大藪裁判 第三回公判レポ-ト 1

裁判官が交代。9年ぶりの再会

2022年5月11日12時30分
薄曇りの中、前橋地方裁判所の前には、数十名の傍聴希望者が集まっていた。
裁判所の職員が、正面右側の入り口に希望者を誘導していく。一番大きな法廷で行われるのだが、コロナ対策で定員の半分しか傍聴できないのが残念である。
今回から裁判官が変わった。新たな裁判官は橋本健裁判官。丸井英弘主任弁護人は、その名前を聞いて驚いた。橋本裁判官は、2012年2月から1年以上にわたって東京地裁で行われた、大麻活動家の中山康直氏の公判における東京地裁での裁判官だったからである。

中山裁判では13回も公判が開かれ、いくつかの証拠や証人尋問が裁判官主導で許された。公判自体は比較的開かれた、議論をかわせるものだった。筆者も中山裁判の公判はすべて傍聴したので、そのことは強く印象に残っている。
大麻に詳しい大学研究者が証人に立ち、モニターを使った大麻の有用性などについても丁寧に証言していった。しかし、残念ながら求刑とほぼ同じ判決だった。多くの証拠を通読したこの裁判官は、日本の裁判官の中でも大麻への知識が豊富な人物といえるだろう。
中山裁判と同じ裁判官が、しかも別の地域の裁判所で担当するとは。。。
偶然なのか?それとも、意図的に今回の配属になったのだろうか?本当の理由はわからないが、10年ぶりの再会に、丸井弁護士をはじめとした弁護団も大藪さん本人も、この公判を楽しみにしていた。
 
傍聴人たちが法廷に入っていくと、既に裁判官と検察官は入廷していた。向かって右側の検察官は2回目から担当している黒澤検察官である。第一回公判にいた鈴木検察官の姿はない。
そして正面には…
いた!橋本裁判官だ。少々白髪交じりにはなったが、間違いなく、彼だ。
橋本裁判官は裁判官席の正面、傍聴席の背面の壁に掛けられた時計を見つめている。右側の弁護人席で準備を始めている丸井弁護士とは視線を合わさない。しかし、お互いに意識しているのが、傍聴席にいる筆者からも感じられる。懐かしい思いがよみがえる。
「それでは開廷します」
橋本裁判官が宣言すると、全員が起立一礼し、着席した。
 すると丸井弁護士が、穏やかな口調で裁判官に向かって言った。

「マスクなんですがね、これしてると声が聞こえないんですよ。外してもいいですかね?」
「いや、発言時はマスクをしてください。発言しないときは、外しても結構です」
裁判官が即座にそう答える。
「いや、発言している時も外したいんだけど…」
「発言時は着用をお願いします」
旧い知人同士のようなやり取りに、傍聴席から小さな笑いがおきる。丸井弁護士は意図的にこのような発言をしながら、コミュニケーションを図っているようにも見える。
 
13時5分。向かって左側の扉が開き、本日の証人が入廷した。法廷内には今までと違う緊張感に包まれる。
 
短髪で眼鏡をかけダークスーツを着た男性が、中央の証人台の前に立つと、裁判官に向かって一礼しでから誓約書を朗読する。裁判官が、発言時の諸注意などを丁寧に説明している。
 

今回の証人は、検察側が請求した証人である。そのため、検察側が証人の取調べ最初に行う。 これを主尋問という。次いで、弁護側が質問をする。これを、反対尋問と呼ぶ。


 
 
検察官が立ち上がり、手元の書類から視線を証人に向けるといった。
 
 
 

検察側による主尋問


 
検察官
あなたは、群馬県警長野原警察署の警察官ですね。
 
塚田警部補
はい。長野原警察署交通課で勤務をしております。主に交通警察、地域警察で勤務をしており、現在の階級は警部補です。
 
検察官
それでは、令和3年8月8日に実施した被告人に関する職務質問について聞いていきます。
あなたは、前日である令和3年8月7日から当直として長野原署で勤務していましたね。
 
