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「週刊読書人」(2024年8月30日号)に申京淑『父のところに行ってきた』(姜信子・趙倫子訳、アストラハウス)の書評を書きました。


申京淑さんと言えば『母をお願い』が有名ですが、今作は父について書くことで誰も知り得なかった社会の痛みを探る物語。父と久しぶりに暮らすことになった〈私〉が、ひと知れず夜中に涙を流している彼の人生を辿りなおしながら、堰き止められていた涙の根源にあるものを見つめていくんですね。

ただ書評では、父の物語であるのと同時に、現代の韓国社会で娘を喪失した母としての〈私〉の回復の物語でもある、と読みました。

というのも、語り手の〈私〉が娘を失った過去を持つのは早々に語られるのですが、慎重に時系列を遡ると、それが2014年の出来事だとわかるからです。つまり、セウォル号事故のあった年のこと。

もちろん語り手とその娘はこの事故には関係ありませんが、同時期に深い悲しみを抱えることになった韓国の人々と同様に、癒えない傷を抱えながらそれでも生きていくために言葉を紡ぐことの意味を、申京淑さんはこの小説を通じて考えたのではないかと思ったわけです。詳しくは書評をご覧ください。  

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