連続対談「私的占領、絵画の論理」について。その7「有原友一展と「私的占領、絵画の論理」に、それぞれ潜む危険」

昨年末、永瀬の「一人組立」とART TRACEの共同企画として始まった、画家二人による絵画をめぐっての連続対談「私的占領、絵画の論理」が、来る6月26日に再開されます。「私的占領、絵画の論理」という言葉の意味についてはこちらの記事をお読みください。

連続対談「私的占領、絵画の論理」について。その4 「私的占領」とは何か。
連続対談「私的占領、絵画の論理」について。その5 極端に楽天的な「絵画の論理」

また、休止期間中の、この企画に関する考え方はこちらに書きました。

いま芽生えている「絵画の論理」と「私的占領」地帯のために──連続対談シリーズ「私的占領、絵画の論理」の現状と考え方について──

いずれにせよ「私的占領、絵画の論理」を含めた各種アートイベントや展覧会が中断されていた中でも「絵を描く」「作品を作る」という営みは、作家たちによって延々と続けられてきたことは間違いありません。それがファインアートか否かという問いはここではまったく無関係です。多くの人が「発表」「展示」といった“社会的な次元”というものから切り離された、「描く」「作る」という制作それ自体が独立したような時間を、数か月間、もった可能性がたくさんあります。

このような、社会性から一定の距離を持った環境というのは、とても貴重です。誰にどう見られるかが、作品それ自体とぴったりくっついている状況は、作品にとってけして健全な状態ではないと僕は思います。逆に作用することもありますが、今のように、作品を作ることが経済的な「生産性」などという手あかにまみれた言葉と一体化してしまった中では、より重要な環境だったと思います。誰にどう見られようと・あるいはそもそも誰にも見られなくても、作品が内的動機から作られ始め、内的論理によって出来上がること──こういった、作品制作の基本的骨格が露わになる状況で生まれた作品には、独特の強さがあるのではないでしょうか。

今回は有原友一さんの個展会場で、有原さんご自身からお話を伺います。文字通り、ウイルス禍の中で描きつがれてきた作品たちを見ながら、絵について、絵を描くということについて、絵を描き続けるということについて、対話をしたいと思っています。

第二回「終わらない描きについて」 ─ 有原友一 ─

楽しみです。要予約ですので、関心ある方はぜひ。
有原友一さんは1976年生まれ。武蔵野美術大学大学院を修了後、持続的に制作と発表を行っています。昨年、グループ展・アズマテイプロジェクト#08『絵画へ向けて』に参加され、意欲的な大作も展示されていました。ART TRACE Galleryでは多くの個展とグループ展を開催されていますが、これもやはり昨年の「方法と進行」展にも参画されています。僕個人としてはこの展覧会では小品に、有原氏特有の判断基準の高さを感じました。個展としては、2018年のものが美術手帖のweb版に記録があります。

アズマテイプロジェクト#08『絵画へ向けて』
有原友一 個展

一見トリビアルな、しかし、現状において看過できない、重要な話があります。ART TRACE Galleryでの有原さんの活動を追っている人々にはうすうす知られていることなのですが、有原さんは個展期間中に、気象現象などの理由で展示が中断することが多々あります。もっとも鮮烈だったのが2011年の東日本大震災での展覧会中止という出来事です。これ一回ならまだしも、2013年1月には大雪で、そして2014年2月にもまた荒天で展覧会が一時的に中断しています。今回の有原展も本来は3月に開催予定であったのが、見事にコロナウイルスの影響を被り、この6月まで延期されたわけです。

正直、僕は「有原ジンクス」によって、また展示そのものがなくなってしまうのではないかと危惧していました。今回、時期はズレたとはいえこのように、きちんと展覧会が開かれたことは大変に喜ばしく、ほっとしています。とはいえ、油断は禁物です。ウイルス感染状況が落ち着きを見せ、緊急事態宣言は解除されたとはいえ、第二波の恐れは常にあります。「東京アラート」なるものはまったく医療的な根拠を欠いた、東京都知事による恣意的で何の指針にもならない政治ショーですが、しかし、実際にウイルス感染というのはまったく人の介入を許さない現実として今もあります。状況によっては、有原さんの個展も、そして当然「私的占領、絵画の論理」も、改めて中断してしまう可能性は大いにあります。

今までの事例を見れば、展覧会の中断やトラブルは、まったく予期していないところから来るかもしれません。例えば関東は先日梅雨入りしましたが、近年の気候変動をみれば、大雨による会場冠水くらいは容易に想定できます。とにかく「有原展は何かが起きる」。気は抜けません。

ここで、さらにもう一つ、有原友一展のジンクスとは別に今回の「私的占領、絵画の論理」にも、小さな問題点があります。もっとも、これは誰にも何も言われていないにもかかわらず、僕が一人で勝手に気にしていることでしかありませんが、しかし、それはやはり「問題」だと思うのです。それは、有原友一さんが、共同企画であるART TRACEの一員だということです。

僕としては十分な根拠をもって、ART TRACEと共同企画として有原さんにお話しをお伺いするつもりですが、一応、この点については触れておきたいです。(続く)

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