塚田警部補
はい

一般の通報が入り、現場へ向かう

検察官
その際、軽バンがドアを開けっぱなしで止まっているので危ないから見てほしいという一般通報が入りましたね。
 
塚田警部補
はい
 
検察官
それであなたはどうしましたか。
 
塚田警部補
現場へ確認に行こうと思いました。
 
検察官
それはなぜでしょうか。
 
塚田警部補
道路上に車が止まっているという通報であり、危険であると思ったからです。
 
検察官
そして、あなたと相勤の方が当該現場に向かつたところ、被告人の車両を発見するということになりますね。
 
塚田警部補
はい
 

検察官と証人とのやり取りが進む。検察官は書類を見ながらも、出来事を時系列で確認するように、テンポよく質問していく。証人も徐々に緊張が解けているようだ。


 
検察官
最初にあなたがその現場に臨場したとき、その車両はどのような状態でいましたか。
 
塚田警部補
国道の登坂車線の真ん中に、運転席ドアを全開で止まっておりました。

 
検察官
あなたは、その臨場した際、車の外観などは確認しましたか。
 
塚田警部補
はい、確認しました。

検察官 
どのような状態でしたか。
 
塚田警部補
全体に細かいきずがあり、左側面と後部に少し大きなきずがありました。
 
検察官
あなたは、そのような車や車内で寝ている被告人などを見て、どうすることにしましたか。


職務質問を行った理由はなにか?


塚田警部補

職務質問をしようと思いました。
 
検察官
その理由は何ですか。
 
塚田警部補
早朝時間帯に登坂車線に車両が止まっており、運転席のドアが全開で開いているということは、不審であったからです。
 
検察官
どのようなことが想定されたということでしょうか。
 
塚田警部補
交通事故や、飲酒運転、無免許運転が考えられました。
 
検察官
職務質問の必要があるというふうに考えて、あなたはどのように声を掛けましたか。
 
塚田警部補
「おはようございます、こんなところに止まっていると危険ですよ」と声を掛けました。
 
検察官
そうしたところ、被告人は、どのような状態になりましたか。
 
塚田警部補
寝ていたところを起きて、余りに眠くて寝ていた、と答えました。
 
検察官
起きた被告人は、どのような様子でしたか。
 
塚田警部補
日がとろんとしており、少し周囲をきょろきょろするような感じで、落ち着きのない様子でした。
 
被告人を起こした後、あなたはどうしましたか。
 
塚田警部補
身分証の提示を求めました。
 
検察官
そして、被告人の氏名などを確認したということですね。
 
塚田警部補
はい。

免許証を照会し、大藪さんの過去処分歴を入手する

検察官
被告人の人定を確認した後は、どうしましたか。
 
塚田警部補
相勤者に頼んで、照会を実施しました。
 
検察官
そうしたところ、被告人に令和2年の大麻取締法による前歴があるということが判明したんですね。
 
塚田警部補
はい。
 
検察官
それを知り、あなたはどうすることにしましたか。
 
塚田警部補
職務質問を継続して、所持品検査を行おうと思いました。
 
検察官
その理由は何ですか。
 
塚田警部補
登坂車線に車があり、車の駐車の方法が明らかに異常であったこと。
前歴があり、その前歴の日にちが近かつたこと。目がとろんとしており、顔色も悪かったこと。車にきずがあったことです。
 
検察官
そういった不審な事由が複数あったことから、更なる職務質問、そして所持品検査を実施しようと思ったということですね。
 
塚田警部補
はい。
 
検察官
そう思ったあなたは、どうしましたか。
 
塚田警部補
前歴の有無を被告人に確認しました。
 
検察官
そうしたところ、被告人は何と答えましたか。
 

検察官と証人のやり取りの途中で、石塚弁護士が挙手をしながら発言した。


弁護人(石塚)
前歴というふうに先ほどから検察官は述べておられるんですが、前歴とは具体的に何を指しておられるんでしょうか。
 
検察官
では、その点をもう一度確認します。前歴ということなんですけれども、相勤者が人定を基に確認したところ、令和2年に大麻取締法違反による前歴があるということを把握したということでよろしいですか。
 
