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点と線と面そして波

「佐伯さんって、もしかして北中?。」

「え?、そうですけど。」

「ぼく田中、美術部の1年上だった。」

困惑が警戒に変わった。

「あ、いやえーっと。」

この人、輪郭がボヤけて見えるけど、なに?。
もしかして変なひと?
いや、私の眼が変なのかも、あんまり寝てないし。
とか、そういう物語のこもってそうな目で見られた。

「あ、ごめん、人違いかも。」

佐伯さん。
美術の教科書に載っていた、佐伯祐三という画家と同じ名前の子。

佐伯祐三って知ってる?
はい、大好きです。
僕も好きなんだ、あんな絵を描きたいんだ。
とかって、盛り上がる話しをしたかったけど、していない。

佐伯祐三って、よく喋って、よく笑う人だったらしい。
でもすごく怖い顔。
その怖い顔そのままの、荒々しく書きなぐったような絵なんだけど、見詰めていると、とても繊細で、美しくて、優しさに溢れているのが分かる。
気取りがなくて、真っ直ぐな絵。

「センパイ、なに薄暗くぼけっとサボってるんですか?」

え?はい?

「センパイなんですよね?」

あ、うん。

「んじゃ、働けセンパイ!」

「あ、うん。」

バタバタと騒がしく打ち寄せる波は、静かに引く波とセットだ。
目立たず、音も立てないぼくだけど、佐伯祐三先輩!ぼく頑張ります!


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