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パブロンゴールド90錠飲んで、救急搬送された話。


朝、いつものように
パブロンゴールド(以下、金パブ)を30錠
水で流し込む。
20錠で足りていたそれは
いつからか、25錠になり、
そして30錠が当たり前となり
30錠でも効いているのか分からなくなっていた。

でも、それを
習慣のようにわたしはその日も
水で飲み干してから
病院に向かった。

わたしの通う精神科、特に主治医の診察は
いつも混み合っていて
9時予約でも8:20より前に着いて順番を取っている。
その日もいつものように
再来機にカードを通してから
まだ開いていない外来の、外の待合室で
同じく早く来た友だち数人とおしゃべりをして
診察を待った。

その時すでに金パブは効いていなくて
頭の中で
「死ななきゃ」
という声が溢れ始めていた。

だけど、診察のとき
わたしはそれを主治医に言えなかった。
入院って言われるのも
これ以上金パブ飲むことを恐れて、金パブを取り上げられることも怖かったから。
言えていたら何か違っていたのかな、と
いまでも思う。

そろそろ肝機能見たいから採血をしよう
と言われて
採血をしてから
また友だちと合流してお喋りして
12:00過ぎに
薬局に向かうために病院を出た。

そして駅のトイレで
持ち歩いていた金パブ20錠を
自販機で買ったお水で
追加で流し込んだ。
「死ななきゃ」に飲み込まれそうで
その思考から逃れたかったから。

電車に乗って薬局に向かう。
でも薬は少しも効いてこない。
頭の中には
「死ななきゃ」が溢れてる。
どうしよう、どうしよう
手持ちの薬はもうない。
ドラッグストアで買ってしまったら、際限なく飲んでしまいそうで怖い。

薬局に着いて
薬剤師さんに相談をした。
買いたい衝動と、飲みたい衝動があること。
たくさんいろんな話をしたはずなのに
そのやりとりしか覚えていない。
そのくらい気持ちは切迫していた。

「大丈夫だよ。買っても飲まなきゃいいんだし
買わずにすむかもしれないし。大丈夫」

そう薬剤師さんに言われても
不安は少しも拭えなくて
不安でたまらなくて
いつもはすぐに帰れるのに
薬局から出る時に、思わず
「ハグして」
って言ってしまった。自分からそう言うのは初めてだった。
薬剤師さんにぎゅっと抱きしめてもらっても
不安は消えなくて
でも、その不安を押し殺して
無理やり笑って「また木曜日ね」って手を振って
わたしは歯医者に向かった。

時間が押していたから
歯医者へはまっすぐ向かえた。

だけど、歯医者の帰り道
ドラッグストアの前を通った時
衝動的に
お水と金パブを手に取ってレジに並んでいた。
その時のことをふんわりとしか覚えていない。
気づいたらわたしは
金パブとお水を手に、田園都市線のホームに居た。

まだ、もうひとつ病院に行かなければならなかった。
だから薬をこの駅で飲んではいけない。
そのくらいの理性はまだあった。
でも、薬のことが頭から離れなくて
鞄にしまった金パブを何度も何度も確認してしまった。

渋谷にあるクリニックに着いて
診察が終わったのは18:50頃。
「死ななきゃ」という気持ちは頭の中を埋め尽くしていた。
会計に呼ばれるのも待てずにわたしは病院のトイレに駆け込んで
金パブを開封して
40錠、追加で流し込んだ。
5錠ずつしか飲めないから
とても時間がかかって
途中で何錠飲んだか分からなくなったから
たぶん、40錠。

そして
会計を終えて外に出てから急に不安になった。
18:59。
まだ薬局につながる時間。
縋るように電話をかけた。まだ居てくれと願いながら。

薬剤師さんはまだ居てくれて
「90錠」と言った時
ほんの一瞬息を呑む音が聞こえた。
あ、やばい、と思った。
でも、薬剤師さんと話してるうちに気持ちは落ち着いて
何とか渋谷から帰れそうな気持ちになった。
病院の処方箋を送っていたから
「また明日ね」と言って電話を切った。