塚田警部補
はい、そのとおりです。
 
弁護人(石塚)
具体的に、前歴というのは「処分歴」という意味ですか。
 
裁判官
その異議に対しては答える必要がないと思いますので、質問を続けてください
 
検察官
では、質問を続けます。その前歴の有無を確認したということでしたよね。
 
塚田警部補
はい
 
検察官
それに対して、被告人は、当初、何と答えていましたか。
 
塚田警部補
前歴はない、と答えていました。
 
検察官
それを聞き、あなたは更に被告人に何か問い尋ねましたか。
 
塚田警部補
更に前歴の有無を尋ねました。
 
検察官
そうしたところ、最終的に被告人はどのような答えをしたのでしようか。
 
塚田警部補
以前友達が大麻で捕まったことがあり、そのときに警察に話を聞かれたことがある、と答えました。
 
 

確かに以前に大藪さんは、友人が逮捕された際に任意で警察に協力し調書を取られたことがあるが、その後の通知なども何も来なかった。そのため、警察のコンピュータに自分のデータが「前歴」として入っているとは思っていなかった。


検察官

そのような会話のやり取りの後、あなたはどうしましたか。
 
塚田警部補
所持品検査を行うということを告げました。
 
検察官
それに対して、被告人は、当初、どのように答えていましたか。
 
塚田警部補
任意でしょう、そこまでする必要があるのですか、というふうに答えました。
 
検察官
それに対して、あなたはどのように答えましたか。
 
塚田警部補
任意ですよ、危ないものや持っていてはいけないものを持っていないのであれば、それを持っていないということを確認させてください、皆さん協力してくれてますよ、というふうに告げました。
 
