「忘れる」ということ。
人間は忘れる生き物である。
買う予定だったもの。別の部屋に行った目的。英単語。
お店の場所。待ち合わせの約束。パスワード。
人間は毎日いろいろなものを覚えては忘れて生きている。
どうでもいいことなら忘れてもいいけれど、
覚えていたいこと、忘れてはいけないことを忘れてしまうことがある。
大切なことを忘れてしまうと、自分だったり周りだったりを
困らせたり悲しませたり、時に傷つけてしまったりすることもある。
忘れたくて忘れているわけではないから、仕方ないことだけれど。
逆に、自分を守るために忘れることもある。
思い出したくもないくらい嫌だったこととか、辛かったこととか。
忘れて、消して、触れないことで助かる気持ちもある。
大好きだったあの人の言葉や声や姿は、忘れたいのか忘れたくないのか、
覚えていてもいいのか、忘れた方がいいのか、今でもよくわからないでいる。
人間は忘れる生き物だけど、忘れてはいけないことがある。
忘れないために、人間はそれをとどめておく必要がある。
紙に書いたり、他の人に共有したり、リマインドしたり。
でも一番確実な方法は、それを体の一部にしてしまうことである。
忘れてはいけないことを自分の中に完全に取り込んでしまえば、
それは覚えている・忘れているの枠を飛び越えて、
自分の一部になって、自分を支えてくれる。
今、世界中が不安で包まれている。
そんなとき、人間は大切なことを忘れてしまいがちである。
大切なこと、忘れてはいけないことを、
もう一度呼び起こして、もう一度自分のものにして、
「忘れる」を飛び越えていきたい。
人間は忘れる生き物である。
しかし、忘れてはいけない大切なものを、大切にできる生き物である。
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