早稲田が中部地方にあると思っていた

「早稲田」

 それは東京都新宿区にある地名。
 同名の大学の印象が強い。

 早稲田大学という名前はよくテレビでも取り上げられるため、関西人である私も小学生の頃から知っていた。

 しかし、早稲田大学がどこにあるのか(=早稲田がどこにあるのか)ということはあまり考えたことがなかった。関東に住む方にとってはそんなこと常識なのかもしれないが、兵庫県で生まれ育った私は東京都の区以下の地名なんてほとんど知らなかった。

 ただ、なんとなくのイメージは持っていた。


「早稲田は中部地方にある。」


 早稲田が東京にあると知っていれば「は?」という話だが、幼いころの私はそう思い込んでいた。というか今でもこのイメージは拭えていない。むしろ東京にあると言われる方が違和感がある。
 いったいこのイメージはどこからやってきたのだろうか。いつ刷り込まれたのだろうか。ちょっと考えてみた。


 まず、「早稲田」という言葉を初めて聞いた時に私が受けた印象を推測してみる。
 「早稲田」は間違いなく読みにくい熟語である。「早稲」という文字を見て初見で「わせ」と読むことはできない。
 そして初見で読み違え続けた熟語の誤った印象はなかなか拭うことはできない。例えば私の場合、「所謂(いわゆる)」という熟語を見るといつまでも「しょ……」となってしまう。
 しかし「早稲田」に対してそんなイメージは持っていない。「早稲田」は「わせだ」である。ということは、私は「早稲田」という言葉を音で聴くと同時に文字で見た、あるいは最初からルビ付きの状態で知ったということになる。どちらにせよ「早稲田」と「わせだ」が結びついた状態でその言葉を認識していたのだろう。

 では、その状態で単語を認識した時、幼い私はどう思ったのだろうか。
 当時から文字を読んだり漢字辞典を眺めたりするのは好きだったので、一般的な熟語は十分知っていたと思う。つまり、よくある熟語のパターンは大体把握していた。
 だからおそらく「早稲田(わせだ)」という言葉を知った時の私の印象は

「読みが三文字の三字熟語って珍しいな」

だろう。
 手元の電子辞書を使って広辞苑に乗っている読みが三文字の言葉を検索してみたら、(もちろん全部数えることはできないが)三字熟語が登場する頻度は二字熟語が登場する頻度よりも圧倒的に低い。そしてその多くが地名や仏教用語である。だから(意識していたわけではないだろうけど)なんとなくそんな印象を受けたのは間違いない。 

 ところで、当時の私が知っていた三音の三字熟語の一つに「名古屋」があったはずだ。だから、私の脳内では「早稲田」と「名古屋」に同じタグがつけられ、同じ分類がなされていた。「早稲田」を「『名古屋』語」だと認識していたと言ってもいいかもしれない。
 東京の地名は知らなくても、47都道府県+県庁所在地は結構早くに覚えていたらしい(親の証言による)ので、「名古屋は中部地方」だというのは知っていた。

 つまり、「早稲田」を「『名古屋』語」として認識し、そして名古屋は中部地方にあるから、早稲田も中部地方にあるのだと思い込んでいた、という仮説が立つ。


 しかしこれだけだと弱い。
 19歳になっても拭えない強烈なイメージがこれだけで説明できるとは思えない。

 もう一つ仮説がある。色だ。
 なんとなく文字に色が付属しているイメージがある……と言えば共感してくれる人もいるのではないだろうか。

 例えば「火」は赤色だ。もちろん赤くない火もあるが、やはり赤色のイメージが強い。「空」は水色だ。空のイラストは大体青空だからだ。
 ほかに私が持っている個人的なイメージを言うと、「あ」はピンク色だ。幼いころに遊んでたひらがなのパズル(こういうやつ)の「あ」がピンク色だったからだ。「J」は紫色だ。「J」と言えばJune・Julyで、英語教材などでこの時期を示すイラストはアジサイや雨雲など、紫っぽいものが多かったからだ。

 特殊な共感覚というほどはっきりしたものではないが、こんな風に文字そのものと過去の体験、特に文字を学び始めた頃の体験が結びついたイメージを感じることはよくある。

 そして「早稲田」という文字を見たときにぱっと浮かぶイメージは黄色だ。「稲」という文字を見たときに連想されるのが、たわわに実った秋の黄色い稲穂であるからだ。
 私は「早稲田」は黄色い単語だと思っている。


 ところで、幼少期の私に大きな影響を与えた玩具の一つに「くもんのNEW日本地図パズル」がある。前述の通り私は都道府県名をよく覚えていたが、その要因の一つがこれである。
 そしてこの日本地図パズルもまた文字と色のイメージに影響を与えた。
 上のリンク先を見てもらうと分かるのだが、都道府県のピースが地方別に色分けされている。だから私は北海道は青色で、関東地方は黄緑色だと思っている。長野県は黄色で、京都府はオレンジ色だと思っている。もっと言えば、「兵庫」という文字はオレンジ色で、「島根」という文字は赤色だと思っている。青森は青じゃない。緑色だ。


 もう言いたいことはお分かりだろう。


「早稲田」という単語が黄色であるため、日本地図パズルで黄色で示されていた中部地方と結びつけてしまったのだ。

 わりと合点がいく仮説である。



まとめ

私は早稲田が中部地方にあるというイメージを持っているが、その原因は
 ①「早稲田」が「『名古屋』語」であるから
 ②「早稲田」と中部地方に対してともに黄色のイメージを持っているから
であると推測される。

無意識のうちに刷り込まれたイメージってやっぱり強烈だね。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?