検察官
所持品検査を求めるために何かあなたのほうでしたことはあるのでしょうか。
 
塚田警部補
私が所持していた黒色布製の袋を被告人の腰の付近にこう差し出し、
 
検察官
それを受けて、被告人はどうしましたか。
 
塚田警部補
携帯電話とたばこの吸い殻を入れました。
 
検察官
携帯電話とたばこの吸い殻を出した後、あなたはどうしましたか。
 
塚田警部補
着衣の上から所持品検査を実施しました。
 
検察官
その際、被告人に対しては、事前に何か伝えているのでしょうか。
 
塚田警部補
ポケットを触る際などは、ポケットを触らせてもらいますねというふうに、一つ一つ確認を取りながら所持品検査を行いました。

検察官 
その際、被告人が身振り、手振り、言葉などでそれを拒否する言動はありましたか。
 
塚田警部補
そういったことはありませんでした。

車内検査により、パケが2つと巻紙が出てきた

検察官
その後、次にあなたはどのようなことをしようと思いましたか。
 
塚田警部補
車内検査を行おうと思い、被告人に運転席側へ来るように告げました。
 
検察官
それを受けて、被告人はどうしましたか。
 
塚田警部補
運転席の横まで歩いて来てくれました。
 
検察官
その後、車内の確認を実施したところ、運転席シートの上から黒色のバッグを発見しましたね。
 
塚田警部補
はい
 
検察官
バッグを発見して、どうしましたか。
 
塚田警部補
誰のバッグであるかを、被告人に確認しました。
 
検察官
それに対して、被告人は何と答えましたか。
 
塚田警部補
被告人のものであると答えました
 
検察官
それを聞いて、あなたはどうしましたか。
 
塚田警部補
バッグの中を確認させてください、と告げました。
 
検察官
それに対して、被告人は、拒否するような言動、そぶり、そういったものはありましたか。
 
塚田警部補
そういったことはありませんでした。
 
検察官
その後はどうしたのでしょうか。
 
塚田警部補
財布及びマンゴーの袋の中を確認しました。
 
検察官
財布とマンゴーの袋を、要はバッグの中から取り出したということですね。
 
塚田警部補
はい。
 
検察官
そのように取り出すに当たって、あらかじめ被告人に何か告げているのでしょうか。
 
塚田警部補
財布の中を確認させてもらいますね、とか、マンゴーの袋の中を確認させてもらいます、というふうに、一つ一つ確認を取っています。
 
検察官
それに対しては、拒否の言動というのはあったんでしょうか。
 
塚田警部補
そういったこともありませんでした。
 
検察官
マンゴーの袋内には、何が入っていましたか。
 
塚田警部補
パケが2つと、巻き紙が入っておりました。
 
検察官
それを見たあなたはどうしましたか。
 
塚田警部補
本署の刑事課員に応援を求めました。

大藪さんへの疑いは、道交法違反から大麻取締法違反へと移っていく

検察官
本署の刑事課員に応援を求める前に、そのマンゴーの袋から見付かつたものに関して被告人と何かやり取りはしていませんか。
 
塚田警部補
これは何であるか、誰のものであるかを確認しました。
 
検察官
被告人は何と答えていましたか。
 
塚田警部補
知らない、分からない、と答えていました。
 
検察官
知らない、分からないという被告人の答えを聞き、あなたは更に何か尋ねましたか。
 
塚田警部補
分かるでしょう、知っているでしょう、というふうに告げました。
 
検察官
そうしたところ、被告人は何と答えましたか。
 
塚田警部補
大麻です、自分のものです、と答えました。
 
検察官
そのようなやり取りの後に本署に応援を求めた、つまり長野原署に応援を求めたということでよろしいですか。
 
塚田警部補
はい。
 
検察官
なぜその段階で応援を求めたのでしょうか。
 
塚田警部補
予試験を実施するためです。
 
検察官
被告人が大麻だと説明しているそのものについて予試験を実施する必要があると考えたんですね。
 
塚田警部補
はい。
 
検察官
あなた自身は、そのとき予試験のキットを持っていなかつたということですか。
 
塚田警部補
はい、私の車には予試験のキットは積んでおりませんでした。

大藪さんが携帯電話で丸井弁護士に連絡。応援要請の警官が、簡易検査で大麻鑑定を実施した。

検察官
そのような応援要請をした後、被告人が、弁護士に連絡をさせてほしいと言いましたよね。
 
塚田警部補
はい。
 
検察官
それを聞いて、あなたはどうしましたか。
 
塚田警部補
携帯電話を返しました。
 
検察官
その携帯電話を使って、被告人はどこかに連絡を取りましたね。
 
塚田警部補
はい
 
検察官
その後、被告人は、あなたに何か言いましたか。
 
塚田警部補
自分の大麻であることは認める、任意にしてほしい、と告げられました。

検察官
それに対して、あなたは何か答えましたか。
 
塚田警部補
刑事課員が来てから判断する、と答えました。
 
検察官
その後、刑事課員の窪警部補と富田警都補の2名が現場に臨場しましたね。
 
塚田警部補
はい。
 
検察官
あなたはどうしましたか。
 
塚田警部補
窪警部補に、車両発見から現在時までの状況を報告しました。
 
検察官
それを聞いた窪警察官は、どうしましたか。
 
塚田警部補
予試験を実施しました。
 
検察官
実際にその予試験を実施したり、若しくはその際に被告人と何かやり取りをする、そういったことをしたのはどなたでしょうか。
 
塚田警部補
窪警部補です。
 
検察官
それはなぜでしょうか。
 
塚田警部補
窪警部補が薬物事件の担当の警察官であるからです。
 
検察官
なので、窪警部補ほか1名が臨場した後は、それ以降のことは窪警部補たちに任せているということなんですね。
 
塚田警部補
はい。
 
検察官
その後、最終的に被告人が大麻取締法違反で現行犯人逮捕されていますが、その際に逮捕要件の検討などを行ったのはどなたでしょうか。
 
塚田警部補
窪警部補です。
 
検察官
それはなぜですか。
 
塚田警部補
事件主管課の警察官であるからです。
 
検察官
あなた自身は、その際に、窪警部補に対して、逮捕要件等の検討の際に何か意見を出したりとか話をしたりということはしているのでしょうか。
 
塚田警部補
特にそういったことはありません。

検察官
質問を終わります

塚田警部補が通報を受けてから窪警部補が到着するまでの経緯を、黒澤検察官は質問という形式で簡潔にまとめていった。検察側の尋問が終わると、向かって右側に座る丸井主任弁護士は、書類を左手に持ち、立ち上がった。

そして、弁護側による反対尋問が始まった。


第三回公判リポート 2 に続く

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