そして夜電話をする約束をしていた友だちに
「金パブ90錠トータルで飲んじゃったから
今日の電話は難しそう。ごめんね」
って、送った。まだ事態の深刻さに気づいていなかった。

友だちからは
「大丈夫!?90錠はやばいよ、病院行った方がいいと思うよ…ゆっくりしてね」
「ちなみに金パブは分からないけどルルは65tでアセトアミノフェン中毒って言われたよ」
「他の薬と合わせて90t飲んで救命センター運ばれてアセトアミノフェン中毒だって言われて、ちなみに拮抗薬は70tから検討されるみたい 65tでも透析検討されたよ…」
って返ってきて
ようやく事態を飲み込めてきたけれど
それでもまだ、薬剤師さんが救急車って言ってないし
って思いがあった。

家に帰ってから吐き気に急に襲われて
そのまま横になって動けず
かといって眠れず、深夜1時くらいになってしまった。

そのとき、
相談していた別の友人から
「気づくの遅くなってごめんね」
って返信がきた。
そこに「病院電話してみたらどう?」
と書かれていて
わたしはかかりつけ精神科の夜間に電話をした。
夜勤の先生は錠数を聞いて
「致死量ではないから、大丈夫だと思うけど、不安だったら救急車呼んだらいいんじゃない?」
って言って、お大事にね、と電話を切った。
その時、「90錠、、9gか」と電話の向こうで言っているのが聞こえて
はじめて「9000mg=9g」とつながった。

「アセトアミノフェン中毒 量」
とググった。
成人は7.5g以上
と出てきた。
やっとここではじめて事態の深刻さに気づいた。
取り返しのつかないことをしたと思った。

それでも、母親に金パブを飲んでいたことを打ち明ける決心がつかず
病院に電話することを提案してくれた友人と
しばらくやり取りを続けた。
そして、
「私はずっと味方だよ」
って言葉に背中を押してもらって
やっと母親に話せて
救急車呼べたのは外がすっかり明るくなってからだった。

救急隊に90錠飲んだとわかるものを出してと言われて
そんな時ですら金パブを手放したくなくて
捨てたと嘘をついたわたし。
結局、自己申告90錠で搬送してもらえることになった。

病院まではあっという間だった。
採血をされて、点滴をされて
そして
アセチルシステイン(拮抗薬)を飲みましょう
という結論になった。

アセチルシステインというのは
硫黄強めの温泉みたいな匂いと味のするお薬で
経口か、それができない場合は鼻から管を入れて服用する。
わたしは
オレンジジュースに溶いて飲んだ。
美味しいとは言えなかった。
口の中にいつまでも硫黄の味が残った。

ちなみに
いつかアセチルシステインを病院で扱う看護師さんがこれを読んでくれていたら
参考にしてほしいのだけれど
オレンジジュースなら何でも良いわけではなくて
酸味と苦味が強めの、
トロピカーナの330mLのオレンジジュースがわたしには合っていて
量も、アセチルシステイン1本(20mL)に対してオレンジジュース150mLがちょうどよかった。
違うオレンジジュースで飲んで一度吐きかけたから、混ぜるオレンジジュースはけっこう重要。

ひとりで居る時間が長かったから
いろんなことを考えてしまった。

もっと違う声かけをしてたら…って薬剤師さんが後悔してたらどうしよう。
30錠なら死ぬよりマシだから飲んでもいい、って言った主治医を後悔させてないかな…。
また訪看さんを心配させてしまったな…。

何で90錠も飲んだんだろうって後悔しかなくて
苦しくて
何度も布団の中で声を出さずに泣いた。
帰りたい
死にたい
致死量飲めばよかった
死にたくない
いろんな感情でぐちゃぐちゃで
挙句、声を聞きたいのにスマホが使えないから電話もできず
がんばるモチベが保てなくなって
何度目かのアセチルシステインをわたしは拒否した。

拒否したと聞いて
少しだけ仲良くなっていた看護師の小磯さんが
様子を見にきてくれて
「かずみちゃん、飲もうよ。時間決まっててこの時間に飲まなきゃだしさ。何で飲めない?理由教えて」
って私の声を聞こうとしてくれた。

