簪なぎさ

作家になりたい二十二歳。 ここでは作品のみ置いておきます。 雑記・本映画解釈など載…

簪なぎさ

作家になりたい二十二歳。 ここでは作品のみ置いておきます。 雑記・本映画解釈など載せている主ブログのリンク↓ https://nagnet.info/

最近の記事

『夢でね、』

いやな夢をみた いやなことはいつも 変にぎらついているものだ だから太陽が照るたび、鋭く光って目が痛い でもね それがこわくて瞼を閉じたなら 必ずまた夢をみるでしょう? いつか君が言ったように、 今日は火星でデートをしよう きちんと印をつけてから眠ってね 待ち合わせの場所、はじめて行くから ちゃんと落ち合えるように 太陽から少しでも遠くに一緒に逃げよう そうしたら目をあけて、赤茶けた大地を踏み締めて、 今度こそ全部わすれられたらいいな そんなふうに思ったら、涙みたい

    • 『緊急地震速報のもとに』

      目を瞑って、 君の呼吸に私の呼吸を合わせてみるけれど、いつも私のほうが少し早い。 浅く小さな呼吸をたくさん重ねて、さらに君にもいつもどきどきしていたら 君より随分早く死んでしまうんじゃないかとまたさらにどきどきしてしまう。 でもその前に。 いつかそういうものが枯れ果ててしまわないうちに、君のその手で、なんていうふうにも思う。きれいなうちにね。 緊急地震速報がこわくて眠れなくなった私のことなので、 説得力のかけらもないけれど、 それでも君としばらく生きていたいと思う。

      • 『かわいげ』

        一人、煙草の煙を追いかけていたら ビルの頭の赤い光と目があった 新宿 始発までの二十分 寒空の下、君と話した 「あの赤い光、なんであるかしってる?」 しらないふりをすればよかった もう都会の夜空なんて見ない こういうところだ 煙草の先の小さな赤い火を パンプスで踏みつけて消す

        • 【散文】夜にしがみついて

          午前四時になる。 缶ビールをひと缶、開けてしまった。 君はもう眠ったのだろう。 今から二時間。 再生ボタンを押したら、それでもう午前六時。 君と過ごしていたら、あっという間に五十歳とかになる気がする。 それと同じような、なんだかぼんやりとした心地よい不安。 少し恥ずかしいけれど、結局きれいなものが好きで。 そこにある寂しさみたいなものがわかると、妙に君のことを思い出して嬉しくなる。 エンドロールが流れて、小さな小さな部屋で音楽に合わせて歌っていると、空が白くなりはじめ

        『夢でね、』

          【散文】『横断歩道の先、』

          『横断歩道の先、』 どこか、ずっと重たい。 意識のなか、どんよりとした気配の亡霊がどこかにそっと潜んでいるような気がする。 背中に少し冷たいぴりつきを感じる。 やけに寒い日だった。 雨が降ってコンクリートに写った信号機の色は、クリスマスの電飾みたいに光って見えた。 薄く青色に変わっていく空は、そんな鮮やかな光を消し去っていく。 柔い明日の色を街中に塗っていく。 朝。 何度目だろうか。 横断歩道の先、公園の前で煙草に火をつける。 君とここで吸ってから習慣になった。 あの

          【散文】『横断歩道の先、』

          【散文】『猫に生まれて』

          『猫に生まれて』 雨の気配とか不吉なものとか寂しそうとか、なんとなく、ぼんやりと、言葉にならないものがたまにわかる。 でもいつもうまく言葉は喋れなくて、そういうときの私はただにゃあって鳴いているみたいなものだ。 そういうとき、君はやさしく頭を撫でてくれる。 「どうしたの」 「なんでもないよ」 本当になんでもないのです。 そうしてくれたら、もう十分だから。 でもきっと君も、そんなぼんやりとした言葉にならないものをちゃんとわかるんだね。 そういうときは嬉しくていつも黙

          【散文】『猫に生まれて』

          【ショートショート】『ベッドで哲学なんて』

          縦書き版↓ 『ベッドで哲学なんて』 もう何分が経ったのだろうか。ずっと私は躊躇ったまま君の頭を撫でるばかりだ。ティッシュペーパーをくしゃくしゃに丸めて床に放ると君はいつも私の身体に体重をかけて匂いを嗅いだりキスをしたりする。すべてを記憶にする儀式をするみたいで、それは丁寧で厳かだ。私はそんな君の儀式の贄として君の頭を撫でながら、君が噛みちぎった小さな袋のことを考える。私の頬に落ちた君の汗のゆくえについて考える。思い出せば何度だって恋をすることができる。君がどこかへ消えてし

          【ショートショート】『ベッドで哲学なんて』

          【ショートショート】『地球滅亡前夜』

          ※縦書き版↓ 『地球滅亡前夜』 「明日地球が終わります」  そのことを君に告げたのは私だった。 「地球はもうじき終わります」  ともっともっと昔に、君が言った。  そしてこう続けた。 「いつ終わらせるかは君が決めてくれ」  そんなわけで今日は地球滅亡前夜だ。私が決めた。  私はなかなかその決断をできず、そのせいでこれまで君に随分ひどいことを言った。けれどもうそれも充分だ。私は地球が終わることを受け入れられずに君に好き勝手なことをいうに留まらず、私は私を腐敗させ続けてしまっ

          【ショートショート】『地球滅亡前夜』