見出し画像

俺たちは、命をかけて映えている

 パキンと乾いた音が廃墟に響き、細い首が鋭角に折れる。
 俺たちのヒロインはあっけなく事切れた。
「わら」「わらわら」「わら」「わら」
 何体ものワラワラが、あの子の身体に群がる。
 奴らは子供くらいの背丈を更に丸め、毛のない青灰色の皮膚をテラテラと光らせながら、汚らわしく黄ばんだ犬歯と捻くれた爪で柔肌を裂き、むしり取った新鮮な肉を、異様に膨らんだ腹の中に収めていく。
 傍らで嗚咽がした。自動ライフルを抱えたタイセーが、顔面をぐちゃぐちゃにして地団太を踏んでいる。
 蹴散らされた金属の塊がひとつ、俺のブーツにコツンと当たった。
 装填をしくじらなければ、あの子を救えたかもしれない替え弾倉だ。
 廃屋で鏡を見つける度にほつれ髪を整えていた。略奪され尽くしたコンビニで、コスメの棚が無事なのを知った途端、天使の笑みを浮かべていた。
 あの子の顔は未だに綺麗だ。
 銃声が轟き、それはぐずぐずのミンチになった。
 ぬらりと立ったタイセーが一歩進む毎、炸裂音とワラワラの悲鳴じみた鳴き声が重なる。
 荒い息で肩を上下させる恋敵の背中、ジャケットの背で、軍ヘルメットを被ったガイコツが親指を立てて嗤っていた。
「勿体なかったな」
 掠れ声で囁く。
「こうなるんなら無理ヤリでも」
「あ゛ァ!?」
 ヤツが激高し鬼の形相で振り返る。
「お前ふざ」「わら」
 手負いのワラワラが一匹、ヤツを背後から押し倒す。
 手から離れたライフルが俺の前まで滑り、止まった。
 想定以上の幸運だ。
「ウケる」
 装填した銃口をワラワラの背に押し当て、諸共に撃ち抜く。
 憤怒の顔のまま、ヤツは逝った。
 映える死に様だ。
 手首に巻いた端末が点灯する。
『☆彡サプライひとつ投下/★彡サプライズふたつ発生』
 空を仰ぎ見る。
 撮影ドローンは既に彼方だ。
「ウケてなかったな」
 死体から上着を剥きつつ、ひとりごちる。
 血濡れたガイコツは凄みを増していて、つい目を奪われてしまった。

【続く】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?