だから感情が溢れてしまった。
死ねばよかった
何のために頑張ればいいか分からなくなった
迷惑しかかけてなくて死にたい
飲む意味がわからない
もうやめたい
つらい、しんどい、苦しい
泣きながら溢れる感情のままに吐き出した。

そしたら
「どうすればもう少しがんばろうって思えるかなあ」
って小磯さんは聞いてくれて
「スマホの裏に挟んであるメッセージカード見たい」
と言った。
それは、わたしの大切な訪看さんが書いてくれた
可愛くて大切なメッセージカードで
会えないなら、声が聴けないなら
せめて、それをまた見たかった。
そしたら、小磯さんは「分かったよ。待っててね」
と言ってわたしのスマホを持ってきてくれて
「これ見ながらがんばって飲もう」と言ってくれて
飲んだあともしばらくそばにいてくれて
わたしはスマホのメッセージカードを眺めながら
一緒に話をした。

あの時、小磯さんが話を聞いてくれて
本当によかったと思っている。
寄り添ってくれて、救われた。

それからも何度も小磯さんは
一度も担当にならなかったのに
1日1回は様子を見に来てくれて
わたしの
罪悪感や揺れる気持ちに寄り添ってくれた。
「がんばらなくていいんだよ。」
って何度も言ってくれて
「かずみちゃんは、笑顔が素敵なんだから
笑ってくれることがわたしは1番嬉しいよ」とも。

水曜日。
約束をした。
「木曜夜勤だからさ、それまでに、よかったことを5個見つけておいてよ」
って。
そして木曜の夜、様子を見に来てくれて
しばらく私のベッドの横でパソコン作業をしながら
そばにいてくれた。
もちろん、よかったことも5個聞いてくれて
6個目も見つけてくれた。

1人で布団の中で泣くことは何度もあったけど
泣き方を忘れていた時よりは心は楽だった。
薬剤師さんが前に言っていた「たくさん泣いたほうがいい」は本当だな、と思った。

退院の日。
夜勤だから9時上がりなのに
小磯さんはわたしが帰るまで待っていてくれた。
下のフロアまで見送りにきてくれて
別れる前にたくさん話して、ハグをした。
もう会わない方がいい人だけど
でも、いつかまた会いたい、と思った。
その時は違う形で。

わたしは今回、市販薬odを処方薬odくらい
軽く考えていた。
100錠飲んでも死なない処方薬と同じくらいの気持ちで、金パブを90錠飲んだ。
主治医の「金パブだけはやめてほしい」という言葉は聞いていたようで、ちゃんと心に届いていなかった。

アセトアミノフェン中毒は
本当に命に関わるし
それは簡単には死ねなくてじわじわと苦しくなる。
そして
拮抗薬飲むのも、吐き気も
離脱症状と思われるものも全部がしんどい。
殺してくれ、と思うくらいには。
だから
金パブ飲もうかな、と安易に考えないでほしい。
安いから、とコスパだけで選ばないでほしい。
一度手にしたら手放すのにはとても時間がかかる。
今でもわたしは
まだ完全に手放せたとは思っていない。

金パブやメジコンを飲んだことや錠数は
簡単にSNSで見つかるけれど
それで死にかけた話は驚くほど少ない。
だから
簡単に手が出せてしまう。

これを書くかすごく迷った。
でも、
もしいま金パブに手を出すか迷っている子の
1人にでも届いて、踏みとどまってもらえたらいいなと思って書くことにした。

いま、わたしは生きていてよかったと思っている。
死ななくてよかった。
生きているから
薬剤師さんや訪看さんに会える。
そう思えた気持ちを大切にしたい。

たくさん心配かけてごめんなさい。
驚かせたり、血の気が引く思いをさせた人
ごめんなさい。

だからせめて
この経験を無駄にせず
この先を生きていくのに、いかせたらいいな
と思っている。

最後に
入院中いちばん心の支えになったのは
薬剤師さんが無期限で貸してくれているお守りだった。
人の優しさって、心を支えてくれるね。
ありがたいね。
大切にして、いつかちゃんとお礼がしたいな。

大好きで大切な人たちへ。
これからも支えてくれたらうれしいです。




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