《短編小説》ノンフィクション
『xx日、〇〇区の路上で女子×学生が遺体で発見された事件について、今日午後3時頃、同区の交番に犯人を名乗る男が出頭しました。調べに対し男は「首輪をしていたから運命の番のオメガだと思った。運命の番なら相手も好きなはずだと思い襲ったのにベータだったため焦って殺してしまった」と供述しています』
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第二の性なんてフィクションの世界ならいいのに。
健康診断のたびに、右上に書かれたΩのマークがチラついてため息が出る。負け組の遺伝子。忘れもしない、私がオメガと判明した日の、泣き崩れる両親の顔。なぜか二つ持たされる防犯ブザーと、可愛くない首輪は犬みたい。学校に一人や二人、オメガはいるけどベータの男子たちがたまに私を見てひそひそ話しているのを知っている。
「この首輪外せたらなぁ~」
「いや外しちゃダメでしょ」
首輪に指をかけてかちゃかちゃ鳴らす私に、ハルが突っ込んだ。
「でもさぁ、首輪があるからオメガってバレるんだよ? あるほうが危なくない?」
「えー……、そりゃ通りすがりのベータ相手ならいいだろうけどさ。アルファとか夏希がオメガって知ってる人相手ならやっぱあった方がいいって」
「……いいなぁ、ハルはベータで」
「リアクション困るっつの」
ハルに小突かれる。ハルは優しい。私なら、こんなリアクションに困る人間とは付き合いきれない。
「あっ、来週夏希の誕生日じゃん」
「そうだよ、なんかくれんの?」
「お揃いの首輪買いに行こうよ」
「オメガ用の首輪、オシャレ用とは違って高いよ」
ふっふっふ、とわざとらしく笑ってスマホを突き出してくる。オーダーメイドで首輪の装飾を作る店のホームページだった。その辺の店で買うのとは段違いに可愛い、フリルやレースがふんだんにあしらわれている。
「ここで飾り付けしてもらって、私は同じデザインの作ろうかなって。どう?」
「買ってくれんの?」
「来年期待してる」
こういうとき、バイトしてて良かったと思う。これは来年の誕生日プレゼント選びのハードルがぐんと高くなったが、嬉しいプレゼントだと思った。ハルってやっぱいい人だ。大事な友だちだと思ってくれてるんだろうなって思わせてくれる。
「じゃあ決まりだ! 今週末買いに行こ」
「うん、ありがとね」
「ふふ、来年期待してんのよ」
ハルがアルファだったら、私は狂っていたかもしれない。
首輪をかちゃかちゃ鳴らすのはクセになっていた。でも今日は、首輪に触れるとほんの少し心が踊った。
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