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「moritoモニターツアー冬編〜満月の雪の森に包まれる極上の一夜〜」レポート

2024年2月24日9時

 この時を迎えるまで、正直不安がいっぱいだった。このツアーでは、スノーシューを履いて森を歩き、夜は雪洞をつくってそこに泊まるというプログラムを考えていたが、全く雪が降らない。せっかく積もっていた雪が、どんどん解けていく。3日前の下見の時点では、宿営地付近も雪がまばらに残る程度。これでは冬のツアーではなくなってしまう。
 しかし奇跡が起きた。その夜、恵みの雪が積もってくれた。雪が積もってこんなに嬉しいと思ったことは、子供の頃以来かもしれない。
 なんとか冬のツアーを迎えることができる。

 参加者はスタッフや初日だけのスポット参加者を含め9名。
 森のがっこうに集まり、オープニング。このツアーに参加した動機などを紹介しあう。その後、今回のメイン講師であるグロッセ龍太さんの指導でアイスブレイク。カラーボールという見えない色とりどりのボールのキャッチボールをしながら、緊張をほぐしていく。


オープニングで自己紹介をする参加者


アイスブレイクについて説明する講師のグロッセ龍太さん(中央)

いよいよ森へ

アイスブレイクで皆がうちとけたところで、荷物をパッキングし、森へ出かけることに。今回は、雪の森の中に泊まるということで、寝袋も冬用の物となり、インナーシーツ、コット、雪掘りスコップ、スノーシュー、ストック。いつもより重装備となった。水や食料などを、それぞれに分担しながら、背中に荷物を背負い、一歩一歩斜面を登っていく。

荷物を背負い森へ出かける

雪の森の歩き方

 斜面を登り平らな場所に出たところで、グロッセさんに雪の森の歩き方について教えていただく。グロッセさんは、カナダのアウトドアスクールで学んだ経歴を持ち、雪の森での経験が豊富である。雪の斜面は滑りやすいので、足の置き方が大事になる。足の底の設置面積が大きいと滑りやすいので、坂はなるべく斜めに登り、靴の横の端(エッジ)を立てるようにすると良い。みんな荷物を下ろして練習してみる。
 また、歩くコースどりも重要。斜面の全体を見て、どこにどのような起伏があるかを見極め、自分でコースを設定してみる。荷物を背負い直して、教えられたことを頭に入れながら、登り始めた。

雪の森の歩き方を説明するグロッセさん

マザーツリーに挨拶

オッホーの森を登っていくと、途中に数百年生きていると思われるコナラの大木がある。私たちは「マザーツリー」と敬愛の念を込めて呼んでいて、この木にハグして挨拶をするのが決まり。この日も、みんなにハグしてもらう。この森で、私たちは遊ばせていただく立場である。それから少し登ると、平らな場所に出てくる。子供たちの活動で、いつも遊んでいる場所だ。ここでザックを下ろし休憩。倒木の上を歩いたり、サルナシのツルでターザンごっこをしたり、ツルをどんどん登ったり。童心に戻り、思う存分森のジャングルジムで遊んだ。

マザーツリー


サルナシのツルでターザン遊び

スノーシューで歩く

森でいっぱい遊んだ後、宿営地を目指してさらに奥へと歩く。ここからは、ほぼ平らで、雪も深くなるため、スノーシューを装着して歩くことに。スノーシューをつけると、設置面積が大きくなるため、雪の中に足がはまることがなくなる。歩いていると、雪の上には、リスやシカ、キツネなど、多くの動物の足跡が残っている。足跡を見ながら、この動物は何を考えここを歩いたのかと想像するのも、雪の森歩きならではの楽しみである。森の奥へ奥へと進むほどに、森は野生の色を濃くしていく。ダケカンバやブナ、ミズナラの大木が多くなっていく。ここは、野生動物たちの棲む森。すぐそこをクマが歩いていても、全く違和感がないエリアに入っているのを実感する。

