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スノーボーダー國母和宏氏と大麻文化

2020年1月8日に東京地検で行われた國母和宏氏の公判での発言について、ワイドショーやスポーツ紙がにぎやかに伝えている。
國母氏は2018年に、大麻加工品である「ワックス」57gを国際郵便で米国カリフォルニア州から知人宅へ送ったことで逮捕された。

公判当日の東京地裁には、傍聴を希望した人たちが150名以上も訪れていた。たった12枚の傍聴券であったが、運よく手にすることが出来た。
厳重なボディーチェックを受け、メモ帳とペンだけを持って傍聴席に臨む。
テレビカメラや多くのジャーナリストとともに、傍聴席に着席して開廷をまつ。
冒頭の証拠調べでは、丸井英弘弁護人が提出した証拠の、一部を除いてほとんどが提出を同意された。その中には、「大麻入門」などの拙著もあった。最後の嘆願署名だけは提出は不同意だったが、閲覧は認められた。そこにはオリンピックメダリストや世界のトップアスリート、スポーツ業界のリーダーたちの名が連ねられていた。

「14歳に北米で大麻を経験した」という発言に世間は注目している。年齢的に早いと感じて驚いているのかもしれない。
しかし、10代前半の英語も喋れない少年が、単身で北米のトップの世界に飛び込んだとき、スノーボード界の真ん中にある大麻文化に触れ、それに導かれ、大人たちとコミュニケーションを重ね、先輩たちの教えを聞き、翌日の練習に励むということは必然的なことだったのだろう。その社会では大麻の認知度は高く、北米で大麻は、社会的にも承認されている。史上最年少でアメリカの大会で活躍し、スノーボード界の最高峰で生きてきた彼にとって、大麻文化はスノーボードの一部、いや、中心部にあったのだろう。その中で彼は成長し、日々の練習に励んできたのだ。

多くのスポーツや芸術の中心には、このような精神的な支柱が存在する。
ヒップホップなどのビートミュージックやレゲエミュージック、サーフィンやスケートボード、ビートルズやデッドに代表されるサイケデリックカルチャーなどは、大麻文化そのものだ。イランをはじめとするイスラム教やヒンドゥ教の中心にも大麻は存在する。


「それがどうした?」という声が聞こえる。「ここは日本だ。法律を犯した者は謝罪し、罰せられろ」という声が聞こえる。
法律がある以上、それを犯したものは何らかのペナルティを受けるのは必然だろう。しかし、大麻取締法の存在を度外視したとき、そこに何の問題があるのだろうか?
國母氏は、起訴内容を認め、「すごくたくさんの人に迷惑をかけたので本当に反省しています」と謝罪している。日本の大麻取締法に抵触したことで、周囲に迷惑をかけたことは確かにいけないことかもしれない。だがそれは、あくまでも個人的な問題だ。
彼は公人であり、社会的な影響が大きいから問題なのだという意見もあるだろう。しかしその意見も浅薄だと僕は思う。
大麻とはどのようなものなのか。この法律がどういうものなのか。なぜ彼がこの法律に抵触するような行為に及んだのか。
そのようなことを何も議論せず、考察も行わず、法律を破ったのだからメディアの前で俺たち世間に頭を下げて謝罪しろと、多くの人が責め立てる。
言葉尻を掴んで、「イチローに謝罪しろ」などという者もいる。
ことの本質を議論することなく、個人を集中的に攻撃し、世間は溜飲を下げる。
だがこれは、日本の司法制度や立法の問題でもあり、人権問題でもあるのだ。我々はその部分をこの問題から学ぶ必要がある。

「今回のことで、スノーボード界からはどのような声が届いてますか?」
裁判官が、そう訊ねた。すると彼は、少しの沈黙の後、こたえた。
「ここでは言いづらいことです」
その言葉に畳み掛けるように裁判官はいう。
「失望ですか?反省を促した?」
「いえ、その逆です」
その瞬間、裁判官は目をまん丸くして驚いた。傍聴席にも動揺がはしる。
「日本の人たちも?」
「はい」
「(反省しろという)声は届いてない?」
「届いていません」
裁判官は戸惑っているようだ。國母氏は続けていった。
「しかし、後輩たちには勧めてはいません」

今までの大麻裁判の法廷の流れとは異なる展開だった。だがこれが、今の日本と世界のギャップなのだ。

もう、「ダメだからだめなんだ」というのはやめにしよう。「悪法も法なり」と、したり顔でいうのもやめようではないか。悪法は、既に法律ではない。そして、それを変えていくのが市民の責務だ。


しかし残念ながら、このような主張は、一般社会には伝わらない。大麻を恐ろしい麻薬であると思っている人には、理解しづらいのかもしれない。それは当然のことだろう。
もしもあなたが大麻を恐ろしい麻薬だと誤解しているとしても、この法律によって多くのひとの人権が侵害されていること、そして、そのことを強く訴え続けている者たちがいるということの理由を考えてみてほしい。覚せい剤やヘロインの問題で、このような主張をする者たちがいるだろうか。
大麻を知らないひとも、公衆衛生や人権の問題として、この問題を掘り下げてほしい。うわべだけの情報を鵜呑みにせずに、だ。

今回僕は、公判の前後に國母氏本人と長時間話す機会を得た。その上で傍聴できたことを幸運に思う。彼の人柄と本心に触れることが出来たからだ。だからこそ、この事案については、僕の中でもう少し取材を積み重ね、熟成させてから伝えていこうと思う。


バックカントリーでの國母氏の活躍
https://backside.jp/movie-022/

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作家・舞台プロデューサー ステージ制作の傍ら、ジャマイカやインド、北米や南太平洋などを訪れ精神世界、ドラッグ、ストリート・カルチャーなどを中心に執筆。ロック、日本の祭り文化についての造詣も深い。『不思議旅行案内』『タトゥー・エイジ』『大麻入門』(ともに幻冬舎)、『医療大麻入門』等
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