できるだけ認知症にならないようにする為に,認知症の進行を遅らせる為に

私の祖母はアルツハイマー型認知症であった.
祖母は私のことをとても可愛がってくれたが,認知症が進行するにつれて,家族のことも,もちろん私のこともわからなくなっていった.
あの大好きだった祖母はどこに行ってしまったのだろう.
そんなことを思っているうちに,人を人たらしめるものは何だろうと思うようになった.
それが私が脳神経内科医になったきっかけの一つであった.

認知症の患者を診る時に,私はこの人に家族を忘れさせたくない,家族にあんな想いをさせたくない,と強く思いながら診察をしている.
その為に,私ができることは何でもしようと思っている.
しかしながら,一般臨床医である私にできることは多くはない.
専らコリンエステラーゼ阻害薬あるいはメマリーの投薬だ.

だから,他の因子について指導するようにしている.
例えば,高血圧症,脂質異常症,糖尿病の管理をしっかりするなど.
この3疾患は脳梗塞や心筋梗塞の危険因子としてお馴染みだが,認知症の危険因子でもある.
オスラー博士の言葉通り,人は血管と共に老いるのだ.

あとは喫煙と睡眠時無呼吸症候群.
これらは同じく血管の危険因子であり,認知症の危険因子だ.

運動も大切だ.
発症率を低下させるし,進行も抑制することができる.
特に東京都健康長寿医療センター研究所 青柳先生の中之条研究で報告されているように1日8000歩を無理なく,転倒しない範囲で目指すように伝えている.

ただ,数独やパズル等の所謂認知訓練の有用性にはついてはやや懐疑的ではある.
有用と結論付ける論文も有意差はないと結論付ける論文もある.
有用と結論付ける論文にしても交絡因子が多い為,本当に有用か判然としない.

以上から言えることは,血管の危険因子を治療することが認知症の危険因子を治療することに繋がるということだ.
上記を踏まえ,患者には血管危険因子の管理と運動を励行するよう指導している.

医療というものは,医師だけで行うものではない.
医師と患者が協力して行うことが大切だ.
その為には,無理にとは言わないが,患者も勉強した方が良い.

この記事では認知症の発症予防,進行予防について私の所見を認知症疾患診療ガイドライン2017 第4章 p118-136に準拠して記載したつもりである.
(https://neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_04.pdf)
もし興味があれば,是非ガイドラインも読んでいただきたい.


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