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外苑ノ曠遠開豁

青山方面の景観


【明治神宮外苑ノ記】碑に、外苑の特徴として謳われる「曠遠・開豁(こうえん・かいかつ)」
というもの。
遥か遠くまで展望が広く開けて眺めが良いさまのこと。


かつては、見晴らしの良い広大な原っぱだった青山練兵場。明治天皇の大喪儀がここで催され、その時の式場配置の基本ラインを元に、明治神宮外苑が造営された。
広大な敷地を活かして、土地の造成や植樹が行われ西洋式の庭園として完成した。
造営から100年が経とうとしている現在、外苑周辺は都市開発が進み、最早かつての様な眺望を期待することは困難になりつつある。

青山通りから

青山通り、外苑「青山口」から銀杏並木を通して絵画館を望む、このフォトジェニックな景観は、あまりにも有名だ。もし、この絵画館の背後に高層ビルが建つことになったらどうだろうか?

かつて、この背後に高層建築計画が持ち上がったことがあった。五輪招致の頃、石原慎太郎都知事(当時)は、絵画館の後方2kmも離れた東新宿の高層ビル建築に待ったをかけた。地権者であるUR(都市再生機構)は、高さ180mの計画を120m以下に修正し要請に応えた。URは「景観のために協力するべきだと判断した。」とコメント。また500m先のマンションの建替計画も、高さ120mの計画を50m以下にする様求められたという。当時、条例などの根拠が無い中での要請だったそうだ。
(東京新聞2014.03.25)
都知事による招致目当ての眺望保護だったのかもしれないが、ともかく事業者の「協力」により絵画館後方の景観は守られた。

現在、絵画館の周辺には怪しい建築物が幾つも建っている。しかし幸いにも銀杏並木から望む絵画館の景観は、ほぼ守られている。(後ろに少しだけビルが見えるのは残念だ。)きっと知らないところで色々な努力がなされた結果なのだろう。

では、その逆方向はどうだろうか?
絵画館から青山口方面を望む南側の景観だ。残念ながら、こちら側の景観は守られるべき対象とはなりにくそうだ。
ただやはり、外苑の中心軸の延長線上(銀杏並木の先)には、ある程度の配慮があるのだろうし、これからもそうあって欲しいものだ。

絵画館前から「青山口」方面を望む
写真①
「明治神宮外苑七十年誌」より創建当時の景観。
絵画館の少し高所からの撮影。
広場には、まだ幼い銀杏並木に続く二条の歩道が延び、
背景に建物はほぼ見当たらない。
国旗掲揚台はまだ無い。
絵画館前広場(国旗掲揚台下)から望む青山口。
二条の歩道が消滅したばかりか、草野球場の利用者以外は立入禁止。「いちょう並木へは通り抜けできません」
それでも「広場」としての空間は辛うじて保たれている。
しかし、その背後には高層ビルが目立つ様になった。
写真②
写真③   Google Earthより

景観の中に高層ビルが目立つ様になったと言っても、❷❸❹を除いていずれも青山通りの向こう側で、外苑から距離のある立地である。青山口の真正面はさすがに高層化されることはないだろうが、これらは景観的に「残念だ」と言う以上のことはできない。
恐らく青山ツインタワーの頃までは、赤坂御所への憚りがあり、少なくとも窓の向きの配慮があった。高さ規制については調べていないので分からないが、どれも100mを超えない様になっている。パークアクシス青山辺りから歯止めが効かなくなってきた印象だ。青山通りに面しているのといないのとで、規制の仕組みが違うのか?それとも規制の内容が変わったのか。

大変分かりやすい説明GIF。拝借致します。

しかし「残念だ」で済まされないのが、上図の🟥赤色で示される建設予定の高層ビル群。外苑再開発事業に伴い、外苑への憚りなど微塵もなく、あろうことか外苑の内部、隣接地に190m、185m、80mが建設され、既存の❹オラクルビル 113mと連続して「新球場」を屏風の様に取り囲む。中央の190mのビルは、❸伊藤忠商事本社ビルが建替で90m→190mとなるもの。
「新球場」自体にはホテルが併設され、ショッピングモール(ららぽーと的なものか?)も出来るのだそうだ。
超高層ではないが、新「ラグビー場」も、外苑の秩序内では許されない高さの建築だ。旧国立も「外苑」が物言いをつける中で「高層」となり、新国立では紆余曲折の末にこんな事になってしまった。まるで路上に置かれた粗大ゴミの様な違和感を覚えてしまう。
五輪の度に侵食され続けてきた外苑にとって、トドメとも言える致命的な再開発事業だ。
絵画館からの展望だけでなく、苑内各所からの眺望も著しく損なわれてしまう。更には日影問題もあり、新球場、銀杏並木が日影となるばかりか、お隣の赤坂御所内深奥までも日影は伸びる。


周辺にはもっと多くの高層ビルが存在するが、キリがないので、写真②に写っているビルだけを写真③と以下に紹介する。観光地の案内板の様に、「あのビルは何のビルだろう?」という時に役に立てば。又は景観移り変わりの記録として。

❶【新青山ビルヂング(新青山ビル)東館・西館】青山ツインタワーのこと。昭和53年(1978)10月 23階94.100m

❷【青山ビルヂング(青山ビル)】昭和47年(1972)3月13階 50.3m

❸【伊藤忠商事東京本社ビル】昭和55年(1980)10月 22階 最高部高さ90.900m軒高90.15m 建替後の新ビルは地上38階、高さ約190m。
再開発事業の一環として、高さが2倍になる。

❹【青山OM−SQUARE】日本オラクル(株)本社平成20年(2008)7月 25階、最高部高さ123.990m軒高113.600m

❺【パークアクシス青山一丁目タワー(N棟)】
平成19年(2007)3月 46階 最高部高さ172.39m建築物高さ163.72m軒高163.42m

❻【ホンダ青山ビル】本田技研工業(株)本社
昭和60年(1985)8月 17階72.12m(塔屋1階を含まない)
☆現在、20階を超える超高層ビルへの建て替えを検討しており、2025年頃の着工予定。
仮に25階として、72m÷17階×25階≒105m  
100m級のビルになりそうだ。

❼【パークコート青山ザタワー】平成30年(2018)3月 26階99.99m(最高105.04m)

❽【楽天クリムゾンハウス青山】平成15年(2003)5月 17階88m

❾【六本木ヒルズ森タワー】平成15年(2003)4月 54階、塔屋2階高さ238.06m
写真①で、❾の右隣に写っているのは、【六本木ヒルズレジデンスB 】43階159.18m
ツインタワーの内、Bが西側、Cが東側。

➓【ミッドタウン・タワー】平成19年(2007)1月 54階248.1m

❻❼❽の間に、建替工事中の区画がある。
【POLA青山ビルディング】16階86.50m竣工2023年12月31日予定(公式HP:2024年春予定)
既存ビルは地上12階51.4m。


高層ビルの各種情報は、こちらの「超高層ビル部」様のサイトから引用致しました。ありがとうございます。


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