あいちの人と大地が醸すお酒「なごみ桜」
桜の時季にできあがる日本酒「なごみ桜」。
名古屋大学で育てた酒米「若水」を、名大の桜からとった「名大さくら酵母」で、愛知の酒造メーカーが名大生と仕込んだ、ほのかに桜香る甘口のお酒です。誕生から今年で11年目を迎えました。
名大研究フロントラインでは、11年目のなごみ桜づくりを、米作りから取材。関わる人々の思いや言葉を、5分の動画にまとめました。
でも、5分では伝えられなかったことも多くあります。ここでは、動画で伝えきれなかった言葉をまとめました。
水野真也さん/名古屋大学技術職員
若水の栽培責任者、学生時代は米を研究していた米作りのベテラン
米は農作物の中で最も機械化が進んでいますが、天候にはかないません。播種(種まき)も、代かき(田植え前に水田をならす作業)も、水田から水を抜いたり入れたりするタイミングも、収穫も、2〜3日前にならないと「やります!」と決められません。でも、なごみ桜に使う酒米の若水は他のお米と違い、手がかからないんですよ。大きくしすぎると米の中にタンパク質が多くなってお酒の雑味になってしまうので、肥料はやりたくても我慢。作る側としては少し物足りないくらいです(笑)。
村瀬潤教授/名古屋大学大学院生命農学研究科
東郷フィールドを舞台に教育や研究活動を行う
名古屋大学東郷フィールド(名大の付属農場)は、水田だけでも3ヘクタールあり、何百何千という品種を育てられます。農学部の学生実習や、優秀なコメ遺伝子を探し出すような研究に使われています。若水の水田は、産学連携プロジェクト用の特殊な場所ですね。一つの水田で育てる品種を変えると、前の種が残っていて品種が混ざってしまうことがあり、好ましくありません。その点、若水は10年以上も同じ水田を使っているので、他のお米が混じることはほぼありません。
伊藤彰敏さん/あいち産業科学技術総合センター
酒米の育種も行う、酒米の専門家
酒米の精米は、普段私たちが食べている食用米の精米とは全く違います。食用米は、高速で米と米同士をこすり合わせて削るのに対し、酒米は回転するヤスリのような石の上に米を落とすイメージで、削るのではなく磨きます。とにかく割れないように、熱もかけないように、削り具合に合わせて精米機の回転数も調整しています。精米時の温度管理は、酒造りで米を浸水して蒸す工程で影響するので、かなり慎重にやっています。
伊藤智之さん/盛田株式会社
名大の知と盛田の酒造り技術をつないだ名大OB
私は名古屋大学農学部の卒業生で、なごみ桜の開発には酵母の研究段階から関わってきました。当時、発酵や醸造の知識はありましたが、酒造りの現場は全然知りませんでした。今、なごみ桜の仕込みは、学生の参加が恒例になっていて、個人的にはとても意義のあることだと思います。農学部出身者は食品製造業に就くことが多く、醸造業界は少ないのが現状です。本当の面白さを知ってもらうために、これからも多くの学生に参加してもらいたいですね。
土屋公人さん/盛田株式会社
酒造り20年、3年前になごみ桜の製造責任者に
今年は306kgの酒米「若水」から、700リットルのなごみ桜を搾りました。なごみ桜に使う「名大さくら酵母」は野生酵母に近く、なかなか発酵が進みません。普通のお酒に比べ、温度を高めにして、発酵を促すようにつくっています。なごみ桜の仕込みは、自分自身にとってもいい勉強になっています。
アンドレス・マツラナ准教授/名古屋大学生命農学研究科
「なごみ桜」プロジェクトの幹事
コロナ禍で研究室の行事のキャンセルが続いていたので、学生たちは本当に楽しそうに参加していました。実は、なごみ桜を搾ったあとの酒粕も彼らが手分けして袋詰めし、学内で配っているんですよ。学生たちはあまりお酒を飲まないようですが、私は日本酒が好きでよく飲みます。なごみ桜は、食前酒にぴったりですね。毎年農学部の卒業生にプレゼントしています。
加藤雅士教授/名城大学農学部(開発当時名古屋大学)
名大の八重桜から酵母を単離、お酒づくりを提案
お酒をつくろうと思ったのは、てっとり早かったからです(笑)。なごみ桜の開発当時、研究を社会に還元しようという動きが盛んでした。そこで、お酒ならできたものをおいしくいただけるという点で、酵母の微生物研究をみなさんによく分かってもらえると思ったんです。長く続いているのは、名古屋大学だけでなく、愛知県や盛田株式会社を始めとする社会を含めたさまざまな関係者の協力があってこそ。地域とのつながりのキーアイテムになってくれたらいいですね。
なごみ桜は、毎年限定醸造(今年は1000本)、名古屋大学の生協で販売しています。関わる人々の思いも、ぜひ味わってみてください。
◯関連リンク
・Facebook|名大発日本酒「なごみ桜」
・ウェブ記事|名大清酒「なごみ桜」~酵母の研究から製品化まで~