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その1、普段着の短編小説

短編小説は、ごく普通の言葉から始めます。

耳慣れない、使い慣れない難しい言葉では、
物語が凍り付いて固まってしまうだけなので
使いません。

そんな普段着の言葉で、短いフレーズを組んでみます。
「駅のホームのベンチに、白い手袋。」

ありきたりな言葉とフレーズですが、映像が目に浮かんできませんか?。

多分、遅い時間だな、ホームも空いてそう
線路の上に、音もなく降り落ちる粉雪
本に夢中の女の子が、ページをめくる為に外した手袋かも
きっと白い毛糸のフワフワの手袋だ

ここでは、お話しを作るんだという気合いは排除します。
見えてきた映像を、見えるままにそのままに想像を膨らませます。
登場人物の心の中の声に、耳を澄まします。

出だしは良好です。
ここから、読む人に何を伝えたいのかを決めて、それを伝えるためのストーリーをととのえます。
この短編では、白い手袋が物語の書き出しで、主役です。
フレーズに、時間の重なりと流れを感じるので、テーマを「後悔」にします。

以下構想文です
括弧内は物語の主要フレーズです。
続けてそこから連想するイメージを書き留めています。

「駅のホームのベンチに、白い手袋」
ベンチの前に凍り付いたように立っている
片方だけの手袋を見下ろす
前にのめるようにうなだれる

「あの日、走っていたなら」
向かい側のホームでいつも本を読んでいた女の子
声を掛ける勇気すら持てなかった片想い
忘れていた青春の苦い思い出

「場所も時間も違うけれど、あの日と同じ白い手袋」
本を手にうつむく彼女の姿
傷つくのが恐いからって何もしなかった

「ありがとう、もう後悔はしない」
不自由を感じ続けている人間関係
失敗を恐れない
手袋を拾い上げ、手に取った時の感触
そして高揚

「雲間の月」
いつの間にか雪が止んている
丸く輝く金のボタンのような月

細かい情景や心理描写などを丁寧に書き足せば、完成です。

長編小説の場合は、テーマが先に来るかと思いますが、短編小説はフレーズから。
そして、伝えたい想い。
このふたつです。

フレーズというのは、読者によせてというより、物語を作る自分の為のものです。
興味を持てず、魅力も感じない、何も沸き上がって来ない言葉では、モチベーションが上がらず、イメージの欠片さえも浮かんで来ません。

どんなフレーズに引かれるのかは、体調や精神状態に左右されると思います。
見過ごし、忘れていたフレーズが輝きを放つ事もあります。

目の前に映像が現れて動き始める。
そんな自分だけのフレーズを集めます。
そしてそれらを沢山並べて、いつでも見れる場所に置いておきます。
ある日、その中のフレーズが語り始めるので、耳を傾けます。

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