スノーシューを取り付ける
スノーシューをつけて歩く
森を奥へ奥へと向かっていく
ホンドリスの足跡
ミズナラの巨木に挨拶する参加者

宿営地に到着

 途中でお昼を食べて休憩をとり、そこからしばらく歩き宿営地に到着。やっと重いザックを下ろすことができる。ここで、今宵の貴重なエネルギーとなる枯れ枝を拾い集め、焚き火台に枝を載せて点火する。この火で調理をし、暖をとる。
 火がついた後に、寝場所をつくる。本来は、雪洞を掘ってそこに泊まりたかったが、それには雪が足りない。カナダで雪洞をつくった経験を持つグロッセさんに、雪洞の作り方のレクチャーをいただき、今回は持ってきたソロテントの周りを雪のブロックで囲むという方法になった。それぞれが、お気に入りの場所を見つけて、テントを設営していく。どんな夜になるか、期待と不安が入り混じる。

宿営地につき焚き火台に点火する
雪洞の作り方をグロッセさん(右端)に学ぶ

夕ご飯は熊鍋

 テント設営をしながら夕ご飯の準備を。ハンターの方に、地域で有害駆除された熊肉を分けていただいたので、野菜と煮込んで熊鍋にする。大きくぶつ切りにして、じっくり煮込むと美味しいと聞き、さっそく焚火台の上で熊鍋を煮込むことに。夕ご飯は、熊鍋と飯盒でご飯を炊いていただく。
 みんなは、テントの設営も終わり、周囲に風避けの雪の壁を思い思いに作っている。テントの中には、コットという簡易的なベッドを入れて、雪の面に接しないで寝れるようにした。その上に寝袋を載せて、その中に潜り込んで眠ることになる。
 太陽が西の山並みに隠れる前に、夕ご飯をいただくことに。ご飯も焦げずに出来上がり、熊鍋もじっくり煮込んで、大根や里芋も煮えたようだ。みんなで、森の恵みである熊さんに感謝を捧げる熊踊り?を即興で踊り、いただくことに。熊肉はとても柔らかくて、クセもなく、頂いた熊の脂も少し入れたので、とても濃厚な熊のスープである。幸せな気持ちで満たされた。

夕ご飯は熊鍋と飯盒で炊いたご飯

満月の下でのナイトハイク

 夕ご飯をお腹いっぱい食べ終わる頃、太陽が姿を消して少しずつ夕闇が広がり始める。空には雲一つない快晴。素晴らしい月明かりが期待できる、絶好の天候だ。鍋や食器を片づけ、焚き火を囲みながら、夜が更けていくのを待つ。焚き火の炎の揺らぎを見ているのは、とても心地良い時間である。
 やがて月が顔を出し始めた。いよいよ、このツアーのメインプログラムである、満月の下での雪の森のナイトハイクの始まり。このナイトハイクにはルールがある。喋らずに、前の人の足音が聞こえない程度の距離が離れた状態を保ちゆっくりと歩くこと。こうすることで、より五感が研ぎ澄まされ、森と自分だけの時間を過ごせる。月が昇るほどに、月明かりは強さを増してきた。宿営地からさらに奥へ、原始の匂いが濃くなるブナの森へと歩いていく。聞こえる音は、自分の足が雪を踏む音だけ。全くの静寂である。大きな木の影が雪面に映り、不思議な世界に来たような妖しさを感じる。宿営地に戻り焚き火を囲みながら、ナイトハイクで感じたことなどをシェアしながら、しばし語らいの時間。やがてそれぞれのタイミングでテントに向かい眠りについた。

