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緑亀って丈夫だよ

一昨年の夏。
猛暑のハウスの中で、セダム属の緑亀の卵という多肉と出会った。
昔から爬虫類が好きなので、そのネーミングから興味を持っていた。実際の緑亀の卵は白いが、多肉植物の緑亀の卵の葉の色は白ではない。葉の形状が亀の卵の形に似ており、ミドリガメの甲羅の色と似たような緑色だったから、このネーミングになったのではないかと思われる。
そもそも多肉植物の和名は面白いものが多い。
先日記事にした「子宝草」とかは、もう見たまんまの名前だ。
「ふっくら娘」「怒涛」「不死鳥」「神刀」「南十字星」「子持ち蓮華」
挙げたらキリがないくらい、その見た目やイメージ・特性で、割とストレートに名付けられたものだと分かるものが多いのだ。
特に「怒涛」は、その姿にピッタリなネーミングだと思う。是非、時間があれば「怒涛 多肉」で検索してその姿を見て頂けたらと思う。

話は戻り、くそ暑いハウスの中、
しばし私は緑亀の卵を見つめ、考えていた。

………欲しい。
…………暑い。

………欲しい。
…………溶ける。

………欲しい。

余りの暑さで溶けだしそうな脳みそ。緑亀の卵は魅力的でとても欲しいはずなのに、なかなか手を出すことができない私。

緑亀の卵はセダム属だ。先日記事にした乙女心と同属なのだ。
過去にたった数日間、目を離した隙に乙女心を溶かしてしまった私にとって、今やセダム属全てトラウマの対象となりつつあった。溶けたら嫌だという気持ちと、やっぱり欲しいという懲りない物欲。二つの思いがグルグル回り、頭がショートしそうになってきたその時、多肉友が

「緑亀って丈夫だよ!」

と、そっと私に囁いた。「へぇ…丈夫なのかぁ~そうなのかぁ」なんだか保証書をもらったような気持ちになり、私は安堵した。
そう、友人の悪魔の囁きが、私の背をそっと押すことになったのだ。

こうして我がベランダにやってきた緑亀の卵。とりあえず真夏の日差しが当たらない、明るい日陰に置いたみた。蒸れが怖くて、水も控えてみた。
それが悪かったのか?それとも、あの夏が高温すぎたせいなのか?
乙女心の葉がポロポロと落ち始めた頃に、緑亀の卵の葉も変化が起きてしまった。葉の表面がポロポロと剥がれて落ち始めたのだ。まるで卵の殻がパラパラと剥がれるように。慌てて室内に避難したが、乙女心同様、既に手遅れだった。どんどん表面が剥がれ落ち、続いて葉もすっかり落ちてしまい、そして夏の終わりには星になってしまったのだ…。

あまりにもあっけなかった。それはほんの数週間の出来事だったのだ。真夏に迎え入れた緑亀の卵を、この手で育てることなど全く出来ずに終わらせてしまったのだ。やはり私はセダム属と相性があまり良くないのだろうか。
思いかえせば、同じセダム属の万年草も上手く育てることが出来なかった。
私の気持ちの中では、鉢の中でモッサモッサと生い茂る予定だったのに、夏が終わる頃には万年草も無残な姿と化したのだ…。

ところで、セダムには日本原産種と洋種の2種類ある。
ミセバヤなどは日本原産種で、乙女心や緑亀の卵のようなふっくらした葉のセダムは主に洋種だ。更に洋種セダムは、耐寒性種と暖地性種の2つに分かれている。虹の玉など比較的寒さに強いセダムは耐寒性種である。そして暖地性種は高温多湿と寒さに弱い。
このようにセダム属といっても多種多様なのだ。一概に「セダムだからこういう性質」とは言えないのである。
洋種のセダムの多くは高温多湿に弱いので「梅雨の時期は要注意」と書かれていることが多いが、夏の暑さに関してはさほど警告を鳴らすようなことは敢えて書かれていないことが多い。実際、やや強いセダム属が多いのかもしれない。しかし近年の暑さは特に異常なので、いっそのこと暑さも弱いと考えた方がいいように思えてきた。もう夏の暑さを感じたら先手必勝、とっとと室内に避難した方がいい。この経験で私はそう考えるようになった。

卵の殻が割れてしまったら、もう手遅れなのだ。


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