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(ネタバレあり)「シン・ウルトラマン」のインクリメンタル(段階的)なシナリオ術

(タイトル画像は公式サイトよりキャプチャ)

「シン・ウルトラマン」を見ました。過去作へのオマージュを随所に感じられつつ、特撮らしさを意図的に残したウルトラマンのアクションなど、映像面でも楽しませてもらいましたが、何といっても今作はシナリオが素晴らしかったです。日本アカデミー賞の優秀シナリオ賞にノミネートされてもおかしくないと思うくらいです。今回はそのシナリオの最大の長所を語りたいと思います。

インクリメンタルとは

インクリメンタル Incremental とは、「増加していって」というような意味を表す言葉です。プログラマーなので、インクリメンタルビルドとかいう言葉に日常的に接しているので、こういう言葉がポンと出てしまうのです。

これが、「シン・ウルトラマン」とどう絡んでくるのか。ウルトラマンの技を例に説明してみましょう。

  1. ウルトラマン、スペシウム光線で敵を撃破する。

  2. スペシウム光線が効かない敵が現れる。

  3. ウルトラマン、八つ裂き光輪を発動し、敵を一刀両断する。

  4. スペシウム光線も、八つ裂き光輪もものともしない強敵が現れる。

  5. どうなったかは劇場でご確認ください。

という感じで、ウルトラマンの技をただ使い分けるのではなく、きっちりと段階を踏んで紹介していくのです

今回はネタバレ要素を含まないように技に限定して紹介しましたが、「シン・ウルトラマン」にはこのような構造が幾重にも盛り込まれています。流石は「シン・ゴジラ」でどんどん変化して、おなじみの姿に進化していったゴジラを描いた庵野さんの脚本です(もし庵野さんがメガホンを握れたら、と思わずにはいられません)。そして、この辺りは細切れで作られるTVシリーズではなく、一気にまとめて提示される映画ならではの脚本といったところでしょう。

このようにストーリーの積み上げをきっちり行うことで、細かいセリフがわけわからなくてもシナリオの行き先を見失わなくて済むのです。

作品を見ていない方はここでバイバイです。見た人向けに、細かい説明をしていきたいと思います。

(以下ネタバレあり)より細かい説明

敵のインクリメンタル

そもそも開始時点から、この作品はエスカレートしてできた作品ですよということを視聴者に伝えています。

  1. 最初の巨大不明生物(「禍威獣」)は自衛隊で何とか出来た。

  2. それからの禍威獣は外部からの力を借りて撃退した。

  3. 専門チーム「禍特対」設立。禍威獣殲滅の指揮を執る。

このような人間組織の成長をダイジェストとして描いています(これだけ切り出して「シン・ウルトラQ」とか作ってくれませんかね、円谷さん…)。

そして本編の敵キャラはこんな感じです。

  1. 人知に負えない禍威獣「ネロンガ」「ガボラ」をウルトラマンが倒す。

  2. 禍威獣とは違う、知能を持った「外星人」ザラブが現れる。

  3. 人間に化けることのでき、ウルトラマンとも互角に渡り合う外星人「メフィラス」登場。

  4. 人間の存在を看過できないウルトラマンの同族ゾーフィにより、絶対的な強さを誇る生物兵器「ゼットン」が送り込まれる。

メフィラスとザラブが逆だったら、ストーリー的には破綻しますよね。このように、徐々に敵対勢力もスケールアップしていくのです。これが「シン・ウルトラマン」にリズミカルな奥行きを与えています。

ベーター技術のインクリメンタル

ベーターカプセルと言えば、本家ではいかにも子供向け作品用の分かりやすいガジェットでした。これをオミットすることもできたはずですが、庵野さんや樋口監督はあえて残して、作品の根幹をなすテーマの一つに昇華することに成功しました。ベーターカプセルおよび、その周辺技術(とりあえずベーター技術と名付けます)に関するタイムラインをまとめると以下のようになります。

  1. ガボラ戦で、神永がベーターカプセルを使い変身する。

  2. ザラブがベーターカプセルの所在を神永=ウルトラマンに問う。変身に必要だから、ザラブに盗られないように神永は前もって浅見にベーターカプセルを託す。

  3. メフィラスの手により、巨大浅見が登場する。その構成を分析することは現代科学では不可能。

  4. メフィラスがベーターボックスを引っ提げて登場。ベーター技術がウルトラマンの出現や巨大化をするための技術だということを説明する。

  5. 時系列が少し飛んで、ウルトラマンはベーター技術の詳細を現代物理学の論文として残す。

  6. それを受け取った滝の手により国際会議が開かれ、科学的な革新がもたらされ、ウルトラマンとの連携作戦を発案できるようになる。

複数の出来事が混在しているため少々込み入ってはいますが、このようにベーター技術が「現代物理学を超越したブラックボックス技術」→「人間が理解できる科学」という風に移り変わっていくのが分かります。そして、この技術的立ち位置の変化が、ウルトラシリーズの裏テーマと言える「強大な力への依存にどう向き合っていくか、人間の英知はそれを乗り越えられるのか」(本家最終話の、ウルトラマンですら敵わなかったゼットンを人間が撃破したというのがまさにそれです)ということにも繋がっていて、とても良いです。

この辺りの積み重ねをきっちり行うことで、人間の進化が実感できるようになります。3番の技術的困難を踏まえているからこそ、6番のカタルシスを実感できるのです。それにしても本編の後に来るであろう、人間の技術的発展はワクワクしますね。照射武器だった「マルス133」を超える、スペシウム活用もそう遠い夢ではないでしょう。

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