体内時計を遅らせる分子に、光スイッチをつけたら… 【10】
今回は、以前にも登場していただいたITbMの三宅恵子さんに、次なる研究成果を紹介していただきます。ITbMは、名古屋大学にあるトランスフォーマティブ生命分子研究所のことで、世界を変える新しい分子をつくる研究で活気あふれる研究所です。
先日はKakshineという名前もすてきな色素分子をつくった研究を紹介していただきましたが、今回はどんな研究でしょうか?
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こんにちは。ITbMの三宅です。
今回紹介するのは、細胞の1日のリズムを刻む「概日時計」を、光によって自在に操作することに成功した研究です。
朝目覚めて、夜眠る、というように、私たちの生命活動の多くは、1日の周期で繰り返しています。これらのリズムを司る体内の仕組みを「体内時計」またの名を「概日時計」と呼びます。
概日時計は、細胞の中にある時計遺伝子や時計タンパク質によって制御されていますが、1日という長い周期で、どのように安定して時を刻むことができるのか、その仕組みは未だ謎に包まれています。
概日時計は、全身の細胞にあることから、時計のしくみの全体像を解明していくには、狙ったタイミングと場所でその時計を操作する技術が必要です。
近年、そのような技術として、光によって形がかわる分子を用いて時間的・空間的に制御する、光薬理学が注目を集めています。
研究グループは、この光薬理学を用いて、概日リズムを長くする分子に、光をうけると構造が変化する「光スイッチ」の一種のアゾベンゼンをつなぎ、それを細胞に与え光を当てました。
その結果、光の色を変えるとアゾベンゼンの構造が変化し、概日リズムが長くなったり、もとに戻ったりと、自在に操作できることがわかりました。
研究をおこなった廣田毅特任准教授からのコメントです。
「ITbMにおける化学と生物学の融合研究からうまれた、非常にユニークな研究成果です。概日時計の仕組みの理解と制御に向けて、今後も画期的な『トランスフォーマティブ生命分子』を続々と生み出していきたいです」
概日リズムが乱れると、睡眠障害、メタボリックシンドローム、がんなどの疾患に影響を及ぼすことが知られています。そのため、概日リズムの周期や時刻を、光によって自在に調節するこの技術は、概日リズムの仕組みの解明のみならず、将来的にはこれらの疾患や夜勤などのシフトワークによる時差ボケの解消に応用されることが期待されます。
分子に光スイッチをつけるという発想、ユニークでイメージも湧きやすいですね。病気の治療で、薬を飲んで光を浴びる…そんな未来を想像してしまいました。
詳しくは、2021年5月27日の名古屋大学研究プレスリリースもご覧ください!
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