それって本当にアルツハイマー型認知症?

以前の記事にも書いたが,現在アルツハイマー型認知症と診断されている人の中には,アルツハイマー型認知症ではない人がいる.

もしアルツハイマー型認知症でなければ,一般的なアルツハイマー型認知症治療薬であるコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト(ドネペジル),レミニール(ガランタミン),リバスタッチパッチorイクセロンパッチ(リバスチグミン))はほとんど効果がない可能性がある.

以下にアルツハイマー型認知症に似た4つの疾患について記載する.

①嗜銀顆粒性認知症
高齢者における嗜銀顆粒性認知症の頻度は約5-9%と推定され,決してまれな疾患ではない.
(認知症疾患診療ガイドライン2017 第11章 嗜銀顆粒性認知症p295: https://neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_11.pdf)
以下,上記文献から特徴を抜粋すると,①記憶障害と共に性格変化,暴力行動などの行動・心理異常が見られる②緩徐な進行③コリンエステラーぜ阻害薬の効果は限定的④CTやMRIの形態画像所見で側頭葉内側面前方の左右差が顕著⑤海馬傍回の萎縮の程度がMMSEに比して高い⑥SPECT等の機能画像で左右差を伴う側頭葉内側面の低下,となる.

また,他文献の記載では記憶や認知機能障害は比較的軽度に留まり,ADLも保たれる傾向にある.経過中に焦燥,不機嫌,易怒性,異刺激性などの情動面での障害が出現しやすい,との記載もある.
(高齢者タウオパチー(嗜銀顆粒性認知症,神経原性変化型)の臨床: https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/49/3/49_281/_pdf)
また,治療法を抜粋すると,特異的治療法はなく,実際はアルツハイマー型認知症に準じた治療が行われるが,コリンエステラーゼ阻害薬の効果はアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症ほどは期待できない.嗜銀顆粒性認知症が疑われた場合でも,アルツハイマー型認知症あるいはその合併の可能性を想定し,それに対する治療をしているのが現状である.

②PART(primary age-related tauopathy)
病理学的にはアルツハイマー型認知症と同様に海馬領域を中心に多数の神経原線維変化を有するが,老人斑をほとんど欠く一群のことを言う.
記憶障害を主徴とするのは変わりないが,こちらは人格は保たれ,記憶障害以外の認知機能は比較的保たれる.画像所見はアルツハイマー型認知症と同じく海馬の萎縮や側脳室下角の拡大が見られる.アルツハイマー型認知症との鑑別にはアミロイドイメージングが有用である.嗜銀顆粒性認知症や血管性病変などとのオーバーラップがしばしば見られる.コリンエステラーゼ阻害薬の効果や反応性のアルツハイマー型認知症との違いは検証されていない.臨床経過はアルツハイマー型認知症と比較して非常に緩徐である.
(認知症: Update 神経治療 Vol. 35 No. 3 (2018) 157-161: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/35/3/35_157/_pdf/-char/ja)
(神経原線維変化型老年期認知症 BRAIN and NERVE 70巻5号 2018年5月)

③LATE(Limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy)
一番有名な論文はこちら.
(Limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy(LATE) BRAIN, Volume 142, Issue 6, June 2019, Pages 1503-1527: https://academic.oup.com/brain/article/142/6/1503/5481202?login=false)
簡単に要約すると,TDP-43でもアルツハイマー型認知症と同様の認知機能変化を来たし,大規模なコミュニティベースの剖検シリーズに拠ると,80歳を過ぎた人の20%以上(最大50%)に認められる,ということ.
こちらも病状の進行はアルツハイマー型認知症より緩徐とされており,アルツハイマー型認知症に対する治療薬はLATEに対して有効でない可能性がある.
(https://www.theguardian.com/society/2019/apr/30/dementia-mimics-alzheimers-late-symptoms-discovered)
簡単に読むならこちらのサイトに詳しい.
(https://gigazine.net/news/20190509-new-type-dementia-identified)

上記の記載で分かったかもしれないが,これらの疾患を実臨床で確定診断をつけることは難しく,症例の蓄積と研究の進展が待たれる.

何故このような記事を書いたかと言うと,認知機能検査で認知機能の低下が軽度に留まる軽度認知障害(MCI)の患者に対する治療の難しさからだ.

ここに記載した疾患はいずれも進行が緩徐であり,既存の認知症に対する薬(コリンエステラーゼ阻害薬)の効果がはっきりしない.
そのような患者においてどのように治療するのが良いかいつも悩むところではある.

周りを見渡しても早期からコリンエステラーゼ阻害薬を投与する医師もいるし,一年程度経過を観る医師もいる.

コリンエステラーゼ阻害薬は一度飲み始めるとやめ時が難しい薬である.
コクランレビューでも同様の記載がある.
(認知症患者における抗認知症薬の中止・継続について: https://www.cochrane.org/ja/CD009081/DEMENTIA_ren-zhi-zheng-huan-zhe-niokerukang-ren-zhi-zheng-yao-nozhong-zhi-ji-sok-nituite)

しかし,上記のような疾患が隠れていることを考慮すると,MCIの場合,最初の認知機能検査後,半年から一年後のフォローが望ましいような気がするし,保険診療上も望ましい気もする.
また,もし効果がほとんどないのであれば,患者に毎日内服していただくことになるし,保険診療と言えど,金銭的,時間的な負担もかけてしまうことになる.

しかしながら,一度進行した認知症は不可逆であることを鑑みると,早期からの投与開始が望ましい気もする.
日々の診療でそのようなことを悩み,考えながら診療している.

認知症疾患診療ガイドライン2017を紙で読みたい人へ.




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