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黒い瞳の秘密

駅のホームのベンチに置き忘れられていた、白い手袋。

「これ、竹下さんの?」

目を見れば、その人が分かるらしい。
二人は黙って、互いの目の奥を確かめ合う。
そんな僕の空想は、一瞬で吹き飛んだ。

朝から雪。
校舎へ向かうみんなは、傘をさしてる。
白い景色の中の黒い列。

足元にカミナリが落ちたみたいに、後ろへ跳び跳ねた竹下さんも、僕の目を見る余裕なんてなかっただろうな。

竹下さんは赤い手袋を着けていた。
空振りした勇気の熱が、今は寒気に変わってるし。
何かが蒸発してしまった身体は、縮んだような気がする。
勘違いと誤解と後悔と恥ずかしさの渦巻く頭の中は吹雪。

白い手袋を着けているのを見た事があったし。
洋子の頭文字「Y」のイニシャルが刺繍してあったし。
届けてあげなきゃって、思って。
何もかも後の祭りだけど。

手袋は、帰りに駅に届けた。

「はい?朝ひろった?」

「え、あ、友達のだと思って、それで違ってて…」

駅員に、すっごい怪しい目で見られた。

もうすでに女子にも、怪しい奴を見る目で見られてる。

しばらく僕は雪だるまになる。

目は黒いボタンにして、誰の目も見ない。


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