或る日
目に映る全てがざらざらと障る。
日頃の心の不養生が祟り、心身が限界を迎えた状態でライブ当日を迎えた。ぼろぼろの外装と精神を纏って慣れない土地を歩く。生身の魂で次から次へと目に飛び込んでくる新規性を捌ききれる筈がなく、上擦り続ける呼吸を抑える。剥き出しの魂は刀の如く誰かを傷つけるどころか、ぼろぼろと刃こぼれするように削れて脳内を赤く染める。対策に繋がらないならエラー表示も唯億劫なだけだ。
ライブ開始の時刻ぎりぎり、なんとか会場に体を押し込める。自分の存在が小石に近づく予感と諦め。比例するように、外部の刺激は致死性を増していく。何もかもが間違い。お前のあらゆる選択は全て誤りであり、生きている意味もない。何千何万回と繰り返される無意味な罵倒で脳が擦り切れそうになり、思わず身を縮める。人目を気にするだけの自我が残っているせいで、その行為すら自尊心を削ぎ落としていく。
早く、早く、頼む──口から漏れそうになる嘆願を全身で抑え込む。
直後の爆音でどれだけ高揚するか何度体感していても、未だに一抹の不安が拭えない。もし高揚しなかったら?このライブを楽しめなかったら?文字通り何にも心動かされなくなった生に一体、一体何の意味が?
今回も大丈夫だった。では次回は、その次は。予感はいつまで予言足りうるのか。ロックバンドのツアーと臨死の狭間をつま先立ちで辿る自分が恥ずかしい。手放しの純粋さで彼らの音楽に向き合えない自分が、どこまでも恥ずかしい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?