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名古屋大学 研究フロントライン

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名古屋大学のURA(リサーチ・アドミニストレーター)が、名大の最近の研究の話題を、柔らかめのトーンでお届けします
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2023年9月の記事一覧

提案! AIに任せっきりじゃない構造ベース創薬

今、創薬のスタンダードとなりつつある構造ベース創薬。英名のStructure-based Drug Designを略してSBDDとしても知られるこの創薬メソッドに、AIを導入する例はいくつかあります。 そんな中、「AIに従うのではなく、AIと協調する」アプローチを提唱するのが阿部一啓さん(細胞生理学研究センター/大学院創薬科学研究科 准教授)。胃の中で胃酸がどのように作られるか、そのしくみの解明に長年取り組んできた、構造生物学の研究者です。 まるでAIを共同研究者かのよう

心臓サルコイドーシスという病気を知っていますか?

10万人に数人といわれる原因不明の難病、心臓サルコイドーシス。 「実はもっと多いんじゃないかと思っています。」 そう話すのは、森本竜太さん(医学部附属病院 循環器内科 助教)。 これまで診断されなかった患者さんが診断されるようになり、患者数は増加傾向にあるといいます。 「心臓サルコイドーシスは、糖尿病のように一生つきあっていく病気として治療します。」 治療が必要かどうかは病状によりますが、必要な場合、基本はステロイド投与です。 「ステロイドが効かない患者さんには抗

魚の食べ過ぎ注意…その理由はヒ素!?

魚を1日1回以上食べる人は、血液のヒ素の濃度が高く、高血圧のリスクが高い──。日本人を対象とする疫学研究からの発表です。 魚はなるべく食べた方がいいんじゃないの? そんなギモンが浮かびませんか…? 実はこの知見、日本屈指の大規模コホート研究「J-MICCスタディ」に参加する約2700人の調査データからわかってきた根拠ある新事実。論文発表を行った加藤昌志さん(名古屋大学大学院 医学系研究科 教授)と香川匠(医学系研究科 博士課程)さんに詳しく聞きました。 ── ヒ素って有

現場ニーズが生んだ「感染症マネジメント支援システム」、もうすぐ始動!

「感染症」は治療の敵。 術後感染や院内感染は、患者さんや医療費に大きな負担をもたらします。ただ、全ての医師が感染症の専門知識を持つわけではなく、感染症専門医もごくわずか。コロナに限らず、病院での感染症問題は深刻です。 そんな感染症対応に翻弄する医療現場のニーズを掘り起こし、生まれたのが「感染症マネジメント支援システム」。患者さんが治療に伴う感染症を起こしてしまったとき、主治医が感染症専門医にアドバイスをもらえるシステムです。5年に及ぶ開発期間を経て、もうすぐリリースの段階

120年に一度の開花、結実、枯死… 森はどうなる!?

2016年から2017年にかけて、中部地方でササが一斉に花を咲かせました。実を付け、そして一斉に枯れました。古文書の記録をたどると、前回開花したのは120年前だったそうで、ニュースにもなりました。 「これは千載一遇のチャンス!」 名古屋大学・森林保護学研究室では、豊田市稲武町・野入町にある大学の森(もちろん、この森でもササが開花しました)で、詳しい調査を行いました。着目したのは、ササの種子を食べる「野ネズミ」です。 野ネズミは普段、ドングリなどの木の実を食べたり、冬を越す

糖質制限、いいの?悪いの? J-MICC研究が検証

「糖質オフ」の食べものや飲みものが世間にずいぶんと出回るようになりました。なんだか糖質は制限したほうがいいような雰囲気が漂う今日この頃ですが、短期的にはメタボに一定の効果がある低糖質ダイエット、長期的に体に良いかどうかについては専門家の間でも議論が続けられています。 そんな中、日本全国で10万人以上を対象にして病気の原因を調べている日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)から、このギモンに答える注目の研究結果が発表されました。 「炭水化物を食べる量が死亡リスクと関