緑の葬列
自分ではない存在になりたい。漫然と蔓延る希望に似た絶望。なれば良いじゃないかと背中を押されても、肩甲骨から翼は生えてこない。飛べない体を抱え、崖の縁で怯えて過ごしている。
ここまで明確な変身願望を持ちながら、コスプレの文化に興味が無いままここまで来た。コスプレイヤーの方々が華麗に変身する様を見て憧れを抱けど、そこに自らを置換する想像はついぞ出来なかった。
変身願望?その時点にすら立てない。本当は一刻も早くこの身体を脱ぎ捨てたいのだから。自分に纏わる意志、人生を左右する決定、間違えてばかりの三叉路、身の丈に合わないプライド、全てから遠ざかる為の手段が欲しい。この欲求を何と呼べば良いのだろう。身勝手、大人気ない、恥を知れ。仕方がない。後ろに指を刺されても、どれだけ脳裏を漂白しても、繰り返し襲い来る夢想に囚われた人間に相応しい罵倒だ。
文字で出来た果てしない砂漠が眼下に広がる。一握の砂に選ばれなかった文字たちは墓標すら作らない。意味の無い、或いは意味が無いことにされた文字列。誰にも思い出されることの無い文章が一斉に芽吹き、ひと時だけ訪れる春に咲く蒲公英。目を放せば一瞬で消えゆく緑の絨毯。その儚さを笑う人間がいない世界に、早く行きたい。
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