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名古屋大学 研究フロントライン

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ポッドキャスト番組「名古屋大学 研究フロントライン」をテキストでお届けします♪ 名古屋大学の最近の研究の話題を、週に1回、柔らかめのトーンで紹介しています。
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#理学研究科

AR×感染症 :“ARグラスを活かした、イカした感染症対策コンテンツ“は、名大から生まれるのか____!?

ARグラスが盛り上がりを見せています。ARは、「拡張現実」を意味するAugumented Realityの略で、動画やゲームや楽しむツールとしてのイメージが強いかもしれません。しかし今、視聴覚において人の能力を補完したり、間違いを防いだりするツールとしての新たな開拓が始まろうとしています。 感染症は、肉眼で見ることができない問題の一つです。新たな感染症の登場を避けることはできませんが、数学的なアプローチが対策の評価や適切な意思決定の手助けになる可能性があることがわかってき

赤い光も青い光も大事!植物の気孔開口に関わるしくみを解明!

今回は、ITbMのイチオシの植物の気孔についての研究成果を紹介します。 植物の体の表面にある気孔は、孔辺細胞とよばれる1対のゼリービーンズのような形をした細胞からなり、まるでヒトの唇のような形をしています。 その間の小さな孔を開閉することで、植物は二酸化炭素や酸素などのガス交換や水分調節をおこなっています。まさに、気孔は、植物の成長と生存に必須な細胞器官といえます(図1)。 その気孔は、太陽の光に応答して開きます。名古屋大学の研究グループはこれまでに、青い光が当たるとど

大切なひともウイルスからまもる!あなたの鼻の粘膜抗体

新型コロナウイルスをはじめ、呼吸器ウイルス感染症を防ぐ一つの鍵となる「抗体」。鼻の粘膜の表面で、「分泌型IgA抗体」という抗体が早くつくられるほど、新型コロナウイルスを別の人にうつしにくくなることが世界で初めて示されました。 呼吸器ウイルス感染症において、分泌型の粘膜抗体がウイルスの広がりを抑えるかもしれません。 名古屋大学理学研究科の異分野融合生物学研究室 (iBLab)の大学院生の西山尚来さん、教授の岩見真吾さんさんらの研究グループと、国立感染症研究所 感染病理部の鈴

新型コロナなぜ進化?人の行動から探る

コロナ禍を振り返ると、新型コロナウイルスの流行は変異株の登場とともに進んでいきました。「デルタ株」や「オミクロン株」などは、記憶にも新しいですね。 今回ご紹介する研究からは、新型コロナウイルスの性質がどのように変化してきたのかを調べた結果、ウイルスがヒトの行動と複雑にかかわって進化してきた可能性が示されました。 研究グループの岩見真吾さん(理学研究科教授)に詳しく伺いました。 新型コロナウイルスは、どのように進化してきたのか?一般的にウイルスは、増殖や感染を繰り返す中で

新型コロナウイルス対策に朗報!数理モデルでクラスター発生確率が計算可能に!

新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以来、よく耳にしてきた「クラスター」という言葉。小規模な集団感染や、それによってできた感染者の集団のことをいいます。病院や学校などでクラスターが発生し、新型コロナウイルスに集団感染してしまった…!というケースは珍しくありませんね。 今回、感染者ごとのウイルス量の個人差を考慮した上で、新型コロナウイルス感染によるクラスターの発生確率を計算できるようになりました。 数学とウイルス学、公衆衛生学による、異分野融合研究の成果になります。 研

ナポリの地下事情に「宇宙線イメージング」が好相性。次なるニーズは東海に!?

今年3月、エジプトにあるクフ王のピラミッドで、未知の空間の発見に導いた「宇宙線イメージング」。 そのプロジェクトに関わった宇宙線イメージング研究者、森島邦博さん(理学研究科 准教授)が今注目するのが「地下」です。 数年前、イタリア・ナポリの考古学研究家の願いで行われた、ナポリ市街地の地下遺跡の探査プロジェクト。まだ見ぬ地下空間の発見は、宇宙線イメージングの将来に大きな意味がありました。遠いナポリの話だけで終わらない、森島さんへのインタビューをお聞きください。 <インタビ

天然ガス活用、「だます」のが名古屋流

2000年代後半、アメリカに始まったシェールガス革命──。 「シェール層」という地下約2,000mの岩石層に閉じ込められた天然ガスを掘削する画期的技術で天然ガスの生産量が大きく増加。世界のエネルギー情勢を一変させました。 都市ガスや火力発電に使われ、クリーンエネルギーとも呼ばれる天然ガス。メタンを主成分とする天然ガスは、現在、燃やして活用するのが基本です。石油より少ないとはいえ、二酸化炭素の排出源になっています。 天然ガスをよりクリーンに活用すべく、 「メタンを、液体

