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しびろい日々(19)

 身ぐるみを剥いだ下から現れたモグリの素肌は異様に生白い。陽射しの代わり多湿な空気に曝され続けた肌は油脂が厚くまとわり付き、毛穴に溜まった垢の塊が黒点となり、肌模様のように点々と張り付いていた。
 覗きを働くような物好きなど居ないとはいえ、吹き抜ける風の触感は、あまり居心地の良いものではない。衣装入れから古布の腰巻を取ってとりあえずの着衣とし、一拍置くように天井を仰いだ。無意識に後頭部を掻いた爪に、ぼろりとした汚れの塊の感触がある。手を戻し、粘土のように指に張り付いたそれを、腰布に擦り付けて拭う。
 夜艶屋で”さっぱり”するアテは外れ、空腹もそこそこ。湯を借りるには手間も要る……最低限の身繕いを優先する事に決め、調理台に目を遣った。
 対価性の石板の上に火元となる油壷が載せてあるだけの簡便な調理台だが、死拾いのツテで多少の”細工”をくわえてある。油壷から伸びた火口布に、調理台の端に転がしてあった石片の鋭い切っ先を当てる。熱の臭いと共に炎が灯るのを確認し、両手に収まる大きさの平鍋と、それを載せる金物の三又脚具を揃える。平鍋の底に炎の先が触れるか触れないか、くらいの距離で余熱を加えながら、調理台の脇に吊り下げた革袋から、油脂の質感をした白っぽく弾力のある塊を数個、掌に収まる量だけ取り出した。

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