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神経の病気「球脊髄性筋萎縮症(SBMA)」に、運動はよいか?
難病に指定されている球脊髄性筋萎縮症。SBMA(Spinal and Bulbar Muscular Atrophy)とも呼ばれ、国内に2000〜2500人の患者さんがいるといわれています。
日本のSBMA研究をリードする名古屋大学には、全国から200名ほどの患者さんが通院しています。ただ、根治治療が確立しておらず、現状の治療に課題を抱えています。このような状況下、臨床現場で患者さんに接する医師たちが、「運動療法」という切り口で挑んでいます。
SBMAの疾患モデルマウスを使って、運動の効果を研究する勝野雅央さん(医学系研究科 教授)と蛭薙 智紀さん(医学部附属病院 医員)に、研究の「今」を聞きました。
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── 球脊髄性筋萎縮症(SBMA)とは、どんな病気ですか?
運動神経が弱り、体を動かしにくくなるのがメインの症状です。筋肉に力が入らなくて、歩きづらいとか、食べるときに飲み込みづらくむせてしまう、そういった症状が一番多いですね。
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四肢や舌の筋肉が萎縮。舌は薄く、しわがよったようになる。
(出典:日本神経化学会)
SBMAは、X連鎖劣性遺伝という形式で伝わる遺伝性の病気で、男性だけに発症します。30〜60代で発症して、10〜20年かけてゆっくりと進行していきます。患者さんが定年退職されると、通勤などの身体活動が下がるからでしょうか、病状が進行することも多いですね。
── どのような治療を行うのですか?
リハビリと、病気の進行を抑える薬で治療します。薬は、リュープリンという男性ホルモンの働きを抑える薬を注射します。でも弱点があるんです。SBMAは、遺伝子の異常が原因で、体の中に異常なタンパク質が作られ、たまっていく病気なんですね。でも、男性ホルモンの働きを抑えると、この異常なタンパク質がたまりにくくなるので、リュープリンを治療薬として使います。ところが、男性ホルモンには骨格筋を強くする働きがありますから、実はリュープリンは筋肉にとってはあまり良くないんです。病気の進行を遅くすることはできますが、低下した筋力を改善する効果はないんですよ。
── 打開策として「運動」に着目されたのはなぜですか?
一般的に、神経疾患の治療ではリハビリを行うことが多いんですが、SBMAに対して運動が効果あるかどうかは、明確なデータがありません。運動は良さそうといわれていても「どのような運動を、いつ、どのくらいやるといいのか」は、まだまだわからない状況です。そこで、マウスを使った実験で、種類や強度の異なる運動の効果を調べました。
── 具体的に、どのような運動にどのような効果があったのですか?
効果があったのは、病気を発症する前のマウスが、軽めの運動を1日1時間、週に5日、4週間続けて行った場合です。病気による運動機能の低下がゆっくりになりました。
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そして、生存期間が延長しました。
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さらに、症状の原因となる異常タンパク質が、運動していたマウスではたまりにくくなっていたんです。これは特に注目すべきポイントです。
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矢印が示す茶色の影が異常タンパク質。運動を行ったマウスは異常タンパク質が少ないことが一目瞭然(出典:プレスリリース)。
── 運動が病気の根本的な部分にアプローチしていたということですね。
マウスでの結果をそのまま人に当てはめることはできないのですが、この結果を踏まえ、患者さんの病状に応じた運動が重要だと思います。実験では、病気を発症する前のマウスが、比較的軽い運動を長めに行った場合に効果がありました。筋力がある程度保たれている早期の患者さんには、このような運動が有効かもしれないと考えています。
── 病状に応じた運動メニューを示せたら、患者さんも取り組みやすそうです。
そうですね。運動がいいのかどうか、患者さんは悩まれるんですよ。筋力が弱いのに運動してもいいのかって。でもやはり運動は大事だと、この研究を通じて改めてわかりました。なるべく早いうちに運動を始めていただくのがいいとは思いますが、病状が進んでしまってから運動しても意味がないとはもちろん言いません。運動の強度や時間など具体的な内容は、臨床研究の中でさらに検討していく必要がありますね。
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インタビュー・文:丸山恵
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