文章が訴えかける恐怖性は何から来る?

1.例文とシチュエーション

1.導入

例文:「きょうはてんきがいいですね」
シチュエーション:
1) 公園で遊ぶ子供が大人に話しかける
2) 飼っているペットがたどたどしく話し始める
3) 自分のスマホの合成音声が突然話し始める

まず、上記のそれぞれについて軽く情景を考える。
1)は、なんの違和感もないワンシーンを想像することが出来る。かなり自然で、なんら違和感を覚えるは無さそうである。
2)は、理解が追いつかない故の恐怖がある。そもそも人語を口にしないという前提のある生物が話し始めるというのは、強い違和感を覚えるだろう。
3)は、たまに現実世界でもあるらしい。Siriや"ひつじのしつじくん"的なポジションのアプリに、急に無機質な声で話されたものなら、誰だって怖かろう。

2)、3)には違和感や他の感情から生じる"恐怖"という感情が現れやすい。
犬が人語をたどたどしく話すという"非現実"な恐怖、合成音声が無機質に話すという"突発的"な恐怖がそれぞれには存在するだろう。

では、さらにシチュエーションを追加してみよう。

2.理解度による恐怖感情

前項のシチュエーションは、「身近な物」という共通点を持って束ねられた例である。
この項では、「理解度」という共通点から感情を読み解くことにする。

例文:「これ おいしそう」
シチュエーション:
1) 子供がファミレスでメニューを見ている
2) 巨大生物が人間を4~5人つまんでいる
3) 人型の黒い影が自分の方を見ながらボソッと

1)はなんとも無邪気な様子である。親に話しかける、可愛い子供のような気がする。
2)は、某巨人系作品にありそうなシチュエーションである。あれとこれとで違うのは、"相手の感情が見える"というところだろうか。
3)は、もう何が何だか分からない。しかし、自分が狙われているのだけはわかる。しかも、捕食対象として。

1)、2)はベクトルが違うにしろ、脳内に描写するのが比較的容易かもしれない。声のトーンは、2)の方が不思議と低い声で再生されていると思う。
3)は、なかなか見ないシチュエーションなのでかなり想像は難しい。しかし、某神隠し系ジブリのカ○ナシや、某有名面白メディアの☔️○のような立ち姿を想像するとパッと脳内に描写できるのではなかろうか。それが自分を狙っている。目的か分からないという恐怖を思い浮かべる人もいるのではないだろうか。

さて、上記の2項目から、次は"平仮名文における恐怖の正体"を考察する。

2.平仮名文における恐怖の正体

ひらがなの文章には、どんなイメージを抱くだろうか。前項での例文を見返してみよう。
「きょうはいいてんきですね」
「これ おいしそう」
これらをなんのシチュエーションも与えずに頭の中に浮かべた時、子供の声で聴こえた人が多いかもしれない。
ひらがなには文章自体を幼く見せる性質、つまり幼稚性が含まれている可能性がある。
そしてその幼稚性は、誰しもがかつて抱えていた物である。しかしながら、幼稚性は歳を重ねるごとに"身近さ"が少なくなっていく。
つまり、「平仮名文は幼く見える」ということだ。文が幼く見えれば、そこに知性の存在を感じることも薄いだろう。なぜなら、我々の脳内には「子供は知性が低い」という前提条件が刷り込まれているからである。「そんなこと思ってなんかないよ」と言う声が聞こえてきそうなので別の言い方をすれば、"大人の方が賢い"と考えているなら前言は成立する。

幼く見える平仮名文に、知性を加えるとどうなるか。
例文:「きょうはてんきがいいですが、このあとあめがふるようです。」
これは、一見するとまだ幼い。しかし、明らかに先程よりも情報が増えている。つまり、知性がある文になる。
この文章を発信する者の想像の年齢が、不思議とちょっとだけ近くなったのではないだろうか。

しかし、前項での文章とこの項の文章を"2歳半"の子供が口にしている、と考えた途端に少しだけ違和感を覚えるのでは無いだろうか。
これは、シチュエーションを提示することによる"輪郭の明確化"が理解度に繋がることを意味する。

私が想定する恐怖という感情の発生するパターンは以下の通りである。
1.理解度と身近さが乖離していると、恐怖感情が強くなる。(不明瞭の恐怖)
2.理解度÷身近さが1に近過ぎても恐怖感情は強くなる。(明瞭の恐怖)

不思議なことに、恐怖というのは明瞭すぎても不明瞭すぎても発生すると考えられる。
不明瞭の恐怖の代表例はモキュメンタリー作品である。テレビという身近な媒体で、理解が難しい恐怖を作る。それが不明瞭さに繋がる。
明瞭の恐怖の代表例は、この文章全体である。この文章が、恐怖という感情を明瞭にし、より理解しやすく、理解しやすいように組み上げられているのである。

結論

文章における易理解性、身近さは様々な感情を増幅させ、汎用的にどんな作品でものみこみやすくすることができる。

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