散財記⑦ オールデンのプレーントゥ
色々なモノを買ってきた。「一生モノ」と思って買ったモノもあれば、衝動買いしたモノもある。そんな愛すべきモノたちを紹介する「散財記」。7回目はオールデンのプレーントゥだ。
靴が好きである。
プロの散財家になったのも、元はと言えば靴が原因だ。
「良い靴を履きなさい。 良い靴は履き主を良い場所へ連れていってくれる」というイタリアのことわざがあるが、私の靴たちは、プロ散財家という未知の領域に私を連れて行ってくれた。
「セックス・アンド・ザ・シティー」でサラ・ジェシカ・パーカー演じる主人公キャリー・ブラッドショーが、何かある度に”Shoes ♪”と言ってマノロ・ブラニクやらクリスチャン・ルブタンやらのパンプスを大人買いしているのを見て、「ニューヨーカーは良く分からん」と思っていたが、初老になってみると全く同じことをやっている。洋の東西を問わず、靴が連れて行くのは、散財というデスロードなのだろう。
試しに所有している靴を数えてみる。(順不同、敬称略)
① オールデン(53501 バーガンディー)
② J.M.ウエストン×2 (ゴルフとシグネチャーローファー)
③ グッチ(ビットローファー)
④ ニューバランス×2(m1500とm990v5)
⑤ ヴァンズ×2(オーセンティックとスリッポン)
⑥ コモンプロジェクト(アキレス)
⑦ アディダス(ジャーマントレーナー)
⑧ジョン・ロブ(ウィリアム)
⑨山陽山長(琴之介)
⑩レッドウィング(アイリッシュセッター)
⑪スコッチグレイン(チャッカブーツ)
他にもあるが、とりあえずぱっと思い出した靴だけでこれだけある。キャリーならずとも、10年以上靴好きをやっていると、こんなに増えてしまうものなのか。我ながら呆れる。履き潰した靴もあるから、一体幾らつぎ込んだのか見当もつかない。「江戸の履き倒れ」とは良く言ったものである。
その最初の一足となったのが、オールデンだ。銀座のバーニーズニューヨークで購入したことを覚えている。直前までN県で一緒に働いていた他社の先輩家族と食事をしており、お酒の勢いもあって、「よしオールデン買うべ」となり、そのまま店に突撃した。なぜそうなったのかは全く記憶にない。気づいたら、バーニーズの地下で店員さんと話し込んでいた。げに物欲とは恐ろしきかな、である。本当に怖いのは昼間に飲む赤ワインなんだろうけど。
色々とお話した結果、店員さんに選んでもらったのが、上記のプレーントゥである。店員さんもオールデンのファンで、奥から私物だというオールデンを持ってきてくれたのだが、これが実にカッチョ良かった。聞けば10年ほど履いているという。その靴が、実に良く手入れされていて、ピカピカに輝いている。正直、こんなにカッチョ良い革靴は見たことがなかった。さすが一流アパレルショップ店員は違うと、妙なところで感心した。
「ちゃんと手入れすれば、こういう感じになりますよ」と言うので、もう「ください」「ちょうだい」で即決した。色は定番のバーガンディーにした。当時の価格は10万円くらいだったが、現在は倍になっている。当時からおいそれと手が出せない靴だったが、ますます高値の……もとい、高嶺の花になってしまった。今だったら絶対に買えない。ファッション好きには辛い時代である。それでも果敢に挑戦していくのが、プロ散財家の矜持なのだが。
さて、件のオールデンである。履いてみて驚いたのが、その履き心地である。革靴の堅さはもちろんあるが、足型が絶妙なのか極めて歩きやすい。元々が矯正靴を作っていたメーカーだからか、土踏まずのシェイプの感じがたまらない。某メンズファッション誌Bによると、「ここんちの靴は履いたまま走れる」そうだが、その表現も頷ける。
頑丈さも折り紙付きだ。10年以上履いているが、全く壊れない。自分のモノは必要以上に甘やかさない主義だが、オールデンはその期待に見事に応えてくれている。オールデンにまつわる話として、下ろす前に鉛筆を当てて皺の形を決めるとか、雨が降ってきたら履き替えるとか取り扱い注意的なことが言われているが、個人的にその必要は感じない。買ってきて、そのまま歩いたし、雨の時もそこまで気にせずに履いている。そもそもアメリカ製だし、繊細に扱うモノではない。
もちろん、コードバンの特性上、水濡れには注意しているし、さすがに朝から雨の日には履かないが、それでもちょっと雨に降られたくらいではどうってことはない。シミができても、それもまた味である。傷も特に気にしない。履いて自転車にも乗る。ひっかき傷程度なら、根気よくクリームを塗れば目立たなくなるものだ。
10年も履いているから、妙な所に妙な傷やシミができている。それが当たり前なのだ。モノは死蔵せず、きっちり使い倒すことが、プロの散財家のマナーである。
かっちりした格好にも、くだけた格好にも不思議とすんなりはまるオールデン。最近、ルナサンダルに押されて出番が減っているが、このまま生涯履き続けるであろう一足である。
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