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かすかな灯り

暗闇に光る液晶ディスプレイに大きく表示されるカウントダウンに合わせて、自動で開かないドアを両手で押し開けた。
これって、ほとんどホラーゲームでしょ。
よくあるプロローグだよ。
何かあるぞ!あるぞ!出るぞ!出るぞ!、でたあ~!ってやつ。

駅で、何となく眺めていた観光チラシの中に見付けた新しい美術館の案内チラシ。
その裏側に、統廃合で閉館の決まった古い美術館でのイベントの案内があった。

「特別展『理解の灯火』8日金曜日21:00開場・入場無料」

子供の頃からよく行った美術館だった。
最後の展覧会も観に行った。
その美術館での特別展。
ひと夜だけの開催。
何だか怪しい、凄~く怪しい。どうしょう。

「ママ、このサンドイッチ食べていい?」

「いいわよー。晩御飯はカレーね、ママ今夜はちょっと遅くなるから、パパと適当に食べといてねー。」

結局、来てしまったのは、電話で誘われたから。
もう迷うのが面倒になって、まっすぐ帰ってカレー食べて寝ようと決心して塾を出ると、自転車の籠の中にこの携帯電話が有ったのだ。

手に取ったタイミングで、着信音が鳴った

「も、もしもし?」

「待ってる。」

「え?」

携帯画面の文字に従って来て、待ってるからって、女の子の声。
何か怖いことが待ち構えているかも知れない、そう警戒しながらも来てしまったのは、女の子の声に聞き覚えがあったから。
何故だかよく分からないけど、胸の奥深くを揺さぶる、懐かしい響きの声だった。

昔の8ビットゲームみたいな素っ気ない画面に表示される緑色の文字と、カウンターの黄色い数字と、方向を示す赤い矢印に誘導されて、防犯灯だけの真っ暗な美術館の中に入ったのは、21:12分。

そして美術館を出たのは、21:15分だった。

この世界ではたったの3分。
でも僕は、美術館の向こうに12年いた。
不思議では無い。
これは超常現象では無くて、科学だから。
僕には仲間がいて、成すべき事がある、そして僕達はそれを遂行する為の力を、持ち合わせている。
と話してみても、分かっては貰えないと思う。
ただ、ひとつだけ言える確かな事がある。
それは、あり得ない誘いにまんまと乗って、人目を盗んで夜の美術館に侵入してはいけない。
リアルにヤバイ。


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