食と老化の関係、1ミリの虫で読み解く

脳の老化予防に効く乳酸菌──名古屋大学と雪印メグミルク株式会社さんが、線虫というモデル生物を使って探索しているテーマです。線虫にも脳があり、老化でその機能は低下します。6年にわたる研究の結果、エサとしてラクトバチルス・ロイテリ菌 (SBT10010) という乳酸菌を与えると、脳機能の低下が起こらないことを発見しました。 ヨーグルトで脳の老化防止が叶うかも…!?と期待できそうな発見ですが、少し注意してみる必要があるようです。 研究を行った野間健太郎さん(理学研究科 准教授)

子育てしながら研究したかったら、名大おいでよ!

「癒やされてきました!」といって、実験室に案内してくれたのは、石川由希さん(理学研究科 講師)。大学構内にあるこすもす保育園に8ヶ月の子を預け、ちょうどお昼の授乳から帰ってきたところでした。 「もう少し子どもが大きくなったら、子どもをもっとラボに連れてこようと思ってるんですよ〜。ボスや先輩たちもそうしてたので。」 特任助教として名古屋大学に赴任したのは2013年。当時、フトアゴヒゲトカゲを飼っていた石川さんは、「トカゲのおねえちゃん」「ユキちゃん」として、上司の上川内あづ

ジェームズ・ウェッブ、研究者が語る深宇宙観測の新時代

何度もの開発延期を経て、2021年暮れに打ち上がり、去年7月に観測を始めたばかりのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。まさに旬なこの宇宙望遠鏡で、130億年前の宇宙を観測し、本日「感動」の観測結果を発表したのが、 柏野大地さん(高等研究院/理学研究科 特任助教)です。 どんな発見か、端的にいうと、こうです↓ 成果の科学的なポイントは、高等研究院のわかりやすい解説記事にお任せし、ここでは「ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測するって具体的にはどんな感じなのか!? 」に着目。実

「昔はいたんだけどね」っていいたくないから…。今伝えたい海の「光」とは?

光るナマコの新種を13種も見つけたとの一報を受け、「え、そもそもナマコって光るの?」というところから始まった今回のインタビュー企画。情報主は、別所-上原 学さん(高等研究院/理学研究科 特任助教)。光る生き物として有名どころのホタルやクラゲだけでなく、光るキノコからミミズまで、光る生き物は何でも知っているといっても過言ではない、光る生き物ハカセです。 ちょうど2年前のこの時期、フロントラインでは篠島(愛知県三河湾の離島)でのウミホタル採集に同行し、別所さんの光る生き物研究へ

繁殖成功に必要なのは、交尾中の〇〇をキープすることだった

「なかなかいないと思うんですけど、僕、ハエの交尾のイラスト描けるんです。」 そう言って、なかなかお目にかかることのできないイラスト(トップ画像)を見せてくれたのは、山ノ内勇斗さん(大学院理学研究科修士2年)。キイロショウジョウバエというハエの一種を使って、交尾にまつわる神経回路を研究している大学院生です。 1ヶ月しか生きないのに1回の交尾に20分も費やすキイロショウジョウバエ。不可欠とはいえ非効率すぎる交尾行動の不思議に魅せられ、取り組んだ研究で、交尾中の姿勢を維持するこ

66. 宇宙と地上から銀河の謎にアプローチ

少し前に名大理学部が公開したこちらの動画。 オランダ出身で、天体物理学のポスドク研究員のTom Bakxさんです。宇宙望遠鏡と地上望遠鏡を駆使して銀河の形成や進化を研究しています。文化の違う土地での仕事や生活はきっと大変なことも多いはずなのに、研究や生活の充実っぷりをキラキラの笑顔で伝えるトムさんってどんな研究者なんだろう?と思い、インタビューを申し込んだところ、快くOKしてくれました。 トムさんが、名大に来たのは2018年。田村陽一准教授の研究室に所属しています。研究に

64. “見る”ことのできない宇宙の始まり。重力波でその証拠をつかめ!

これは宇宙誕生直後のお話。 10のマイナス34乗秒の間に、宇宙は数十桁も膨張したと考えられています。これをインフレーションと呼びます。まさに瞬きも追いつかないほどの瞬間的な出来事でした。その後、超高温・超高密度の”火の玉”宇宙となり、やがて今の宇宙へと姿を変えていきました。 インフレーションを始めとした初期宇宙の姿は、理論やいくつかの観測情報をもとにその存在が強く示唆されるようになってきました。一方で、これが正しいとする決定的な証拠はまだ得られていません。 その理由の一