満月の月明かりの下でナイトハイク

極寒の夜を越えて

 雲一つない夜を過ごしたため、冷気がテントの中に容赦なく入り、なかなか眠りにつけない人が多かったようだ。私も寒さで夜中に起き上がり、焚き火をつけ直して、暖をとる。月明かりが雪面を照らし、森中が明るく見える。寒さがシンシンとつのっていく。焚き火を見ていると人は哲学的になるようだ。ヒトはどうして毛皮を身につけれなかったのか?肌を寒さから守るために、「火」を手にする術を身につけた。そこから他の生き物との隔たりが生まれたのか?焚き火を見つめながら、そんなことをツラツラと考えながら月明かりの下で、豊かな時間を過ごした。眠気もどこかに飛んで行ったらしい。観念して朝まで焚き火の番をすることに。遠くでフクロウが一声「オッホー ダラスコホッホー」と鳴いた。まるで、森の神様に見守られているようで、嬉しくなった。
 やがて、寒さに耐えきれず、一人の参加者が焚き火に来た。お腹も空いてきたので、昨夜の残りの熊鍋とご飯で、おじやを作り、朝食のスープづくりをはじめる。少しずつ森全体が白んでくる。太陽の明るさは、月明かりのとは全く違う、圧倒的な明るさである。他の参加者たちも起き上がり、朝食を食べる。天然酵母のライ麦パンを薄く切って火で炙り、ハチミツをつけていただく。平飼い養鶏の地鶏の卵を茹でて。夕ご飯の残りのおじやと野菜のスープ。温かい食べ物が体全体にしみわたり、体の内部から温めてくれる。体がホッとしているのが分かるようだ。

朝を迎えホッとする
朝食はライ麦の天然酵母パンを焚き火で炙って食べる

森との対話

 朝食で温まり、片づけを済ました後、次のプログラムへ。それぞれの参加者が、森の中で好きな場所を見つけ、そこで森と対話しながらゆったりとした時間を過ごす。倒木の隙間に寝転がって過ごす人。木のコブに座って過ごす人。大きな木にもたれかかって過ごす人。岩のそばで寝転がる人。それぞれの場所で、森との対話の時間が流れていきます。
 どのくらい時間が過ぎたのか。私はコットの上に寝袋を敷いて入りこみ、森の木々を見ながらぼーっと考え込んでいるうちに、うっかり寝てしまい。慌てて、終了の合図を。その後、焚き火を囲んで、どんな時間を過ごしたかを語り合う。その中で、皆が口々に話していたのが、何もしないことの豊かさ。森の中で、何もしないで時間を過ごすという、実にシンプルなプログラムなのだが、自分一人でできるかというと難しく、このような機会を敢えてつくることの大切さを感じた。

テントを撤収する

森を降りる

 森との対話プログラムを終え、テントなどの撤収作業。焚き火の場所も、たっぷりと雪を被せて。荷物をザックに詰め込んで。来る時よりは、水や食料も無くなったので、大分軽くなった。みんなで森に「ありがとう」と感謝を述べ、下りは森から牧草地へ抜けるコース。途中の急斜面で足を滑らせてズズーッと滑り落ちたが、なんとか立ち上がることができて、緩斜面の方に移動。カラマツ林を抜けて降りていくと牧草地の上に出た。
 広い牧草地に出ると、これまでの森の木々に囲まれた世界とは全く違う開放感。動物たちの足跡を見つけながら、好きなコースを歩いて降りていく。牧草地を抜け、森のがっこうへ至る舗装道路を踏み締めた時、グロッセさんが「急に日常に戻ったようだ」と話す。確かにその感覚が皆んなも分かるようだ。森へ入ってから僅か24時間ほどしか経っていないのだが、とてつもない時間が経過しているような感覚がある。確かに、あの森で過ごした時間は、非日常の世界であった。

森から降りる
森を抜け広い牧草地へ
牧草地には多くの動物の足跡が

スペシャルランチ&クロージング

 森のがっこうに戻り、荷物を下ろし一休み。
 今回もランチは、遠野駅前でイタリアンレストランを開いている「おのひづめ」さんに作っていただいた。国内のこだわりの餌で育てた牛の肉や、三陸の海藻の料理。パスタやパン、リゾット、デザートのプリンも。どれも美味しく、疲れた体を癒してくれる。美味しい料理は、こんなにも人を幸せな気持ちにしてくれることを再認識させられた。
 スペシャルなランチを食べ終わり、このツアー全体のクロージングへ。焚き火を囲みながら、この2日間を振り返り感じたことを語り合う。皆かけがえのない2日間であったと語っていた。「満月の雪に包まれる極上の一夜」は、極寒の記憶と共に、非日常の忘れられない思い出となるだろう。

おのひづめさんのスペシャルランチ

お茶を飲みながらクロージング


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