究部門 秋山グループ
名古屋大学 理学研究科 生命理学専攻 時計機構グループ 近藤孝男研究室

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