見出し画像

ルパン三世PART6―こんなルパンが見たかったんだ!

間違いなく、この10年間で最高の出来だったと思う。

先日、ルパン三世PART6が終了した。今回はTVスペシャルのような腑抜けた雰囲気は無く、日本が誇るピカロの代表格・ルパン三世の魅力が詰まったフレッシュな作品に仕上がっている。

最高の無頼

ルパン三世という男は、なかなかに多面的な魅力を持っている。盗み・変装の天才で、世間をあっと言わせるような方法で数々のものを盗んできた。粋な部分を持ち合わせ、少女には紳士として振る舞うが、不二子ちゃんには首ったけ。かと思えば、悪党として、三枚目何やケガおからクールな顔を見せる。「ルパン対複製人間」では、ルパンの本質が空っぽだったが、「カリオストロの城」では、設定年齢が上がっているためおじさん的な優しさがある。

個人的なルパン像としては、本当に興味があるのは物を盗むことで、隠してあるからこそ暴きたくなるのだ。不二子は彼をもってしても盗めない存在というメタファーを感じる。そして彼は世間のくびきから説き離れた真に自由な存在だ。それ故に世界に一泡吹かせて、堂々とあざ笑える。己としての核があるからこそ、ピカロでいられる。まさに頼るべきものの無い男だ。

今回は、そんなルパンの悪党としての魅力が本当に発揮されている。今までのルパン像をしっかり引き継いだうえで、悪としての生き方を存分に描いているのだ。例えば、リリーやマティアといった少女に対しては、優しい紳士として接している(怪我をしたマティアの店に変装して足しげく訪れる部分は、まるで「街の灯」で盲目の娘に尽くすチャップリンのようだった。ルパンの変装はすぐにばれたが)。しかし、後半にある悪党と接したとき、彼はこう言う。

俺たちは、同じ悪党だ。お前が今まで何人の人間を殺したのか知らねえが、それを責めるつもりは一切ねえ。だが、(中略)それは無かったことにはならねえ。お前は、それを背負って生きていくんだ。(中略)決めろ。お前がこの先悪党としての美学を持つのかどうか。

こういう風に、悪に対しては対等に接するシビアな面を見せるのだ。栗田貫一さんはなかなか頑張っている。ニヒルな一面も山田康夫さんを引き継いでいる。己の生き方、それが今回の通奏低音になっているように思われる。

半世紀ぶりの新しい次元

そして今回の目玉と言えば、長年にわたり小林清志さんが演じてきた次元大介を大塚明夫さんが引き継いだことだ。コバキヨさんが墓場まで次元を持っていくかと思えば、まさかの事態に騒然となったのは記憶に新しい。

第0話の次元は、確かにヨボヨボだが格好良かった。昔気質に生きていく彼の姿が描かれていた。もしかしたらPART5の後、コバキヨさんは長期シリーズが始まったら次元役を降りるというのは決めていたかもしれない。

そして誰も聞いたことのない新次元が始まった。明夫さんは持ち前のダンディな演技で、前任に押しつぶされずに、最高のガンマンを演じていた。それでも彼曰く、初期の小林さんの演技を大いに参考にしているという。しかし、それはまねをするというわけではない。

筆者が明夫次元を認めるきっかけになったのが、第8話「ラスト・ブレット」だ。ルパンに頼まれた次元が護送されるリリーを守り抜く話だ。彼は、リリーを守ろうとする少年に対し、ガンマンという生き方を説く。使い込んだ銃を使い倒すさまは必見である。本当に男の生き様を見せてもらった。この話が今回のベストだと思う。

実は、随分前にルパン三世のキャスティング妄想ごっこをしていた際に(こういう遊びは割と好きで、「ダイヤモンドは砕けない」が連載当時にアニメ化されてたら誰がやっただろう、とか考えるのが楽しいのだ)、明夫さんが次元をやったら面白そうだなと思っていた。少々年を取りすぎているのではとも思ったが、なんてことはない。若手だったら50年同じ役者が演じてきた大役の重圧に負けて、中途半端に小林さんに似せようとして失敗したりしたことだろう。ベテランだからこその堂々たる演技だった。

引き立て役じゃないライバル

前半のルパンのライバル役として、何代目かは知らないがシャーロック・ホームズが登場する。どうしても「ルパン対ホームズ」のエルロック・ショルメを思い出してしまうが、彼は違う。実にクレバーにルパンを追い詰め、煮え湯を飲ませる。

彼は過去のある事件で相棒のジョン・ワトソンを失っている。その遺児であるリリーを守るべく、大したことのない事件の解決をするように身をやつしていた。しかし、そんな彼の前に因縁のあるルパンが現れ、己の過去、そして事件の手がかりであるリリーの記憶に向き合うようになる。そういうバックグラウンドもしっかり練り込まれていて、一人のキャラとして魅力的な存在に仕上がっている

ルパンとホームズという2つの糸が絡んだり分かれたりしながら進む前半「Lupin III vs. Holmes」は珠玉の出来である。

個人的に、権利関係とかがややこしくて実現しそうにないが、ホームズを主人公に据えたスピンオフがあったら見てみたいと思うくらいに、彼を気に入っている。ルパンのスペシャルなどに再登場して、対決して欲しい。

バラエティ豊かなエピソード

今回のルパンは、1クールごとに連作で話が進んでいくだけでなく、適度にゲストライターが書いた短編が挟まる。例えば御年90の辻真先御大(現在はミステリー作家として活躍するが、「デビルマン」などを手掛けたベテラン脚本家でもある)は老獪さがにじむキレのあるミステリーを書いており、かつてルパン三世のアニメを企画した押井守監督も、自身の持ち味を生かしたハイソでインテリ感の強い作品を2本(ゲストライターでは唯一)提供している。こういったように、さまざまな作家を集めたストーリーは飽きが来ない。ただ、75年前(つまり1946年頃)の海賊、というのは面食らったぞ。

残念だったところ

と、ここまで褒め殺しだったが、難点もある。第2クール「Witch and Gentleman」はあの怪作「峰不二子という女」の焼き直しである(銭形警部に新しい部下が付くところまでそっくり)。あの作品を知っていればほとんどネタバレになってしまうので、あえてこれ以上は言うまい。

しかし、短編とメインストーリーがつながる部分など、単純に二番煎じにならないようにする工夫は感じられた。

まとめ

おそらく、自分の求めるルパン三世と、菅沼栄治監督の考えるルパン三世はかなり近いものがある。クールでユーモラスな大悪党の活躍と、大野雄二さんの洒落たジャズファンク。だいぶなじんできた新声優たち。己の生きざまに真っ直ぐなルパン一味と銭形警部、そして新キャラ達のぶつかり合いがここにはある。ルパン三世PART6は、月並みとは言わせてくれないだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?