「Qアノン」「千人計画」…陰謀論が広がる背景は

(前略)

米国には、Qアノンと呼ばれる人々がいる。国の機密情報を知る当局者と自称してネットで情報を発信する存在「Q」の陰謀論を安易に信じてしまう人々のことで、トランプ大統領の支持勢力の一つにもなっている。

米国研究の渡辺靖氏は、「米大統領選を揺るがす『Qアノン』の正体」(『文芸春秋』)で、米国社会では、「陰謀論が拡散しやすい」と指摘する。
自助の精神が強く競争も激しい社会だが、競争の敗者が勝者を攻撃する手段に使えば、自らの能力不足を認めずにすむからだ。 (後略)

背景には社会の分断が深まり、党派ごとに別の「事実」が存在するようになったことや、コロナ禍で人々の不安や怒りが増したことがあるという。

敗者を生む格差や貧困も、陰謀論が広まる要因だ。
米国思想史の会田弘継氏は、「バイデンの民主党は歴史的敗北を喫した」(『現代ビジネス』11月13日)で、トランプ主義や民主党左派はこのことを問題視しており、「上下対立」こそ米国社会の本質的問題だと訴える。だが、共和・民主の主流派は人種文化や文化問題を強調し、「上下対立を覆い隠そうとした」。だから、コロナ禍による大量死など有利な条件が重なったのに、大統領選で民主党は大勝できなかったと読み解く。

ノンフィクションライターの石戸諭(さとる)氏(「中国『千人計画』デマに踊る国会議員たち」、『文芸春秋』)は、
優秀な研究者を招請する中国の「千人計画」が実は軍事研究で、日本学術会議が積極的に関わっているとのデマを考察。
この陰謀論によって多くの無関係の研究者が攻撃されたが、その背景には、陰謀論者の間に、強い反既得権益意識があるのだという。

彼らは変化への不安感などから、見たい現実を見てしまう。
石戸氏は、日本の安全保障を不安視するなら、研究者が中国を頼らざるを得ない現状こそ問題視すべきだと主張。
陰謀論による排外意識が、日本の科学技術予算が少ない「不都合な現実」を隠してしまうと危ぶむ。

(前略)

先の渡辺氏は、自らを敗者や「下級国民」と考える人々の情動や閉塞(へいそく)感を、切り捨てずに取り込む必要性を訴える。
情動は「社会を動かす、無視できない要素」だから、どう向き合っていくかが、「民主主義の大きな課題」だと強調した。

数学研究の森田真生(まさお)氏は「『弱さの自覚』が開く生態学的紐帯」(『Voice』)で、我々には「人が発した強い言葉に身を委ねてしまいたいという欲求」があると指摘。
だが、人の発言を吟味せずに反復するリツイートのような行為は、思考を停止させ、世論を単一方向に誘導する危険性があるとする。弱さや不完全さを自覚した、逡巡(しゅんじゅん)しながらの発言が、他者との新たな関係構築につながると訴える。

経済学のマリアナ・マッツカート氏は「パンデミック後の資本主義」(『フォーリン・アフェアーズ・リポート』)で、格差解決の一つの方策を示す。
氏によれば、技術刷新や価値創造の恩恵は、企業や投資家だけではなく、公共投資をする政府や市民にも受け取る権利がある。
公平な分配で官民が協力すれば、「相当に大きなことができ」、包括的で持続可能な経済を作れると主張した。

#Qアノン #千人計画 #陰謀論

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